その理由を教えて(3-5) | ななちのブログ

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このブログは、スキップビート好きの非公式2次小説作成SS中心です。作品については、あくまで個人の趣味で作成しています。
馬車馬のごとく働く社会人ですので、更新スピードは亀ですが、よろしければお読みください☆

 ぽたり、ぽたりと少女の顔面に落ちる雫。

 透明な『ソレ』を、彼女は拭いもしなかった。

 

 大きく見開かれた両の瞳に移るのは、男の姿。

 顔色の悪いその男は、随分と歪んだ顔をしている。

 その男の瞳からは、新たな雫が落ち、彼女の頬を濡らす。

 

「っう………。」

「つ、つるがさ……ん……?」

「ううう……。」

 

 獣のような唸り声。

 自分で出した声だというのに、聴いたことがない音だった。

 低く、掠れた、つぶれたような声。

 

 唸りながら、俺は彼女の左胸の肋骨の下にある…心臓の上に、右手をのせる。

 

 ビクリ、と身体を跳ねさせた少女。

 薄い皮と骨を隔てて、ドクドクと手の平に伝わる、生命の脈動。

 

 滲んで歪んだ、色あせた世界だというのに、彼女は美しかった。

 

 獣のように唸る男に押し倒され、圧し掛かられて。

 驚いた表情はしていても、そこに怯えは一切ない。

 

 ―――幸せな、1日になるはずだった……―――

 

 それなのに、絶望に叩き落されて。

 それでも、叩き落した人物にしか縋る先はないからと、逃れられないように押し倒し、体重をかけて動けないようにしている。

 

 ―――こんな男を、誰が愛してくれるのか……―――

 

 俺を好きだといった、彼女こそが本当は呪われているのだろう。

 

「のろいでも………」

「え………?」

「いいから………」

 

 口からこぼれ出る言葉は、掠れてほとんど音にならなかった。

 まるで覚えたての言語を話すように、拙く響く日本語。

 

 その言葉を、聞き逃さないようにと、大きな茶色の瞳が俺の唇を見ている。

 

「いっしょに、いて………」

 

 あぁ……情けない………。

 

 でも、これが本心。

 

 俺の抱えるこの想いが、『恋』や『愛』ではなくても。

 彼女の言うところの、『呪い』であったとしても。

 

「きみがいないと、」

 

 その『感情』は、『鶴賀蓮』として生きていこうと決めた『俺』を一度破壊してしまった。

 そして再生した『鶴賀蓮』と『クオン』にとって何より中心に置いたモノは、『最上キョーコ』なのだ。

 

 俺の核ともいえるその存在を奪われたら、きっと俺は……

 

「いきて、いけない……」

 

 死んでしまう。

 

 それは、呪いのような言葉。

 まごうことなき真実ではあるけれど、そんな強烈な思慕を向けられる相手にとっては、強力な枷ともいえる。

 

 ……いや、俺はすでに、彼女に枷をはめている……

 

 俺は、瞬きすら忘れて俺の唇を見つめ続ける最上さんの瞳を見ながら、左手で彼女の右腕をつかむ。

 

 まだ肌寒い季節。

 長袖のセーターで隠されていた腕に、左手を絡める。

 

 そこには、固い金属が、彼女の細い腕にまるで手かせのように嵌められている。

 

 俺が彼女に贈った、誕生日プレゼント。

 

「どこにも、いかないで……」

 

 口から出るのはか細い懇願。

 

 それなのに。

 

 右手で俺が贈った手かせをなぞり。左手で彼女の命の源をなでる。

 

 自由と命を押さえつけた行動は、もはや脅しに他ならない。

 

 俺の気持ちを。俺の想いを否定するのならば。無いものにするというのならば。

                                                                       

―――君の自由を奪って、命すらも俺に縛りつけて。……ここから、逃れられなくしてしまえばいい…―――

 

 いつだって、君へ向ける想いは紙一重。

 

 俺を犯罪者に…君を閉じ込め、俺以外の誰とも接触させることなく、一生俺だけしかいない状況にしてしまうのも。

 俺を幸福な人間に…君を愛し、君や俺の周りにいる人たちとともに笑い、幸せな家庭を築き上げる日々を送るのも。

 

 君の選択次第なのだ。

 

そして今。

確実に、前者のものが選ばれる状況にある。

 

 苦しい。

 

 彼女を不幸にする選択しか選べない自分に、反吐がでる。

 

 それなのに………。

 

 嬉しいのだ。

 彼女を閉じ込められる選択が。

 他の誰の目にも触れさせず、彼女に与えられる全ての変化が俺だけのものであることが。

 

 恐らくそんな生活は長くは続かない。

 

 異変はすぐに気づかれる。

 

 俺はもう、芸能人として…いや、人として、生きていくことはできないだろう。

 

 それでも。

 数日…いや、数時間。一瞬でも。

 

 最上さんの世界が『俺』一色に染まる時がくるのならば。

 

 それでいいと、思えてしまった。

 

「ここにいて………」

 

 それほどの想いを寄せているのに、口からこぼれ出るのは、相変わらずの懇願に近い響きがある。

 

 一体、俺はどうしたいのか…言動がバラバラな自分を、どうすべきかと途方に暮れかけた時。

 

「え?いますよ?」

 

 当然のごとくあっさりと。

 俺の『願い』をかなえる言葉が、愛しい少女の唇から紡がれた。

 
 
 
 

 

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