「……………。どうしたものか……。」
TBM。
順調に行き過ぎた撮影の結果、社さんの計算よりも十分に時間の余裕をもって訪れたテレビ局。
俺が来る前の撮影が押していたらしく、なんと待機時間が1時間もある。
社さんから45分間の休憩を言い渡された俺は、はやる気持ちをおさえるつもりで、人通りの少ないお気に入りのスポットに足を向けた。
しかし、そのお気に入りスポットには。
確かに人は一人としていなかったのだが………。
ずんぐりむっくりの真っ白な身体で真っ赤なトサカのついた頭の、ニワトリがいた。
そして、そのニワトリは……。
「くっ、暗い………。」
自然とそんな言葉が口から零れ落ちるほど、どんよりとした暗いオーラを充満させていた。そんな彼の背後に巨大なブラックホールまである。
「………………。」
思わず立ち去りたくなるほどの暗黒オーラをまき散らす姿を見て、俺の足は完全にその場に固まってしまった。
そして、ふと思い出す。
俺が苦しむとき、彼はいつも現れてくれた。
日本語で分からないことがあるとき。
『恋』や『愛』が分からないとき。
一人では、答えが出せず。だからと言って、相談できるような誰かがいるわけでもなかった。
きっと、俺だってあんな雰囲気だったはずだ。
恐らく『彼』でなければ、声をかけてはこなかったはず。
それならば。
「………ス~~~~……ハ~~~~~…………」
大きく息を吸い込んで。
大きく吐き出して。
「……よしっ!!」
気持ちを切り替えて。
…………そういえば、『彼』と会うのは久しぶりだ…………
「……………。」
落ち込みまくる『彼』の前で、悪いと思いながらも心が少し、暖かくなるのをとめられない。
『友人』とは言えない存在なのかもしれないが、だからと言って彼が困っていたら手を差し伸べずにはいられない。
ついついお節介を焼きたくなる。
きっと彼にとっての俺もそういう存在なのだろう。
そう思えば、なぜか自然と笑顔になってしまう。
「やぁ、久しぶりだね。」
そして俺は、自身が作ったブラックホールに今にも吸い込まれていきそうな空気を漂わすニワトリに、何事もないかのように声をかける。
「っ!!??」
「なんだか随分とひどいオーラをだしているな。」
俺の存在に気付き、息を飲む相手に、いつかのお返しとばかりに言葉をかけていく。
「何か悩んでいるのか?」
「………いや……あの………ぼ、僕は別に……。」
何やら言いよどむ相手に、にっこりと、計算しつくした笑顔を向けてみた。
「悩んでいるよね?」
「……あ、は、はいっ!!」
どうやら『彼』には俺の笑顔の裏に隠された本音を読み取る能力がある。
最初から彼には俺の貼り付けたような笑顔は無効だった。
だったら、『悩んでいるのは分かっているんだ。ごまかそうなんて思うなよ?このチキン野郎』という脅し文句はよく聞こえたらしい。
「いいよ。わかった、再会記念だ。…今更君も俺に体裁つくろう必要なんか何もないだろうし……」
スラスラと、俺の口からこぼれ出るセリフ。
それは俺のセリフではない。以前、ニワトリの救世主が俺に言った救いの言葉だ。
「…話してごらんよ。」
あの時、話を聞いてもらい、もらったアドバイス。
―――敦賀君…っそれが恋の前兆なんだよ…!!-――
その前兆から転がり落ちるように恋をして。
一瞬に深みにはまって、今がある。
もう、彼女を愛していない俺には戻れないし…戻る気も、ない。
今のこの開かれた世界は、確かにあの時の彼の魔法が見せてくれた世界。
だから、今度は俺が。
悩むニワトリに、魔法をかける番だ。
「その悩み。」