『ゴーイング・ゼロ』 アンソニー・マクカーテン | 固ゆで卵で行こう!

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「1ヶ月間、見つからずに逃げきれたら報酬300万ドル」
巨大IT企業とCIAによる共同事業である犯罪者追跡システム〈フュージョン・イニシアティブ〉の実証実験、〈ゴーイング・ゼロ〉βが開始される。
しかし、選ばれた参加者10名のうち1名の存在が、〈ゴーイング・ゼロ〉を思いもかけない方向へと導く事に…。



迂闊だったり、慢心だったり、習慣を変えれなかったり、そして何よりシステムの脅威によって、次々と捕捉されていく参加者たち。

その中でただの図書館員でしかないはずだった女性参加者ケイトリンが、なぜシステムの裏をかくように逃げる事ができているのか。

彼女のスキルと共に追手からどう逃げ隠れするのかというスリリングな展開に目が離せなくなります。

そして実はケイトリン、この実証実験への参加にはある目的があるようで、それが明らかになる後半からは緊迫感もより高まり、一気に最後まで読ませます。

その目的のために強い意志で持って戦う彼女の運命は果たして…。


ところで、なんだかTV番組〈逃走中〉みたいだなという印象をあらすじからは受けますが、こちらは世界中に設置されたカメラや進化したIT機器などを駆使し、逃げ隠れしている参加者を追いかけます。

正直言うと、その辺りに関してはちょっと物足りなかったかなぁ。

こういうのって既に映画などで色々描かれているので、それを超えるようなものは少なく、驚きが薄いというか。

また、システムの開発者で企業のトップであるサイが自ら陣頭指揮をとって最終的な判断をする様子はちょっと違うんじゃないかな、とか、うっすら見えるロマンス要素は不要なんじゃないかなとか、そういった点が読んでいて気になってしまったりも(笑)。


それでも本書は新たな形でもって監視社会への警鐘を鳴らしているのかも知れませんし、何気に話している事も全て筒抜けになってしまう世の中というのは、もしかしたら決して非現実的なものでは無いのかもと思うと、やはり背すじが震えるような恐ろしさが。

特にマイナンバーカードやマイナ保険証への拭えない不信感がある現在の日本では他人事で無い気がしてきます。

また、そもそもは悲劇的な事件や犯罪を防ぐ目的でシステム開発者サイの発する、

「ひどく孤独でたまらないから、プライバシーを漏らしたくてうずうずしている」
「皆が心から望んでいるのは、知られていないことじゃなく、知られていること」

といったような言葉にも、承認欲求が満たされない、満たしたい、そんな今の時代を映し出しているようで印象に残りました。

もしかしたらこうやって感想を書いてアップしているこれも、単に自分の承認欲求のなせるわざなのかも?!(笑)