最初は猟奇殺人の犯人を追う警察小説といった形から、思いがけない展開でまさかの着地点を迎えるので、あらすじも最初の方しか知らない方が絶対に楽しめます。
なので、極力予備知識を入れずに読んで欲しいのですが、表紙のイラストと邦題から想像する冒険小説とは、きっと趣きが違うと思います。
ちなみに、「この表紙や邦題だから読んでみたくなった」という方と、「この表紙と邦題だと手に取らない人がいるんじゃない」という方もいて、読書会でも意見が分かれていましたが(笑)。
さて、今回再読して思ったんですが、ページを開いてタイトルが来る前に記されている冒頭の文章、これは、本作は「ロマンス」小説だという著者による宣言だったのじゃないでしょうか。
実際、主人公のジョー・マグレディは「モテ」ます。
ちょっとしか出番の無い署長秘書までもジョーに気があるような描写が。
しかし、このジョーの「モテ過ぎ」問題。
この物語がジョーの視点による三人称で描かれている事から、実はジョーが勘違いしているだけだったりといった疑惑も?!(笑)
ま、冗談は置いといて、ジョーのキャラクターというものはやはり魅力的ですよね。
署長からの圧力めいた言葉に対する返し方、捜査に関する相棒へのしたたかな信頼、何事も最後までやり通す強さなどなど、この辺りはハードボイルドや冒険小説ファンはニヤリとする場面も多いかと。
また、ジョーと係わる女性たちもそれぞれがそれぞれの強さがあり魅力的で印象に残ります。
ジョーとその女性たちの関係が、読了後に何よりも脳裏に残るのではないでしょうか。
原題『FIVE DECEMBERS』が示すような大河ロマン。
ロマン過ぎて、そもそもの殺人事件とその顛末の印象が薄かったり、よく考えたらそれってどうなのよとツッコミ入れたくなるところもありますが、冒険小説ファンだけでなく、ぜひロマンス部の読者にも手に取ってもらいたい作品です。
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