- 著者:五條 瑛
- 『J』 (徳間書店)
テロが続発する日本。
明日を夢見る事もない無気力な浪人生の秋夫が街で出会った女性ジェイ。
その強い眼差しに惹かれた秋夫は強くなる為にキックボクシングのジムに通い出す。
充実した毎日を過ごし出した秋夫がジェイと偶然出会う時、そこにはテロの陰がある事に秋夫は気付くのが・・・。
「青春小説とサスペンスの美しき融合」と帯には書かれていたけど、美しき融合かどうかは別として確かに青春小説としての趣きが強かったです。
ジェイと名乗る女性と出会う事で“強さ”というものを求め出す秋夫。
キックボクシングを習い出しても、本当の“強さ”をキックが強い事ではなく、明日を見据えて生きていく事こそが本当の強さだとジムの先輩で世界チャンピオンを嘱望されている久野から教えられる。
逆にそれと対比するかのように秋夫の友達のヨシオの弱さも痛々しく、その弱さにも共感する部分がある。
それぞれの主義、主張というものは簡単に相手に伝え理解して貰う事は出来ないし、生まれた時から違う立場で生きてきた者にとってそれは最後まで理解し合えないのかも知れない。
本当の“理想郷”は自分の心の強さで作っていくしかないのかも知れない。