2020年春期のドラマとして、「らーめん才遊記」がまさかのドラマ化。そして、「ラーメン発見伝」からの主要キャラである「芹沢達也」を「芹沢達美」と、女性キャラに変更した事に何より注目が集まった。そんなわけで、普段ドラマを観ない私も、「TVer」で全話追っかけて鑑賞しました。ドラマを全話見たのは、1999年に伊東四朗主演で放送された「笑ゥせぇるすまん」以来、21年ぶりでした(笑)。そんなわけで、ドラマ評としてどこまで語れるかは分かりませんが、原作を読み込んでいるものとしての感想をまとめたいと思います。以下、若干のネタバレを含みます。
まず、主役が「汐見ゆとり」から「芹沢達美」に変わっています。ゆとりが、親譲りの料理の天才である設定は残しつつ、ゆとりのひらめきで生まれた「バーニャカウダーつけ麺」や、ライバルの石原真琴(ドラマでは出てこない)が考えたアンチョビバターのアイデアが芹沢から出てくるなど、芹沢が課題解決へと導いています。
芹沢役の鈴木京香の演技はさすがで、コミカルなテイストのドラマの中でも重厚さを見せています。ただ、初期ではその演技が若干強めに感じられました。
この変更の背景にあるのが、放送されたテレ東月曜22時台の枠が「ドラマBiz」と呼ばれている事にある。2018年春期から、「働く人をテーマにした経済ドラマ」をオンエアしていて、「ラーメン発見伝」からいろいろなセリフが「名言」としてまとめられていた芹沢の、経営者としての側面に注目したものと思われます。
部長の河上役は杉本哲太で、中間管理職としてスーツの似合う役どころでしたが、後に芹沢と同じ「勝和軒」で修業していたという設定が追加されています。というか、芹沢が修業していたという設定も、原作にない要素です。
ゆとり役の黒島結菜は若くて勢いのあるゆとり役にマッチしていましたし、強気な先輩である夏川役の高橋メアリージュンが、ドラマにリアリティを出していました。気になったのは、男性社員の白坂と須田の年次が逆になっていた事。白坂役の小関裕太(24歳)と須田役の前野朋哉(34歳)の、実際の年齢差を考慮したのかもしれません。白坂がメインになった油そば店のエピソードは、原作では須田が担当したお店の話でしたが、これも若い白坂の成長譚に変えています。
ゆとりの母で、料理研究家の汐見ようこ役にはベテランの高畑淳子。原作では「ラーメンを知っているからこそ見下していた」立場でしたが、ドラマでは徹底的なラーメン嫌いの役どころでした。過剰な言い方もあり、ラーメン好きとしては若干引いてしまう部分もありました。難波倫子を演じた松井玲奈と共に、エキセントリックな演技が印象に残りました。
ラーメン評論家の有栖涼役に石塚英彦を当てたり、芹沢とようこが昔戦った(この設定もドラマオリジナル)の司会を、「テレビチャンピオン」で知られた中村ゆうじが演じるなど、テレ東らしい面白さも加えています。
主に「らーめん才遊記」のエピソードを各話に当て込みながら、芹沢の名言においては「ラーメン発見伝」のものも取り入れています。最終回にあたる第8話に向けては、独自のエピソードとして「ジャパンフードサミット」を巡って、ようこと芹沢の直接対決が描かれています。「ラーメンはフェイク」であるというようこの指摘(原作では、ゆとりとの最終対決でようこが主張)に対し、芹沢の「濃口らあめん 解」が味で答えを出していました。原作で答えた「ラーメンとは、フェイクから生み出す情熱そのものです」という芹沢の名言が本人から出てこなかったのは残念ではありました。また、芹沢を女性にした為か、「清流房」の閉店を狙う「たかじ」の安本が、芹沢と恋仲にあったかのような描写が見られましたが、個人的には蛇足だった印象です。
総合的には、原作を忠実に取り込みながら、原作を知らない人にも分かりやすいビジネスドラマとしてまとめ上げた印象です。過去回は「Paravi」にもあるので、一気見してみたい方はどうぞ。