#255 途端落ちの傑作 ~「動物園」~ | 鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

鑑賞歴50年オトコの「落語のすゝめ」

1956年に落語に出逢い、鑑賞歴50余年。聴けばきくほど奥深く、雑学豊かに、ネタ広がる。落語とともに歩んだ人生を振り返ると共に、子や孫達、若い世代、そして落語初心者と仰る方々に是非とも落語の魅力を伝えたいと願っている。

失業中の逸見さんが仕事を斡旋してもらう為に親友の海老名さんを訪ねる。海老名は自分が経営している珍獣動物園で早速働いて下さい。仕事はただのそのそ歩くだけのもので月給100万円出すと言う。

珍獣動物園というのは、鼻のない象、首が1mしかないキリン、背中の瘤が20個もあるラクダなどの変った動物ばかりを集めた動物園で、中でも呼びものは全身黒色のライオンであった。

「年棒の間違いでは?」と高額の月給に逸見が念を押すと、「間違いありません。いえね、明日から開園というのに呼びものの黒色ライオンが昨日死にまして、ここに毛皮を剥ぎ取ってあります。貴方にはこの毛皮を着て檻の中に入ってもらい、ただのそのそと歩いて欲しいのです。それだけでいいのです」と仕事の内容を説明し、ライオンの歩き方を教える。

 

逸見は檻の中から観客を眺め、女性の品定めをしたり、子供に向ってワオー!と咆えついて驚かせたりと楽な仕事を楽しんでいた。やがて司会者が現れ、「隣の檻には世界で一頭という全身白色の虎を入れてあります。只今から、真ん中の仕切りを取り払いまして虎とライオンの死闘をご覧にいれます」と口上した。驚いたのは逸見さん、聞いてない成り行きに体中が震え出し、高額の月給の真意を悟った。

 

 ファンファーレと共に仕切りが取られ、白色の虎がこちらへ向かって入って来た。「助けてくれ!」と思わず逸見が叫ぶ。「おい、聞いたか?ライオンが喋ったよ!」と観客が不思議がる声も耳に入らず、人間に戻って「助けてくれ!」を連発する。ついに虎が襲い掛かって来た!「南無阿弥陀仏」と頭を下げて念仏を唱える逸見の耳元へ虎が囁いた。「心配するな、俺も100万で雇われたんだ」。

 

「動物園(どうぶつえん)」という滑稽噺で、筋書きは四代目柳家小せんの高座に依った。四代目小せんは1970年前後にテレビのバラエティー番組で“ケメ子”という言葉を流行らせるなど惚けた味を売り物にした噺家で、滑稽噺で境地を開いた。

 

サゲ(落ち)は噺を締める落語の命の一つであり、“地口落ち”、“考え落ち”、“仕草落ち”、“仕込み落ち”などに分類され、この「動物園」はハラハラさせたところで突然話が終る“途端落ち”と呼ばれるものの傑作である。

駄洒落でサゲるのが“地口落ち”、サゲを聞いてしばらくして「ああそうか」と思うのが“考え落ち”、言葉でなくジェスチャーでサゲるのが“仕草落ち”、マクラでサゲの伏線を張っておくのが“仕込み落ち”である。なお、人情噺では原則的にサゲはない。

サゲを分類したところで「それがどうした?」となるのがオチであるから、これ以上の講釈は止めておく。

 

(多摩動物公園・東京 2005年)

 

 

 

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