Beyond Despair -8ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

「お前らが自滅するのを望んでたんだが、どうやら意味がねーみてぇだ。残念だぜ赤毛犬、テメーの復讐物語もここで幕切れか」

そう残念そうに男は呟くと同時に、手に持った蛇腹剣がライトと愛花の二人を貫かんと急速に伸びる。

そして、伸びる剣の尖端部分がライトの背中を貫こうとした瞬間――。

「――(エイワズ)――」

男の手元から伸びた剣が、綺麗に粉々に粉砕した。

予想外の事に男は目を大きく見開く。

その隙を突き、愛花はライトの傷口に右手を添える。

すると徐々に添えた彼女の右手が緑色に輝き出した。

と、ノコギリの様に削られたライトの肩の傷が見る見る塞がっていく。

「……愛花、お前」

「ごめんね、ライト。私の方が、最低の人間よね」

悔しさのあまり、涙を流す愛花をエレナと護はじっと見つめる。

「アンタの苦しみも聞こうともしないで、ただ自分勝手な事をして」

ライトの傷口に愛花は魔力を集中させる。

「私と比べらば、アンタの方がもっと苦しんできたのに……!」

愛花の流す涙の一粒がライトの頬に静かに落ちる。

「つまんねーつまんねーぞお前らぁッ!!!」

そんな怒鳴り声が聞こえてくる。

と、粉砕した筈の男の蛇腹剣はいつの間にか再生していた。

そして治療に集中する愛花目掛け、再度剣を蛇の様に伸ばす。

(ダメ、今ここで防御魔術を使ったら……ッ!!)

それでも向かってくる刃は止まらない。

先と同じように、男はライトと愛花を貫かんと剣を伸ばしてくる。

が、伸びて来ていた筈の男の蛇腹剣は途中の所でヘナヘナと崩れる様に落ちてしまった。

愛花は視線を男に向けると、そこにはさっきまで側で自分達を見守っていた神崎護の姿。

護は蛇腹剣が愛花達を貫く前に男を殴り飛ばしたのだ。

男は物凄い勢いで壁に激突する。

「護、さん……?」

エレナは男を殴り飛ばした護の背中を呆然と見つめる。

それは愛花、極道、坂口も同じだった。

「テメー……いい度胸してんな坊主。魔力すらねークセにヒーロー気取りか?」

男は殺意混じりの視線を護に向ける。

しかし護はそんな声に恐る事なく、堂々と男に対峙した。

「ヒーローになんかなろうって思った事はねぇーよ。俺みたいな奴がなれるとも思えねーしな」

けどな、と護は力強く拳を握りしめる。

「仲間は何があっても護るってガキの頃に誓ってんだよ」

護はうつむきながら歯を食いしばる。

「俺は魔力がねーから、周りから避けられてた。今の世の中魔術が使えて当たり前の世界だからな。けど、そうじゃねー奴は周りから省かれるんだよ、虫けらみたいにさ」

ライトは自らの事を話す護に顔を向ける。

そして、彼女は神崎護という男子生徒の事を少しばかり理解したのだ。

何故自分をあそこまで庇うのか、助けようとするのか。

それは――。

「だけど、ここに来てようやく出来たんだよ。心から〝仲間〟って思える奴らがさ。最近また一人、赤毛犬って奴が増えたけどな」

護が今までどのような生活をしていたのかライトは知らない。

だけど、今の護の言葉で大体の予想はつく。

(アイツも、孤独だったのか……?)

だからこそ、護という人間は仲間を裏心なく大切に思っているのだ。



/続く




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「……え」

ライトは愛花を庇う様に抱き寄せる。

「が、あぁ……くぅッ!!」

「おいおい、そりゃつまんねーぞ赤毛犬」

男がライトの行動に呆れたような声を上げる。

そして力強く左手に持つ蛇腹剣を引き戻した。

「がぁああっ!!」

ワイアーの様に伸びた男の剣がライトの肩をノコギリのように削る。

そして男の手元に伸びた刃が戻る頃には、ライトは脱力し愛花に寄りかかるように倒れ込んだ。

「……なん、で」

右肩から血を吹き出すライトを呆然と見つめる愛花。

腕が斬り落とされていないだけでも奇跡に近い。 

「ライト、さん……ライトさんッ!!」 

今まで見ているだけだったエレナがライトに近づいていく。

護は何が起きたのか分からないという感じに呆然と立ち尽くしていた。

「何で……私はアンタを……なのに、どうして……」

目から大粒の涙を流す愛花。

そんな彼女にライトは優しく微笑む。

そしてゆっくりと口を開いた。

「嫌だったから……こんな自分の生き方が。周りを傷つけたり、犠牲にしたりするのが……。お前らの日常を、壊すのが……」

消えかかった声でライトは続ける。

「悪魔憑きだから、そう言う生き方をしなくちゃいけないって、思ってた。だけど、それは勘違いだったんだ……。もっと簡単で、単純な答えがあったんだ……」

愛花の制服の裾を必死に握りしめるライト。

そんな彼女を愛花は抱き寄せる。

「ライト、喋っちゃダメ! 今から治療するから、だから――」

「……私の復讐は〝化物〟としてでは無く、〝人間〟として果たされないと意味がないって……」

ライトは痛みに苦しみながらも愛花にそう笑いかける。

「この答えはさ……どっかのバカにさっき教えられたんだ。ホント、簡単な事だろうって感じにさ……」

笑っちゃうよな、とライトは笑う。

そんな彼女達のやり取りを男は不満そうな表情で見つめていた。

「オイオイオイオイッ! 何そこで仲直り的な展開になってんだよお前ら。さっきまで殺し合いしてただろうがよ赤毛犬ッ!! つまんねーぞこんな展開!」

蛇腹剣を地面に叩きつける男。

「チッ、もういいぜお前らのショーは。飽きた飽きた」

男は肩を鳴らしながら呟く。

そしてライトと愛花に蛇腹剣の尖端を向けた。



/続く




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「お前……なんで、生きてんだ……」

震えた声で護は男に問う。

しかし男は護の問いに答えず、真っ直ぐ愛花を見つめてきた。

「お嬢ちゃん、アンタは実に人間らしい。弱者をことごとく叩きのめすその姿、良いねぇ~クールだねぇ~ヒヒヒ」

ゲラゲラ笑う男の声が響きわたる。

愛花は目の前の男の言葉に身体を震わせた。

「しかしまぁ~、こうして見るとお前ら二人似た者同士じゃねぇか? 身勝手な困ったちゃんの赤毛犬に、自分の感情一方通行なお嬢ちゃん」

「――違う、違う、私はそんなつもりじゃ……」

「ヒヒヒヒハハハハッ!! 良いねぇ、人間らしいぞお前ら!」

グリードの言葉に愛花は頭を抱える。

嫌な汗が頬から首に垂れる。

「違う、私はそんなつもりでライトを……」

愛花の脳内で、ライトに向けて言った言葉が再生される。

〝私がキレてるのはね、アンタがどうしようもなく自己中心的な女だからよ。自分の目的の為なら周りの人間が傷つこうが関係ない、そんな奴〟

自己中心的な――自分。

周りが傷つこうが関係ない――自分。

「違う、違う、違う、私はそんな人間じゃないッ!!」

頭を抱えながら叫ぶ愛花。

そんな愛花をゲラゲラ笑いながら見つめる男。

「結局は嬢ちゃんもそこの赤毛犬と変わらないんだよなぁ? ヒヒヒ、身勝手で、自分の感情に素直に従って? 何の反撃もしてこない赤い毛をしたワンちゃんをいたぶる人間」

「うるさい……うるさい、うるさいうるさいッ!!」

と、その時、男が流すオルゴールがピタリと止まる。

そしてジャラン、と鎖が落ちる音がした。

愛花は音のした方に視線を向ける、と――。

「――ッ!?」

どこから取り出したのか、男の手に握られている変わった形状をした剣が愛花目掛けて急速に伸びてきたのだ。

完全に油断して、かわすことが出来ない愛花を男は嘲笑う。

「安心しな、人間はそういう醜い生き物なんだからよぉ!!」

伸びる刃は既に愛花の目の前まで迫っていた。

恐らく首をごっそり斬り落とすつもりだろう。

そう分かっていても、愛花はかわす事が出来なかった。

愛花は迫る死の恐怖に震える事すら出来ずにただ呆然と立ち尽くす。

「火野川、逃げろッ!!!!」

既に護の声すらも彼女にとってはただのBGMでしかなかった。

(身体が……動かない)

伸びる刃は愛花の首を狩るためにグルリと円を描くように彼女に近づいていく。

そして、刃が愛花の首に触れそうになった瞬間――。

愛花の目の前に右肩から赤い血を噴水の様にまき散らすライトの姿があった。



/続く




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