そう確信した時だった。
炎上する車に、何か黒い影が見える。
人の様な形をしたその影の腕は鎌の様な形をしていた。
車の近くに倒れている女性がその影を見つけると、甲高い悲鳴を上げる。
「こないでッ! こっちにこないでッ!」
足が怪我して立ち上がれないのか、体を引きずりながら影から逃げようとする女性。
そんな彼女に黒い影はフラフラと、まるで踊るかの様に近づいて行く。
その動きが恐怖を湧き出させている様に感じた。
「イヤァ! いやぁぁぁ! 誰か助けてッ! お願いだからぁ!」
しかしそんな彼女を助ける人間が居るはずもない。
皆我が身大事とばかり、助けを求める女性を無視して避難シェルターへ向かって行く。
自身を置いて逃げる人々の背中を見ながら彼女は涙を流していた。
と、そんな時。
彼女は俺達へと顔を向けてきた。
口を動かしているが、声は聞こえない。
声を出す気力すら残って無いのだろう。
しかし、その口は「助けて」と言っている事には違いなかった。
どうすれば良いのか分からない。
俺みたいな人間が行った所であの女の人は助けられない。
だからと言って見捨てるのか?
「どうしたら……いいんだッ!」
俺がそんなふうに考えている間にも、黒い影は彼女の元に近づいて行く。
彼女は俺から顔をそらすと、そのまま泣きながら地面に顔を埋めた。
もう自分は助からない、そう確信したのだろうか。
「冗談じゃねーぞッ!」
俺はいつの間にか走り出していた。
避難シェルター方面ではなく、生きる事を諦めた彼女の元へ。
すると黒い影は俺の事に気づいたのか、狙いを女性から俺へと変える。
俺は足を止める。
――このまま行けば確実に殺される。
黒い影はフラフラと鎌の腕を振舞わしながら近づいてくる。
――昨日までは火野川や坂口達と笑っていたのに。
一歩、二歩、確実に近づいてくる。
――そんな当たり前な日常が続いていくと思ってたのに。
だんだんと黒い影の姿がハッキリと見えてくる。
――そんな日常で、今日も終わると思ってたのに。
/続く