Beyond Despair -57ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

そう確信した時だった。

炎上する車に、何か黒い影が見える。

人の様な形をしたその影の腕は鎌の様な形をしていた。

車の近くに倒れている女性がその影を見つけると、甲高い悲鳴を上げる。

「こないでッ! こっちにこないでッ!」

足が怪我して立ち上がれないのか、体を引きずりながら影から逃げようとする女性。

そんな彼女に黒い影はフラフラと、まるで踊るかの様に近づいて行く。

その動きが恐怖を湧き出させている様に感じた。

「イヤァ! いやぁぁぁ! 誰か助けてッ! お願いだからぁ!」

しかしそんな彼女を助ける人間が居るはずもない。

皆我が身大事とばかり、助けを求める女性を無視して避難シェルターへ向かって行く。

自身を置いて逃げる人々の背中を見ながら彼女は涙を流していた。

と、そんな時。

彼女は俺達へと顔を向けてきた。

口を動かしているが、声は聞こえない。

声を出す気力すら残って無いのだろう。

しかし、その口は「助けて」と言っている事には違いなかった。

どうすれば良いのか分からない。

俺みたいな人間が行った所であの女の人は助けられない。

だからと言って見捨てるのか?

「どうしたら……いいんだッ!」

俺がそんなふうに考えている間にも、黒い影は彼女の元に近づいて行く。

彼女は俺から顔をそらすと、そのまま泣きながら地面に顔を埋めた。

もう自分は助からない、そう確信したのだろうか。

「冗談じゃねーぞッ!」

俺はいつの間にか走り出していた。

避難シェルター方面ではなく、生きる事を諦めた彼女の元へ。

すると黒い影は俺の事に気づいたのか、狙いを女性から俺へと変える。

俺は足を止める。

――このまま行けば確実に殺される。

黒い影はフラフラと鎌の腕を振舞わしながら近づいてくる。

――昨日までは火野川や坂口達と笑っていたのに。

一歩、二歩、確実に近づいてくる。

――そんな当たり前な日常が続いていくと思ってたのに。

だんだんと黒い影の姿がハッキリと見えてくる。

――そんな日常で、今日も終わると思ってたのに。



/続く



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何故この状況で冷静でいられるのか。

気が付けば俺の足は震えていた。

今までの日常が崩れていく感覚。

当たり前の毎日が崩れていく予感。

「やることって、何やるってんだよ!?」

俺は無意識にライトの両肩に手を乗せていた。

「早く逃げねーと死んじまうんだぞ!? お前だって知ってるだろ、アヴェンジャーって化け物の事はッ!」

必死にライトの体を揺らす。

しかしライトは俺の手を払い除けると、じっと俺を睨みつけてきた。

蒼い目が俺を睨む。

「あぁ、知ってるよそれくらい」

「なら何で!」

「逃げるなら一人で逃げろ、そう言っただろ」

そう言うとライトは俺を横切り、第三ブロック方面へと向かっていく。

「バカ野郎! そっちに化け物が居るんだぞ!」

俺はライトへと駆け寄り彼女の右手を掴む。

どこまでもコイツの行動が分からない。

するとライトは俺に顔を向ける。

「お前、しつこいぞ」

「お前、何する気なんだよッ!」

俺がそう言った瞬間だった。

ライトの体から、何か黒いオーラの様な物が滲み出ているのだ。

俺は思わず彼女から手を離す。

「な、何だ……それ」

黒いオーラは彼女の右腕から滲み出ているようだった。

「魔術……なのか?」

俺のその言葉にライトは口元を歪ませた。

何故か今の彼女からは人間性が感じられない。

どちらかと言えば化け物の様に感じてしまう。

一歩俺はライトから下がる。

と、背中の方から爆発音が鳴り響く。

振り返ると公園の近くに止まっていた車が爆発したようだった。

その周りを逃げていた人間が体を震わせながら地面に倒れている。

足がさらに震える。

〝もうこの近くにいる……!〟



/続く



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周りから音が無くなる。

まるでライトの一言で世界が死んだかの様に静かになる。

「死んだって、誰が?」

彼女の言葉の意味が俺には分からない。

「ライアン・クライス、私の弟だよ」

俺に顔を向け、睨みつけながら彼女はそう言った。

そのライトの一言で、俺はさっきの彼女の悲しそうな表情の意味を理解した。

どれだけ自分がバカな事を聞いたのか、今更後悔してしまう。

「死んだって、何で……」

聞いてはいけない、そんな事は分かってる。

けれど、聞かずにはいられなかった。

と、そんな時だった。

甲高いサイレンが響きわたる。

俺はベンチから腰を上げる。

周りの通行人も何事かと辺りを見回している。

するとサイレン混じりに放送が流れた。

『第一エリア、第三ブロックにてアヴェンジャーの存在を確認しました。住民の皆さんは速やかに避難シェルターに向かってくださいッ!』

その放送に周りの人間が一斉に声を上げる。

「お、おい! 第三ブロックって近いじゃねーかッ!」

「逃げましょう! 早く!」

「ついに日本にまで来やがったぞぉぉ!」

皆必死に避難シェルターへ向かって行く。

「どうなってんだ……!」

今でも何が起こったのか理解できない。

アヴェンジャーと言う怪物の存在は知っている。

でも日本には今だ一度も現れた事なんてない。

もっと言ってしまえば、現れないとまで言われたいた程だ。

その為、避難訓練なんてした事もない。

頭が真っ白になる。

今起きている事態が信じられないでいる。

するとライトはベンチから立ち上がる。

そして携帯を取り出し、地図を開いた。

「お、おい! こんな所に居る場合じゃない、逃げるぞ!」

「逃げるなら一人で逃げろ。私はやる事がある」

ライトは携帯の画面を見ながら即答した。



/続く



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