Beyond Despair -54ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

「前回の物語で、最後の一部分が変わった。でも、その変化が今私が読んでいる物語に影響する物だったら? この小さな命を守り抜いた彼らの行動に意味があるとしたら?もし、この子が生きていなければ、今私が読んでいる物語も大きく変わっていたかもしれないよ?」

無愛想な顔をしているカイムに強くそう言った。

でもカイムは何の反応もせず、私に背中を向ける。

「もし君の仮説が正しければ、今君が読んでいる物語は一から作り直された事になる。だがそんなのはしょせん仮説だ、ホーラ。仮に一から作り直されているとして、一人の少女が生き延びた所でどう運命が変わると言うのだ?」

「その子がもし、世界が定めた運命を変えられる力を持っているとしたら? それを分かって、彼らも彼女の命を守り抜いていたとしたら?」

質問に質問で返す。

「その物語を読む限り、ただ復讐に没頭する愚か者にしか思えんな。そんな醜い命、残す価値があったのか」

「彼女が生きた事には価値も意味もあるんだと思う。だから今回の物語で重要的な位置に居るんじゃないかな?」

私の言葉にカイムは鼻で笑う。

私を守ると誓ってはいるものの、結構皮肉屋さんなんだよね。

「過去に縛られ続ければ、いずれその身を滅ぼす事になる。その女はまさにそれだ。希望どころか、絶望をまき散らす種だぞ」

「カイムはそんなにライトが嫌い?」

「彼女のような人間はいく度となくこの目で見てきた。そのどれもが自身の事しか考えない愚か者。何度かは力を貸してやった事はあるが、そのどれもが自滅していった。絶望の底から這い上がる一心で力を求め、最後はさらに深く底に落ちていく」

自分の右手で拳を握りながらカイムは暗い声でそう呟く。

「アナタは、何故力を貸したのですか?」

ウリエルがカイムを見つめながらそう言った。

「悪魔はな、人間の願望を叶える役割もあるのだよ。だが、悪魔の身で言うのもなんだが、我々に力を求める人間ほど、愚かな者はいないだろう」

カイムは自分の過去をあまり話したがらない。

私も無理に聞くのも悪いと思って、その話はあまりした事もないけれど。

「私はそんな人間を見てきた。この女もその類、結末はとうに見えている。いや、その女は私が見てきた中で一番タチが悪い」

そう、それは私にも分かっていた。

この物語の結末もどうなるかも既に知っている。

彼女はこのまま行けば、きっと世界その物を殺し尽くすだろう。


でもそれは、一人だったら、の話。

「もし誰かが、絶望の底から彼女を引きずり出せたら?」

私のその言葉にカイムは体をピクっとさせる。

「今は間違った道だとしても、正しい道に誰かが導いてくれたら?」

カイムは私に顔を向ける。

表情は相変わらずだけど、どこかいつもと違う感じがした。

「そしたら、カイムの言ってる結末とは違う結末になるかもしれない。ううん、もしかしたら私達にはもう見えないくらいの結末かもしれないよ?」

私の言葉にカイムはため息をつく。

まぁ、こんな反応だとは思ってたけどね。

「ならば、見せてもらおうか。その女と、その周りの人間達が描く物語の先に、どの様な結末が待っているのか」

そう言い残して、カイムは私達の前から去っていった。

またあの魂を狩りに行ったのかな?

「ホーラ様、それではそろそろ次の章へ進みましょうか」

「そうだね」

私は手元の本を開く。

「何でか分からない。慢心してる訳でもないんだけど、私ね、今回の物語には期待してるんだ」

そう、きっと彼女達なら私達の運命を変えてくれる。

そんな期待が頭を過ぎる。

この本に定められた運命を断ち切ってくれるのではないかと言う期待。

そんな期待を胸に秘めながら私は〝世界が定めし運命の書〟に書かれた次の物語へと視線をむけた。


                  

幻想の記録/①完




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「ホーラ、君は不安に思う必要は無い。ただじっと、その物語を見つめていれば良い」

そう言いながら彼もウリエル同様、私の両手に左手を重ねてくる。

「私は君をこの身が朽ちるまで守り通すと誓った。例え相手が誰であろうと」

無愛想な顔の彼に私はついつい微笑んでしまう。

「ありがとう、カイム」

そう言えば、カイムは笑った事があったかな、と急にそんな事を思ってしまった。

そう思えるのも、まだ心に余裕があるからなのか。

「あ、そういえばね、少しだけ物語が変わってたんだよ?」

ついつい忘れていたけれど。

私は手元の本をもう一度開く。

「え、どのように変わっていたのですか?」

ウリエルは少し驚いた顔していた。

カイムは……相変わらず変化なし。

「えーっとね、ここ!」

本に書かれた一行の文を私は指さした。

「赤毛犬とオタク君が初めて会話する所」

本来ならここはただ自己紹介するだけで終わりだった。

「〝何でそんなに強がってるんだ〟って所から。これ、私が読んでいる時に勝手に文が追加されたの」

「運命が変わった、と言う事なのでしょうか?」

「分からない、でもその後の展開は全部一緒なんだよね。変わったのは一部分だけでさ」

パタンと本を閉じる。

「あまり期待しない方が良い、ホーラ。その様な少しの変化、前回にもあった事だ」

「でも前回は最後の最後で変わったよね?」

前回の物語のラストは、たしか六人の少年少女兵が叶えたかった夢を思い浮かべながら深い眠りにつくって最後だった。

勿論、六人の少年少女兵が皆死んでしまった事には変わりないけれど。

でも、彼らはある小さな女の子の命を守り抜いたの。

本来なら、その小さな命も消えてしまうはずだったのに。

彼らは自らの命を捨ててまで、その小さな命を守り抜いた。

どうしてそうしたのか、私にはよく分からない。

その小さな命を守る事で、彼らは何を思ったのかも。

でもきっと、意味があったんだと思う。



/続く



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ここは真っ白な世界。

私達に言わせればここは当たり前の日常を過ごす世界。

人間はここの世界を〝天国〟と言っているらしいけれど。

私は手元に開かれた本を静かに閉じる。

ため息をついて、顔を前方に向ける。

両側には真っ白な柱。

その柱の天辺には蒼色の炎が輝く様についている。

私はその柱の真ん中に挟まれた大きな円盤に腰を掛けている。

勿論、円盤の色も真っ白だけれど。

二柱の先には何もない。

ここは終わりも無ければ、始まりも無い世界。

果てはなくて、無限がいつまでも続いている世界。

「読書は終わりですか?」

静かな空気に耳慣れた声。

右の柱から赤い鎧を纏った女性が私に近づいて来る。

「うん、今回の物語も世界が定めた通りだったよ」

「ですが、まだ始まったばかりです。物語の初めは世界に定められた通りに進むのは仕方ありません」

丁寧のお辞儀をしながら彼女はそう言った。

「今回も……期待しない方が良いのかな?」

苦笑いしながら目の前の女性に顔を向ける。

すると彼女は本を握る私の両手に自身の右手を重ねてきた。

「前回の物語はあまり変わりませんでした。ただ、散る必要のない命が散った。我々の危機を回避出来るとすれば、今回の物語に賭けるしかありません」

力強く、私の両手に右手を重ねてくる。

「もし、もし今回ダメだったら? そしたら私達はどうなるの?」

「ご安心ください、ホーラ様。その時は、このウリエルがアナタ様の盾となります」

そうウリエルは優しく微笑んでくれた。

でも、こういう微笑みはもう見たくない。

前回の物語が終わった時、こんな笑みを残して私の大切な天使達は命を散らしていった。

あの悲しい思いの塊達によって。

赤くて肩までかかる長い髪をなびかせるウリエル。

「盾になるのは、ウリエルだけではない」

今度は左の柱から耳慣れた声。

そこには背中に大きな黒い大剣を背負った、黒い鎧を纏った男。

彼の周りには黒い翼がよく散っている。

そのせいで、鴉と言う生き物とよく連想してしまう。



/続く



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