「前回の物語で、最後の一部分が変わった。でも、その変化が今私が読んでいる物語に影響する物だったら? この小さな命を守り抜いた彼らの行動に意味があるとしたら?もし、この子が生きていなければ、今私が読んでいる物語も大きく変わっていたかもしれないよ?」
無愛想な顔をしているカイムに強くそう言った。
でもカイムは何の反応もせず、私に背中を向ける。
「もし君の仮説が正しければ、今君が読んでいる物語は一から作り直された事になる。だがそんなのはしょせん仮説だ、ホーラ。仮に一から作り直されているとして、一人の少女が生き延びた所でどう運命が変わると言うのだ?」
「その子がもし、世界が定めた運命を変えられる力を持っているとしたら? それを分かって、彼らも彼女の命を守り抜いていたとしたら?」
質問に質問で返す。
「その物語を読む限り、ただ復讐に没頭する愚か者にしか思えんな。そんな醜い命、残す価値があったのか」
「彼女が生きた事には価値も意味もあるんだと思う。だから今回の物語で重要的な位置に居るんじゃないかな?」
私の言葉にカイムは鼻で笑う。
私を守ると誓ってはいるものの、結構皮肉屋さんなんだよね。
「過去に縛られ続ければ、いずれその身を滅ぼす事になる。その女はまさにそれだ。希望どころか、絶望をまき散らす種だぞ」
「カイムはそんなにライトが嫌い?」
「彼女のような人間はいく度となくこの目で見てきた。そのどれもが自身の事しか考えない愚か者。何度かは力を貸してやった事はあるが、そのどれもが自滅していった。絶望の底から這い上がる一心で力を求め、最後はさらに深く底に落ちていく」
自分の右手で拳を握りながらカイムは暗い声でそう呟く。
「アナタは、何故力を貸したのですか?」
ウリエルがカイムを見つめながらそう言った。
「悪魔はな、人間の願望を叶える役割もあるのだよ。だが、悪魔の身で言うのもなんだが、我々に力を求める人間ほど、愚かな者はいないだろう」
カイムは自分の過去をあまり話したがらない。
私も無理に聞くのも悪いと思って、その話はあまりした事もないけれど。
「私はそんな人間を見てきた。この女もその類、結末はとうに見えている。いや、その女は私が見てきた中で一番タチが悪い」
そう、それは私にも分かっていた。
この物語の結末もどうなるかも既に知っている。
彼女はこのまま行けば、きっと世界その物を殺し尽くすだろう。
でもそれは、一人だったら、の話。
「もし誰かが、絶望の底から彼女を引きずり出せたら?」
私のその言葉にカイムは体をピクっとさせる。
「今は間違った道だとしても、正しい道に誰かが導いてくれたら?」
カイムは私に顔を向ける。
表情は相変わらずだけど、どこかいつもと違う感じがした。
「そしたら、カイムの言ってる結末とは違う結末になるかもしれない。ううん、もしかしたら私達にはもう見えないくらいの結末かもしれないよ?」
私の言葉にカイムはため息をつく。
まぁ、こんな反応だとは思ってたけどね。
「ならば、見せてもらおうか。その女と、その周りの人間達が描く物語の先に、どの様な結末が待っているのか」
そう言い残して、カイムは私達の前から去っていった。
またあの魂を狩りに行ったのかな?
「ホーラ様、それではそろそろ次の章へ進みましょうか」
「そうだね」
私は手元の本を開く。
「何でか分からない。慢心してる訳でもないんだけど、私ね、今回の物語には期待してるんだ」
そう、きっと彼女達なら私達の運命を変えてくれる。
そんな期待が頭を過ぎる。
この本に定められた運命を断ち切ってくれるのではないかと言う期待。
そんな期待を胸に秘めながら私は〝世界が定めし運命の書〟に書かれた次の物語へと視線をむけた。
幻想の記録/①完