「ハァ、ハァ、ハァ……!ク、ククク……!アッハハハハハハ!」
胴体だけのアヴェンジャーを見つめながらライトは甲高い笑い声を上げる。
そしてゆっくりと後方のアヴェンジャーへと顔を向けた。
「さぁーて、最後はお前だなぁ?」
フラフラとした足取りでライトはアヴェンジャーに近づく。
アヴェンジャーは右膝に刺さったナイフを抜き取ると、鎌状の腕を横に振り回す。
「お前らさぁ、学習能力ないのか? そんなやり方で――」
鎌を振り回すアヴェンジャーを睨みつけながら――。
「私を殺せるとでも思ってんのか?」
と、口元を歪ませる。
そして次の瞬間、素早く槍を作り出し今度は左膝に尖端を突き刺した。
しかし今度は倒れる事なくアヴェンジャーはライトの首を狩ろうと鎌を振る。
「ククク……」
ライトは笑いながらギリギリの所で首を曲げ、鎌をかわす。
大きく空振りをしたアヴェンジャーの腹部をライトは思いっきり蹴りつけた。
地面に倒れ、急いで起き上がろうとするアヴェンジャー。
しかしライトはそれを見逃さず、死なない程度に槍をアヴェンジャーの腹部に突き刺した。
「これでもう動けないな?」
貫通して地面にまで尖端が到達しているのかアヴェンジャーは動く事が出来ない。
それでも必死にもがくアヴェンジャー。
「アッハハハハハハ! 本当に人間みたいな動きするなお前らって。私が見た奴は虫とか怪物みたいな形だったけどさ。何だか人間殺してるみたいな感じだよ」
ライトはもがくアヴェンジャーを蹴り付ける。
「さぁてと、お前はどうやって殺して欲しい? 頭に槍をぶち込まれたいか、腹を何回も刺された後に首を引きちぎられたいか、それとも胴体だけになりたいか?」
その言葉にアヴェンジャーは更に体を激しく動かす。
言葉が通じているのか、それともただ逃げようと言う野生本能なのか。
「まぁ、でも良いか。少しストレスも溜まってるから――」
ライトはアヴェンジャーに突き刺さっている槍を引き抜く。
アヴェンジャーは地面を這いずりながらゆっくりと逃げようとする。
「少し解消させてもらおうかな?」
鼻でそう笑うと再びアヴェンジャーに槍を突き刺した。
悲鳴を上げるアヴェンジャーをライトは笑いながら見つめる。
「言ったろ? 楽には死なせないってさぁッ!!」
そう叫びながらライトは何度も槍をアヴェンジャーに突き刺した。
叩きつける様に、しかし中々死なないように手加減しながら。
ゆっくりとアヴェンジャーが命を削って行くのを楽しんでいる。
俺はその瞬間その場にしゃがみこむ。
そして口からありとあらゆる物を吐き出してしまった。
吐き気をこらえ、ライトに視線を戻す。
未だにライトはアヴェンジャーに槍を叩きつける様に突き刺していた。
アヴェンジャーは体をガクガク震わしている。
もういつ息絶えてもおかしくなかった。
「もう……やめろよ……」
俺はいつしかそんな声を出していた。
しかしそんな声はライトには届いている筈もない。
そしてライトは大きく槍を振り上げる。
「よく生きてたな、ご褒美だ」
と、アヴェンジャーの頭部に槍を突き刺した。
大量の血がライトの体を赤く染め上げる。
「クク……フフフ……アッハハ……ハ……う……うぅ……」
そして彼女は血を吹き出すアヴェンジャーを見つめながら、涙を流した。
槍を手放し、その場にしゃがみこむ。
両肩を摩りながら小さな声で泣いていた。
その時、後方から何台かの車が停る音が聞こえた。
振り向くとそこには白い軍服を来た黒髪の男。
その隣には金髪のロングヘアーの女性。
車から降りるなり俺達の方へと近づいてくる。
どうやらひと足遅かったようだな」
黒髪の軍人はライトを見つめながらそう呟く。
「アンタ達……魔術騎士団の」
軍服には魔術騎士団のエンブレムが縫い付けられている。
黒髪の男が俺へと視線を向けてきた。
「その制服は……学院の生徒かな? 避難指示が出されていたはずだが」
冷たい視線で俺を睨みつける男。
俺は震える足で何とか立ち上がる。
「何ですぐに来なかったんだよッ!? アンタ達はあの化け物から市民を守る為に居るんじゃなかったのか!」
男の首元を掴み、怒鳴りつける。
「何を言っている、今こうして来たではないか。さっきも言った筈だ〝ひと足遅かった〟と」
何が可笑しいのか男の口元が笑っている。
俺は首元から手を離し、ライトへと顔を向けた。
「アッハハハ……ハハ……殺したよ……ライアン……」
小さな声で震えた声でライトはそんな事を呟いた。
「赤毛犬が第三ブロックに居るとは予想外だったのでな」
後ろのほうから黒髪の男の声が聞こえる。
「アンタ……アイツとどう言う関係だ……」
振り返らず、ライトを見つめたまま男にそう言った。
「主従関係だが、彼女に言わせれば〝主と犬〟の関係らしい」
まったく、とため息をつく黒髪の男。
俺は何も言わずただ体を震わしながら泣くライトを見つめていた。
〝死んだよ、ライアン・クライス。私の弟だ〟
ライトの言葉が頭を過ぎる。
それで俺は何故、彼女が日本に来たかを理解した。
「アンタら……最低だな……」
低い声で後ろに居る軍人二人にそう呟く。
さっきのライトの台詞から聞くに、ライトの弟はあの化けのもに殺されたんだ。
アヴェンジャーは今や世界の脅威的存在。
そいつらを撃退する為に作られたのが魔術騎士団。
でも実際、魔術じゃアヴェンジャー達には中々勝てないって火野川が言っていた。
日本では今回が初めてだけど、他の国では度々アヴェンジャー達は現れている。
未知の生命体に政府も騎士団もおてあげ状態だ。
撃退は出来るものの、騎士団員の犠牲者数は数え切れない程だという。
騎士団としても、これ以上団員を減らす訳にはいかなかったのだろう。
そうで無ければライトに目が行く筈がない。
ライトの力は俺もよく分からないけど、魔術なんかより強力な物だと言う事は直感的に分かる。
そこに騎士団は目を付けた訳だ。
「君は察しが良いな」
その言葉に歯を食いしばる。
これが騎士団のやり方なのか?
これが国の、政府のやり方なのか?
こんな、人の心を利用したやり方が……。
「彼女は去年までアメリカの軍に所属していてね。しかしアメリカは今や経済的に崩壊状態。情報機関も壊滅状態だ。そんな所に居てはアヴェンジャーに関する情報は得られないだろ?だから私は彼女をこの国に招待したのさ」
「情報が得られない……?」
「そうだ、彼女は奴らに関する情報を欲している。理由は……既に君には分かっているのではないか?」
弟を殺した化け物達を皆殺しにするため……。
だからあんなふうにアヴェンジャーを殺したのか。
憎いから、大切な存在を奪ったから。
俺は呆然とライトは見つめる。
何か声をかけてやらなきゃいけない気がした。
でも、どうやって声をかければ良い?
ライトは何ども肩を摩りながら体を震わしている。
もう泣き声も聞こえない。
「しかし今回のは本当に予想外だったな。彼女にはまだ命令は出していなかった筈なのだが」
頭をかきながらため息をする男。
「終わってしまった事は仕方ありません。彼女の行動はどちらにせよ、この国の為になったのですから。犠牲者が一人も出ていないと言うのは異例の出来事です」
男の隣に居る金髪のロングヘアーの女性が静かな声で呟いた。
「しかし、皮肉だな。〝復讐者〟が〝復讐者〟に復讐などとは」
男のその呟きと同時に風が吹いた。
俺は何も言わず、ただライトを見つめる。
今日で、俺の当たり前だった日常は終わった。
楽しくて、友達とだべる当たり前の日常。
まるで別の世界に来た感覚。
でもこれが今の世界全体の状況。
俺の当たり前だった日常も、いつ壊れてもおかしくなかったのかもしれない。
もう……あの日常には戻れない。
そんな予感が頭を過ぎってしまった。
2119年 四月十日
第一章 復讐者 /完/