Beyond Despair -10ページ目

Beyond Despair

― 絶望の底に落ちた少女の先に待つ運命 ―

「今すぐこんな事やめろッ! ただでさえ誘拐事件に巻き込まれたってのにこんなのうんざりだッ!!」

精神的に参っているのか、護は顔を歪ませている。

しかし、そんな護に構わず愛花は私目掛けて今度は四発連続で魔弾を放ってきた。

きっと護だけじゃなく、周りの奴らの声すらも今の彼女には聞こえていないだろう。

それくらい、火野川愛花は狂っている。

向かってくる魔弾を同じように私は弾き返す。

が、今回のは少しばかり重かったように感じた。

力が増しているのだろうか。

「……悪いな、神崎護。この世界はお前が理想とするほど……優しく出来ちゃいないんだよ」

きっとコイツは私を連れ戻せば皆が暖かく迎えてくれる、そんな理想を抱いていたのだろう。

けど現実は違う、結果的に今こうして私の身勝手な行動で凛とたくましかった火野川愛花が狂ってしまったのだから。

すると護はその場に崩れるようにしゃがみこんでしまった。

私はそんな彼をしばらく見つめた後に目の前の愛花に向き直る。

愛花は息を切らしながら、魔弾を何ども装填する。

「アンタみたいな身勝手で自己中な女に私の何が分かるってのよッ! 自分ばっかり被害者ぶってんじゃないわよアンタァ!!!」

狂う愛花を見つめるエレナ達は信じられない表情をしていた。

きっとアイツらもこんな愛花を見るのは初めてなのだろう。

私は槍の尖端を愛花に突きつける。

殺す気は一ミリもこっちには無い、けど私もコイツのさっきからの言動には癇に触るものがある。

だから、全治一週間程度の傷を負わせるだけで良いだろう。

と、そう頭の中で計算しながら私は愛花の左肩に目掛けて槍を投げ付けた。

が、そんな私の計算はあっという間に砕かれる事になってしまった。

「――(エイワズ)!!」

その呪文が聞こえた瞬間、投げつけた槍が跡形もなく粉砕したのだ。

「――なッ!」

私は思わず絶句する。

正直なめてた、魔術ってもんを。

今まで身近に魔術を使える奴はアイネしかいなかったから、ホントの魔術と言うのがどういうものなのか私は知らなかったのだ。

アイツはまだ魔術師としては半人前だ。

けど無意識に私はアイネを基準に魔術という物を考えていた。

それがアダとなって出たのだろうか。



/続く




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そしてうつむいていた顔を静かに上げ、私に視線を向けてきた。

「その頃から私は誓ったの。母さんをこんな目にあわせたあの女を絶対に許さないって。正直、私がここまで魔術を極めたのも姉さんに復讐するためのような物なのよね」

「復讐、ねぇ……」

「そう、復讐よ。そこはアンタと同じ。だけど、私はアンタみたいに目的の為に周りを犠牲になんて絶対にしない」

私は呆れながらため息をする。

この女はどこまでも正義感が強い奴だ。

けど、私に言わせればコイツが並べてる言葉なんてしょせん綺麗事にしか聞こえない。

思わず私は口元を歪ませた。

「――何がそんに楽しいの?」

「ククク……いやさ、お前の復讐ってのは随分と器が小さいと思ってな」

その言葉が感に触ったのか愛花は殺意混じりの視線で私を睨みつけてきた。

「どういう意味よ、それ……」

「言葉通りの意味だよ、魔術師。私から言わせればお前が復讐と言っているそれはただの姉妹喧嘩みたいなもんだ。そんなのと私の復讐を一緒にすんな、この幸せ者が」

ギリっと歯が擦れる音が聞こえる。

と、愛花は身体を震わせながら左手で力強く拳を握り締めた。

どうやら悔しいらしい。

けどそんなの私の知ったことじゃない。 

「アンタ……ッ! 知ったような事をッ!!」

その言葉と同時に、愛花の右手から先程と同種の魔弾が放たれる。

が、今度はさっきみたいにはいかない。

私は反射的に槍を作り出し、向かってくる魔弾を弾き返した。

凄まじい音をたてながら魔弾は廃墟と化したマンションの最上階へと衝突する。

その瞬間、二発目の魔弾が放たれる。

今度は同時に三発――どうやら愛花は私を殺す気でいるらしい。

まぁ、怒り狂いそうなのはコチラも同じだ。

「――ホント、幸せ者だよお前」

私は槍を剣のように振り回しながら放たれた三発の魔弾を愛花に目掛けて弾き返す。

しかし、そんな反撃は愛花の予想通りだったのだろうか。

彼女は自身に返ってくる魔弾を今までより少し大きめの魔弾で消し飛ばしたのだ。

少しばかり感心してしまう。

きっとこれがアイネなら間違いなく吹き飛んでいただろう。

「やめろッ! なんでこんな展開になんだよぉッ!!!」

と、背中の方からそんな怒鳴り声が聞こえてくる。

顔を向けると殺しあっている私と愛花を睨みつける神崎護。

まぁ、怒鳴られるのは仕方ない。

私だって予想外の展開だ、こんな事は。

けど、どうやら私のあの身勝手な行動が愛花の狂気な人格のスイッチを押してしまったようだ。

言ってしまえばこれも自業自得って事なんだろうけど。



/続く




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愛花は長い髪をサラっと靡かせながら私を庇う護に殺意混じりの視線を向ける。

「だから? 罪悪感を感じてたから何なのよ?」

「――な、んだと」

「そんなの知らないし、その子が身勝手って事に変わりないじゃない」

愛花の右腕にまた光が集まり始める。

魔力を注いでいるのだろうか。

「って言うか、アンタは何でその子を庇うの? アンタだって昨日、この子のせいでへこまされたじゃない。アンタに気遣いすらせず、ただ自分の目的の為だけにアヴェンジャーを殺し尽くした、違う?」

視線で愛花が私に問いかけてくる。

その問いには否定出来なかった。

愛花の言う通り、昨日私は傍にいる護の事なんて考えてもいなかった。

コイツが吐こうがトラウマになろうが、そんなのどうでもいいと思っていたから。

一応は謝ったけど、それでも無かった事には出来ない。

私は愛花から庇う護を押しのけゆっくりと立ち上がる。

そして彼女に向き直った。

互いが互いを殺すかのように睨み合う。

「お前、言ったよな、私みたいな自己中心的人間は大嫌いだって」

「えぇ、そうよ。私の姉さんみたいに自分勝手な人間は大嫌い」

「姉さん、か。ところで一つ聞きたいんだが、そのお前の姉さんとやらはどういった奴だったんだ?」

私がそう問いかけると、愛花は怒りに震えるかのように身体をプルプルさせる。

そしてギリ、と歯を鳴らした。

それほどまでに姉に対しての恨みがあるのか、今までの愛花からは想像出来ない変わりようだ。

「……あの女はねぇ……自分の遊びの為に家族を潰したのよッ!!」

「遊びの為?」

怒り狂う愛花の声が駐車場に響きわたる。

「私の父さんは私がまだ幼い頃に病死して、それからは母さんが女手一つで私と姉さんを育ててくれた。私はそんな母さんに少しでも喜んで欲しくて頑張って勉強したわ。初めはダメダメだったけど、それでも日々の努力が報われてきて、中学の頃には大人で初めて習得できる魔術を使えるようになった」

と、愛花の声が徐々に低くなる。

そしてコチラに向けられていた右腕をダラリと降ろすと、何かに絶望するかのようにうつむいた。

「……初めは姉さんも頑張ってた。母さんにはいろいろと大変な思いをさせてるから、一緒に頑張ろいうなって。……なのに、あの人は、私は中学二年の時には人が変わったみたいになってしまったの」

両拳を力強く握りしめる。

いつしか、彼女は涙声になっていた。

とても辛そうに、顔を歪めながら。

「母さんが働いて稼いだお金を、いつからか自分の遊びに使うようになった。毎日毎日、母さんから奪う様に……。しかも一番タチが悪いのが、私が学校に行ってる間に母さんから金を奪ってるってとこ。私がいたら邪魔されると思ったのかしらね」

自分を馬鹿にするかのように愛花は笑う。

「それでトドメは、一番最悪な展開だった。私が学校から帰ったら、母さんが倒れてたのよね。命に別状はなかったけど、医者の話じゃショック死寸前までいってたって」

と、愛花は下げた右腕を再び私の方へと向けてくる。

握られていた拳をゆっくり開くと同時に、彼女の右腕に絡む様に赤く輝くマジックラインが燃えるかのように引かれた。



/続く




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