2023年 第15戦 シンガポールGP | Glass Labyrinth

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僕の視点からF1での Ferrari のレースと Formula1 Grand Prix について書いてみます。

ヨーロッパラウンドも終わり、次にF1が目指すのはアジアになります。アジアラウンドの緒戦はエキゾティックな観光都市、シンガポールです。もっとも「エキゾティック」と言っても、普段学術的な分野なんかで使われる「きわめて奇妙な、珍しい」という意味もあったグランプリでした。

 

 

/*・・・Preparation:コースとタイヤ・・・*/

マリーナベイ・ストリート・サーキット(シンガポール)

(Formula 1®から抜粋)

 

コース長:4.940 km

レース距離:306.143 km(62 laps)

特徴:・F1で唯一の市街地ナイトレースの舞台となる中低速サーキット

   ・旧ターン16から4つのコーナーが撤去され、その区間がストレートに変更された

   ・全体的にバンピーで、極端に道幅の狭い区間がある

   ・スコールが降ることがある

   ・主なオーバーテイクポイントはターン7とターン14

タイヤのコンパウンド:C3〜C5(やや軟らかい〜とても軟らかい)

 

 

/*・・・Qualifying:予選・・・*/

PP 55 C・サインツ(フェラーリ)

2位 63 G・ラッセル(メルセデス)

3位 16 C・ルクレール(フェラーリ)

4位 4 L・ノリス(マクラーレン・メルセデス)

5位 44 L・ハミルトン(メルセデス)

6位 20 K・マグヌッセン(ハース・フェラーリ)

7位 14 F・アロンソ(アストンマーティン・メルセデス)

8位 31 E・オコン(アルピーヌ・ルノー)

9位 27 N・ヒュルケンベルグ(ハース・フェラーリ)

10位 40 L・ローソン(アルファタウリ・レッドブル)

11位 1 M・フェルスタッペン(レッドブル)

12位 10 P・ガスリー(アルピーヌ・ルノー)

13位 11 S・ペレス(レッドブル)

14位 23 A・アルボン(ウィリアムズ・メルセデス)

15位 22 角田裕毅(アルファタウリ・レッドブル)

16位 77 V・ボッタス(アルファロメオ・フェラーリ)

17位 81 O・ピアストリ(マクラーレン・メルセデス)

18位 2 L・サージェント(ウィリアムズ・メルセデス)

19位 24 ジォ・G(アルファロメオ・フェラーリ)

20位 18 L・ストロール(アストンマーティン・メルセデス)

 

Pole Position Time:1:30.984(195.5 km/h)

Fastest Lap Time Throughout the Weekend:PP Time と同じ

 

 

/*・・・Race:決勝・・・*/

WIN 55 C・サインツ(フェラーリ)

2位 4 L・ノリス(マクラーレン・メルセデス)

3位 44 L・ハミルトン(メルセデス)

4位 16 C・ルクレール(フェラーリ)

5位 1 M・フェルスタッペン(レッドブル)

6位 10 P・ガスリー(アルピーヌ・ルノー)

7位 81 O・ピアストリ(マクラーレン・メルセデス)

8位 11 S・ペレス(レッドブル)

9位 40 L・ローソン(アルファタウリ・レッドブル)

10位 20 K・マグヌッセン(ハース・フェラーリ)

11位 23 A・アルボン(ウィリアムズ・メルセデス)

12位 24 ジォ・G(アルファロメオ・フェラーリ)

13位 27 N・ヒュルケンベルグ(ハース・フェラーリ)

14位 2 L・サージェント(ウィリアムズ・メルセデス)

15位 14 F・アロンソ(アストンマーティン・メルセデス)

16位 63 G・ラッセル(メルセデス)

Ret 77 V・ボッタス(アルファロメオ・フェラーリ)

Ret 31 E・オコン(アルピーヌ・ルノー)

Ret 22 角田裕毅(アルファタウリ・レッドブル)

 

Ret:Retire/リタイア。

 

Winner's Time:1:46:37.418(172.3 km/h)

Fastest Lap Time:1:35.867(185.5 km/h @lap 47)

44 L・ハミルトン(メルセデス)

 

 

/*・・・Scope:Singapore Sling・・・*/

優勝は、なんとなんとサインツでした。フェラーリの勝利は昨シーズンのオーストリア(勝者はルクレール)以来、レッドブル以外のドライバーが勝利したのも昨シーズンのサンパウロ(勝者はラッセル)以来となります。今シーズンは無理だと思っていましたが、こういうこともあるんですね。このサインツの活躍により、レッドブルの2023年シーズンの全勝の夢はもちろん、レッドブルとフェルスタッペンの連勝記録もそれぞれ15連勝、10連勝で途絶えました。ただ、まだレッドブルのシーズン最高勝率やフェルスタッペンのシーズン最多勝などの記録は、十分射程圏内です。この後のシーズンには、どんな展開が待ち受けているのでしょうか。

 

話を優勝者のサインツに戻しましょう。サインツは本当に良くやってくれました。今シーズンここまでの展開を考えると、レッドブル以外のドライバーが勝てるであろう数少ないチャンスをものにしました。今回に関しては、フェラーリもマシン特性がトラックにピッタリはまったなと感じます。サインツはフリー走行から好調で、予選でも絶対有利なポールポジションを獲得、そのままレースを支配した、まさにサインツのための週末でした。終盤フレッシュタイヤで攻めてくるメルセデス勢を抑えるため、自分が抜かれないことに気をつけ、同じタイヤ戦略の後続のノリスにDRS権を与えながらドライブするというテクニックも見せてくれました。いわゆるDRSトレインの積極的な活用です。まさにサインツ劇場と言うか、レース展開をすべて自分の手のひらの上でコントロールした素晴らしい週末だったと思います。

 

これは推測ですが、サインツはモンツァでもこういう展開にしたかったのではないでしょうか。つまり、モンツァではサインツの後ろを走るルクレールはサインツを抜くことをだけを考えていたように見えましたが、もしルクレールにサインツを抜く意思がなく、ルクレールがDRS権を持ち続けていれば、ペレスに対抗できて最高でフェラーリの2-3フィニッシュとなったかもしれません。でも、同じチームのルクレールとは難しいことが、他チームのノリスとは阿吽の呼吸のようにできるのはちょっと面白いですね。

 

そのモンツァでのバトルが少し問題になりかけたからなのか、あるいはこのシンガポールやモナコなどの抜きにくいトラックでのレースの定石、つまり「ペースを上げすぎず、できるだけ他のマシンを引きつけてドライブする」ことを徹底するためなのか、スタートでサインツの直後に順位を上げたルクレールの働きも小さくなかったですね。もしルクレールがサインツに仕掛けていればペースが上がってしまい、タイヤの保持やアンダーカットなど、レース展開がフェラーリに不利になることもあり得ました。最終順位こそ4位とスタート直後からは落としてしまいましたが、それはアンセーフリリース(他のマシンがピットロードを走行しているときに、その直前にピットアウトさせるなどの危険な行為)を避けたからであって、そこは残念でしたが、上手く2人で共闘できたことはすごく大きかったと思います。ただ、サマーブレイク明けのルクレールは予選、決勝ともサインツに対して少し遅れをとっているように感じるのは気になりますね。

 

また、ノリスもメルセデスの2人も今回は非常に速く、それぞれ見せ場を作ってくれました。ノリスはいつもながら本当に面白いバトルを見せてくれます。今回もまた惜しいところまでいきながら勝つことはできませんでした。いつ初勝利を迎えるのか楽しみなドライバーでもあります。今週末のハミルトンは少し影が薄かったですが、相変わらずのレースセンスで、ファステストラップを出して上位を追い込みました。ファイナルラップでラッセルが消えたことで結果的に3位になりましたが、終盤はそれに値するドライブでした。ラッセルは本当に残念でしたね。デヴューしたウィリアムズ時代から、ラッセルは本当にミスの少ない、いやミスどころかトラックリミットさえほとんど犯さない、素晴らしいドライバーだと思っていましたが、肝心なところでミスが出てしまいました。これもシーズンで最も体力的に厳しいとも言われる、シンガポールの魔力なのかもしれません。あまり落ち込みすぎず、次のレースでまた活躍できる状態にあることを祈っています。

 

最後に今回暫定的に改修された新しいコースですが、概ね好評でしたね。今後もこのコースでレースが見られれば良いのになと思います。なにせ、今までのトラックにはセクター3に6つも連続する低速の直角コーナーが密集していて、直角コーナー版S字と言うか、7セグメント表示の「5」みたいになっていましたからね。オーバーテイクできるポイントが増えるというだけでなく、平均スピードも上がって2時間レースになりにくくなるという点でもメリットはあると思いますが、どうでしょうか。

 

 

/*・・・Best Overtaking:オコン・・・*/

VS ペレス(@lap 39/ターン8)

 

今回は低速市街地コースのシンガポールということで「該当なし」もやむなしと思っていましたが、さすが世界でたったの20人の中に選ばれたF1ドライバーたち、見せてくれるものですね。しかし、直近でこう何度もオコンばかりを選んでしまうと、ぼくがオコンのことがお気に入りなのかと思われてしまうかもしれませんが、今回最も印象的なオーバーテイクをしたドライバーは、やはりオコンだったかなと思います。

 

ペレスはタイヤが終わりかけだったので勝負できたのですが、もちろん通常では仕掛けることすら難しかったと思います。タイヤのグリップが悪いペレスは、アロンソをパスしたオコンにすぐに張り付かれてしまい、プレッシャーを掛けられることになりました。ストレート直前のターン5からの加速も鈍く、オコンがストレートエンドのターン7で狙ってくると感じたペレスは即座にターン7のイン側のブロックラインを取ってデフェンス。ただこちら側は汚れているため、ただでさえグリップの悪いレッドブルが立ち上がりでまったく加速せず、次のターン8へのブレーキングでも汚れたラインを取らされてしまい、ターン8の立ち上がりでオコンにかわされてしまいました。

 

これをオコン側から見ると、非力なアルピーヌでは、ペレスの真後ろにいながらもストレートエンドで並ぶことすら難しい状況でした。そこでターン7でブレーキングを遅らせてもたつくペレスのクロスラインを取り、ターン8手前でようやく並ぶことができました。ここでも通常ライン上となったオコンは強烈なブレーキングでもう1度ペレスのクロスラインを取り、抜き去ることができました。ペレスへのラインの取らせ方といい、極めて短い時間での冷静な判断力といい、素晴らしいオーバーテイクでした。そしてこのオコンの、連続するコーナーでのダブルクロスラインは、コースのレイアウトもあってなかなか見られるものではないので、個人的にはとりわけ印象的でした。

 

ただ、今回のオコンはペレスに対するものだけでなく、アロンソに対するオーバーテイクも良かったと思います。ちょっとオコンを褒めすぎですかね。

 


/*・・・Next Battle:日本・・・*/

次回はいよいよ日本グランプリです。日本人としては、待ちに待ったという人も多いことでしょう。昨年は天気も良くなかったですし、まだ感染症の影響が色濃く残っていましたからね。ただ昨年は、岸田総理がいらっしゃったことには驚きました。日本以外でも、政界のトップがグランプリを訪れることはなかなかないですからね。

 

そして今回で、秋に開催される日本グランプリは最後になります。おそらくぼくだけじゃなく、日本グランプリと言えば秋のイメージだったので残念ですね。ただ、SDGsの観点からロジスティックスへの負荷を軽減したり、台風シーズンを避けたり、様々な面を考えての開催時期の移行だそうです。今まで何度台風の影響で予選が日曜日午前になったか、を考えただけでも仕方ないことですかね。

 

最後の秋開催の日本グランプリの舞台も、やはり鈴鹿サーキットです。鈴鹿は本当にドライバーに人気があるトラックなので、ドライバーとしても待ちに待ったと言えるのかもしれません。中には「鈴鹿が好き」というのはドライバーのリップサービスだという人もいます。でも、こう言ってはなんですが、富士スピードウェイならドライバーはここまでトラックを褒めちぎらないかな、と個人的には思います。やはり鈴鹿には他にはないスペシャルなものがあると考える方が自然でしょう。

 

そのスペシャルなものは何かというと、やはりセクター1の高速コーナーのシーケンシャルということになるのかもしれません。ドライバーはこぞってこのセクションは難しくて、攻め甲斐があって、駆け抜けるのが楽しいと言います。世界のサーキットにはここに似たようなセクションも存在しますが、高速コーナーが連続するというだけでなくアップダウンの縦方向の変化までも含めると、本当にユニークなセクションだなと思います。またセクター1直後のデグナーや、バックストレート直前のスプーンも難しくて、ドライバーにとってとてもチャレンジングなトラックなんだろうなと思います。また全体的に、ヘアピンとシケイン以外大きなブレーキングポイントがなく、流れるようにドライブできるところもいいと聞きますね。ただ逆に言えば、ビッグブレーキングがほぼないためオーバーテイクが難しいとも言えるので、そこは裏表なんですけどね。

 

ただ唯一ぼくがこのトラックに関して思うのは、昔の130Rを復活して欲しいな、ということです。かつてのこのコーナーは極めてスピードが高く、その攻め甲斐からセクター1のS字と並んでドライバーに非常に人気のあるコーナーでした。かのミハエル・シューマッハも最も好きなコーナーだと言っていたくらいですからね。でも、2002年のF1のフリー走行で大きなクラッシュがあったことがきっかけとなり(ドライバーのアラン・マクニッシュは無事でしたが、ガードレールの修復にかなり時間がかかったというのを覚えています)、それ以来現在のように比較的簡単なコーナーに改修されてしまいました。ただF1では簡単になったと言われていても、他のカテゴリーでは130Rでのクラッシュは比較的多いみたいなので、元に戻そうにも戻せないのかもしれませんね。

 

チャンピオンシップの面では、ここでレッドブルがコンストラクターズチャンピオンを決められるかどうかに注目です。フェルスタッペンの異次元の活躍もあって、今シーズンもまだ6戦を残した段階で決まってしまう確率は結構大きいと思います。もちろんここでチャンピオンが決まる確約がある訳ではないのですが、来シーズンはもっと終盤までもつれるように、各チームにはがんばって欲しいですね。

 

面白いレースが見られればいいなと思います。