眠れない、と数日前まで何十年も言い続けていた母は
面会に訪れると眠っていた。
目をつぶっているだけかもしれないので
小さく声をかけたが起きなかった。
1時間ほどしたとき、モゾモゾ動いたので
顔を覗き込むと
目を開けたが
また目を閉じてしまった。
私の姿も見えていたはずで
声もかけた。
でも、わたしの存在をまるでないかのように
また目を閉じる。
私のことはわからないかもしれないな、
と思って
途方に暮れていると
ゆっくり寝返りをうち
「少し寝ましたかね?」
と母が喋った。
「わたし、30分くらい寝たかもしれません」
母がそう続けた。
「呼んだけど起きなかったよ」
私がそう答えても
私が娘だとはわかっていない会話を続けた。
30分くらい
私に敬語で話をする。
私のことを理解していない。
それでも、私は、普通に会話をした
病院なんだ。
仕方ない。#