家族を忘れた母と忘れられた家族 | 不幸を書こうか幸福を書こうか、それが問題だ

母は胃がんの診断を受けて

その日の夜に自分で救急車を呼ぶように父に頼んだ。 


 しっかりしていのに、2日後にはせん妄で
私のことが誰だかわかっていなかった。


 この状態を弟や父が
いきなり見たら大変なことになる。 

 実家の家族って
男のほうが圧倒的に弱い。 


 母が面会中、15分ほどの検査で看護師さんにどこかに連れて行かれてる時に

父が現れた。 


 父に 「ボケてるけどよく喋るし、元気だよ」  と、伝えたが
理解できないつだった。


 二回同じことを言ったが
意味がわからないようだった。 


そりゃそうだ。2日も前まで、普通に話していたのだから。



 そうしているうちに、弟も現れた。


 三人揃ったところに

母が帰ってきた。


 父と弟は


母のあまりにもの変わりように
近づくことも話しかけることもできなかった。 


 私が、母に
父と弟が来たことを伝えたが

わからないようだった。 


 弟が、顔を手で押さえ


声を出して泣き出した。


 自分を忘れた
座りっぱなしで
反応しない目の母 


 そういったものを見て耐えられないようだった。


 父に限っては、恐ろしくてそばにも寄れず、

遠くで立って震えていた。 


「 環境が変わってわかんなくなっちゃったんだよね? 」


私がそう、聞くと母は

ドバイの旅行のことを話し始めた。 


 意味が通じない。


 弟は泣き崩れ、父は
立ちつくし


私も
気がついたら

涙を流していた。 


 本来、面会は一組二人まで
だったので、

先に来ていた私が一人で先に帰ってきた。 


 その日の夜に、父から電話があり 


 あの後、先生と話し


ステージ4で、手術をしない、という選択肢もあるということ、


手術をするなら、明日には返事をしてほしい、ということを言われた、と言ってきた。 


 わたしは、手術をする方がいいと思った。


父は、反対のようだった。