あやとり橋 【前篇】 (石川県加賀市山中温泉河鹿町) | 穴と橋とあれやらこれやら

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初めまして。ヤフーブログ出身、隧道や橋といった土木構造物などを訪ねた記録を、時系列無視で記事にしています。古い情報にご注意を。その他、雑多なネタを展開中。

 
2015年5月1日、「史上最長の作戦」となった能登遠征最終日。前夜は能登を離脱して、小松市の「道の駅こまつ木場潟」にて車中泊。
 
基本的には「あとは帰るだけ」のこの日。逡巡した結果、取りこぼしや心残り物件を拾いつつ、徐々に滋賀へ戻ることにしたが、思いだしたのが、今回ご紹介する物件だった。ちょっと長くなるが前説を。
 
 
 

 
2012年の9月に嫁さんと山代温泉に来た時にここ山中温泉にも足を伸ばしたが、その時にはこの橋の存在を知らず、大聖寺川もう少し下流の某土木遺産橋2件だけを訪ねて満足(笑)。帰るときにようやくこの橋のことが書かれた観光案内板を見かけた。
 
もう少し上流の鶴仙渓に架かっているようだったが、こういう観光地にある「あやとり橋」なんて名前の橋におよそ期待なんぞできない、とタカをくくってしまった。そこにはけっこうインパクトのある写真まで載っていたにもかかわらず、だ。
 
まあどっちにしろ嫁さん同伴では橋2本が限度(爆)だし、実際時間もなかったのでスルーして宿へと向かったのだが、ずっと気にはなっていた。2年半前のその取りこぼしを、今回拾って帰ろうというわけで。
 
 
 

 
 
 
無料の観光駐車場に車を置いて徒歩でアプローチ。結果として橋のたもとにも駐車場はあったが、駐車台数はわずかで道も狭いので、歩いてくるのが無難かと。
 
 
西から接近。見えてきた。
 
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ナイス焦らし写真(笑)。そう、この橋は歩行者専用橋なのだった。
 
 
 
尋常ならざる姿は肉眼ではすでにしっかりと見えているが、
 
 
 
 
 
まずは改めてお名前を。
 
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「あやとりはし」と石に刻まれている。が…
 
この時点ですでに、橋そのものにクギヅケ(笑)。なんだこの橋!?
 
トラス構造の橋であることはわかるものの、変態すぎて。
 
 
 
 
まずは深呼吸、場所はコチラ(笑)。
 
 
 
 
 
にわかにはどういう型式の橋だか判然としないほどだが、
 
 
冷静に見ればまぎれもない
 
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これは三弦トラス橋。
またしても少々長くなるが、三弦トラス橋についてもやはり触れておかなくては。
 
 
まずトラス橋とは、端的に言えば「三角系に組んだ部材で構成された橋」のことで、さらに端的に言えばトラス部材の上を通る型式が上路式、下を通る形式が下路式と呼ぶ(よって、参考に挙げた第25閉伊川橋梁は下路式ということになる)。
いずれにせよ、通常トラスの横断面は四角形がほとんどなのだが、まれに三角形断面のトラスが存在する。それがこの三弦トラスってやつだ。
 
それそのものが珍しい三弦トラスだが、その中にも当然上路式と下路式がある。前者だと例えば先日記事にした、奈良県は十津川村の旧・川津大橋。補剛として三弦トラスが用いられていた。
 
そして、後者では圧倒的に有名なのが、北海道夕張市のシューパロ湖に架かっていた、下夕張森林鉄道の三弦橋(参考にDAiNさんの記事をどうぞ⇒https://ameblo.jp/dain-mizube/entry-12530735346.html)。

 

残念ながらすでに夕張シューパロダムの完成にともない水没したが、水位によっては今でも目にすることができるらしい。
 
 
…なのだがぁ~。この橋はぁ~。そのどちらでもない。
 
 
 
まさかの
 
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中路逆三弦トラス橋!!
上でも下でもなく、文字通りトラスの中をすり抜けるように、桁が設けられている。
異形だ。異形すぎる…そして素敵すぎる!
 
 
この橋をデザインしたのは橋屋ではなく、ひとりの芸術家。華道草月流三代目家元・勅使河原宏氏がその人。華道以外にも陶芸や書、映画、舞台美術など様々な分野で業績を残した、素晴らしい芸術家であったようだ。「鶴仙渓を活ける」というコンセプトとのもとにデザインされたという。
 
名のとおり、その姿は、両岸という手によって織りなされるあやとりのよう。およそ他では見たことのない、強烈なインパクトを放つものだった。
 
とにかく、橋を思う存分見ていただこう。
 
 
 
 
まずは西岸の様子。
 
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橋台というよりは、地面に足をしっかりと据えた感じ。三弦トラスをさらに包むように、より大きなトラス部材で地面に固定されている。
 
 
注目していただきたいのは、歩行部の桁がどこにも剛結合されていないこと。
なんとこの歩廊部、三弦トラスから吊り下げられている、ある意味では吊り橋でもあるのだ!
 
おかげで、渡る際には適度な揺れも楽しめる。う~ん、至れりつくせり(謎)。
 
 
 
そして、渡り始めてすぐに、本橋もうひとつの大きな特徴が理解できる。
 
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曲がっている下っている
 
西岸と東岸には高低差があり、橋の中間部では最大で12%の勾配がつけられている。また、従来の概念に囚われた「A→Bへの直線的な移動」ではないなにかを意図し、S字曲線が与えられているのだった。
 
 
すなわち~…
 
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ををお~!
 
その姿、龍の如し。うねる三弦トラスの下弦材(逆三角系の底点を結んでいる部材)も、まさに龍骨よろしく、うねっている。スゲーー!!
 
余談ですが、龍骨といえば船底を支える構造材を指す船舶用語でもあり、英語で言えばキール【keel】。いま話題のキールアーチでお馴染みですな(爆)。
 
 
 
 
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おっほぉ~おもしれー!!
 
 
 
さらに~注目!
 
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逆三角形の醍醐味!
斜材の角度を変えることによって、このうねりを作り出しているのがよくわかる。
 
…めっちゃ萌えるわ~コレ。
 
 
 
 
 
とにかくトリッキーなこの橋の構造。
 
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上弦材と斜材の格点は、エライことになっている。ここなどはオクトパス状態。
 
すべての格点で微妙に接続角度が異なる…ということはだ。
 
ほぼ全て部材一点モノであることを意味する。
 
 
 
うああ~コイツはなんて橋マニア向けなんだあ~(大爆)
 
 
 
 
 
 
 
ヘンなテンションで【後篇】へ続くぜ!