村上春樹著『騎士団長殺し』を読んで | フォノン通信

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2019年にヤフーブログから移行してきました。
制作した絵画、詩、読んだ本のことなど投稿していきます。

 

★書棚に読まずに長く置かれていた村上春樹『騎士団長殺し』の文庫4冊。

 

★村上春樹がこれまでに書いた長編小説は

15作ある。

 

★『騎士団長殺し』は長編の14作目にあたる。

確か2017年に刊行された。

 

★この作品が新潮文庫になり、ブックオフで110円になったところで買っておいた。

文字通り書棚に買って置いたのである。

 

なかなか読もうという気が起きなかった。

 

★最近、読もうと思い立ち、三日間で読了した。

 

そのときに書いた日記から感想など抜き出してみた。

 

☆速く読めた理由は、早く読めるような文体で書かれていたからだと思う。

 

村上春樹の文章は、初期の作品に比べて読みやすくなったような気がする。

 

村上春樹は、川上未映子によるロングインタビューの中で、昔から分かりやすい文章を書くことをこころがけていると語っている。

 

そのロングインタビュー集『みみずくは黄昏に飛びたつ』の中で、原稿は何度も何度も書き直していると書いている。

 

完成稿に至るまでに第一稿から第十稿くらいまで書き直していると語っている。

 

そうすることで読みやすく分かりやすい文章にしていくのだろう。

 

★『みみずくは黄昏に飛びたつ』で、村上春樹に遠慮なく鋭い問いを発しているのが作家・川上未映子である。

 

このインタビュー集を読むと川上未映子さんが、実に深く村上春樹作品を読んでいるのかが分かります。

 

川上未映子さんの洞察が深く、そして鋭いのです。

 

川上未映子さん無くして、このハイレベルなインタビュー集はできなかったでしょう。

 

 

☆この『騎士団長殺し』は、

36歳の画家である「私」の一人称で書かれている小説である。

 

これまで一人称で書かれた小説は、みな「僕」を使っていた。

 

★登場人物など(あらすじには触れません)

 

*「私」は肖像画家

*『騎士団長殺し』というタイトルの日本画を描いた雨田俱彦。現在、90歳を越え、認知症を患っている

*雨田俱彦の息子で「私」の親友である雨田政彦

*「私」に肖像画を依頼してきた免色渉

*免色の娘かもしれない12歳の少女・秋川まりえ

*まりえの叔母の秋川笙子

*「私」の妻のユズ

*イデアの具現化した「騎士団長」

*メタファーの具現化した「顔なが」

*森の中にある直径1m位で深さ2m80cm位の大きな穴

*その穴の中にあった鈴

 

★村上作品の特徴であるリアルな世界と非リアルな世界が、これまでの小説のように描かれている。

 

非リアルの世界が描写されている部分を納得できるか、納得できないかでこの小説の評価は分かれるだろう。

 

★主人公の「私」が入りこんでいった異世界は読んでいて息苦しくなった。

 

それだけ筆力のある作品であるということになる。

 

筆力があるからこそ異世界を小説の中にとり込んでもリアリティーを維持できるのだと思う。

 

特に「私」が閉所をくぐり抜けていくところを読んでいるとき、読んでいる自分が息苦しくなってきた。

 

恐怖を味わうほどの文章力がある。

 

★この作品を含めて、村上春樹の小説には「井戸の中」に入ったり、「洞窟の中や狭い穴をくぐり抜けていく」などのシーンが多いが、それはなぜだろうか。

 

こんなシーンが出てくる作品には僕の記憶では『騎士団長殺し』以外に『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ねじまき鳥クロニクル』がある。

 

★村上春樹さんは、どうして閉所を描くことを好むのだろうか。

 

井戸の中や洞窟などの閉所が、現実世界と異世界とを繋ぐ場所だからでしょうか。

 

☆『騎士団長殺し』の読破は、3時間くらいの良い映画を見て心を動かされた体験に似ている。

 

長い長い夢を見て、そして目覚めた後の感じというのが読後の感想。

 

雨田俱彦が描いた『騎士団長殺し』というタイトルの日本画のイメージが鮮烈だ。

 

画家・雨田俱彦自身が、自身を殺そうと剣を突き刺している絵なのか。

 

いろいろな解釈ができる謎の多い絵である。

 

◆小説の中には麻薬のような作用を持つものがある。

 

村上春樹の作品には「麻薬」に近い作用を感じることがある。「擬似麻薬」である。

 

SF作家のP・K・ディックの小説にもそういう作用を感じたことがあった。

 

こんな小説にのめり込むと日常のリズムが乱れる。

 

ときに小説は「毒」になる。

そう吉本隆明も言っていた。

 

「何かに熱中することは、そのことの毒も必ず受けるということです」と吉本隆明は言っている。

 

小説、「恐ろしや」である。

 

しばらくは小説から離れることにしょうと思う。

 

★なおマイブログの中の「本をめぐる思い」という書庫(テーマ)のアーカイブに

“読書は果たして「毒」であるのか”というタイトルのエッセイが入っています。

2012年の記事になります。興味のある方のために紹介しておきます。

 

https://ameblo.jp/quanphoton/entry-12518964173.html

https://ameblo.jp/quanphoton/entry-12518964168.html

https://ameblo.jp/quanphoton/entry-12518963962.html?frm=theme

https://ameblo.jp/quanphoton/entry-12518963960.html?frm=theme

 

註:これらは、ヤフーブログ時代に掲載したものです。そのために引用部分が一部欠落していたり、改行が適切に行われていないなどの不備があります。

 

♪ここまでお読みいただきありがとうございました。