2017年5月に北海道上川町に誕生し、一躍時代の寵児となり、その後も、各地に衛星のような酒蔵を作って、とどまることを知らない上川大雪酒造のお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べることにしました。
5本目はこれです。
資金調達の目処がたち、杜氏選びも内定し、最後のハードルは清酒免許を三重から北海道で移転することでした。
清酒の免許を移転するというのはあまり過去に例がありませんでした。
酒蔵のオーナーが造る場所を諸々の事情で移したいというケースが過去にいくつかあったものの、その多くが同じ税務署管内か、せいぜい同じ県内ということで、手続きを踏めば、なんとか認めてもらっていました。
しかし、都道府県を越えて免許を移すというのは例がなく、役所がもっとも嫌う話でした。
実はこの時、同時並行的に都道府県を越える移転案件があったのです。
三重県のナカムラ(四日市市)を北海道上川町に移転するこの案件と、岐阜県の伊藤酒造の免許を東京都港区に移す案件(若松が申請し、2016年9月に認可された東京港醸造)でした。
もちろん、どちらも管轄の税務署が被らないので、税務署同士が連絡し合ったとは思っていませんが、時代が「廃業(休蔵)した蔵の免許を買い取って、新天地で酒造りをする」という新しいトレンドの幕開けにいたのだと思います。
この両案件は当事者は相当苦労したと思いますが、以後は、奈良の酒蔵を佐賀に移して誕生した光栄菊酒造や、岡山の酒蔵を北海道七飯町に移して誕生した箱館醸蔵、千葉の酒蔵を移転して愛知県半田市に誕生した伊東など枚挙にいとまがありません。
なにごとも先達の苦労が偲ばれます。
さて、5本目は十勝シリーズの中の変化球とも言える、「チーズに合わせて飲む」のをコンセプトにした純米酒です。
だいたい、こういう企画だと、あまり削らず黒い米で味を多くするのが一般的ですが、その通りの企画です。
上立ち香は酒エキスの濃醇な香りが。
口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面に細かな棘を内包したとろみ層を乗せて、ゆるゆるとしたムードで忍び入ってきます。
受け止めて保持すると、マイペースを崩さずにのろのろと膨らみ、拡散して、適度な大きさの濃くて太い粒々を次々と射掛けてきます。
粒から現出してくるのは甘味6割、旨味4割。
甘味は上白糖系の乾いた痩身のタイプ、旨味は重厚なタイプの異なるコクが織り上がった印象で、甘味は次の瞬間に儚く消え、旨味が単独でヘビーな世界を描きます。
流れてくる含み香は適度な熟成をした香りでデコレート。
後から酸味と渋味が適量現れて、味わいをより複雑系な世界へと導きます。
終盤になると渋味がさらに強まり、それを契機に渋味が全体を巻き取って、そのまま喉の奥へと連れ去っていきました。
この企画は成功していないと考えます。
それでは、上川大雪酒造のお酒、最後の6本目をいただくことにします。
お酒の情報(25年68銘柄目)
銘柄名「十勝(とかち)with Cheese 純米 2024BY」
酒蔵「上川大雪酒造碧雲蔵(北海道帯広市)」
分類「純米酒」
原料米「不明」
酵母「不明」
精米歩合「80%」
アルコール度数「14度」
日本酒度「不明」
酸度「不明」
情報公開度(瓶表示)「△」
標準小売価格(税込み)「720ml=2200円」
評価「★★★★(7.45点)」