神奈川「雨降 純米 りんご酸77号酵母仕込」熟していない青いリンゴを思わせる味わい | 酔い人「空太郎」の日本酒探検

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意欲ある先進地酒蔵のお酒をいただき、その感想を報告します。
SAKETIMESにも連動して記事を載せます。

自宅の晩酌に神奈川県伊勢原市の吉川醸造さんが醸しているお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

4本目はこれです。

 

 

雨降(あふり)純米 りんご酸77号酵母仕込」。

 

2020年にオーナーが創業家だった吉川家から、複合企業のシマダグループに代わり、1年目から酒造りを大転換。

わずが2年余りで酒質をがらりと変え、2021年春に発売した「雨降」が大注目を浴びている背景については空太郎がSAKEStreetに記事を書きましたので、そちらをお読み下さい。

ここではそこに書き切れなかったお話を紹介します。

 

新生・吉川醸造に変身するために最も優先したのが、必要な作業場の冷蔵化でした。

建物全体を空調にしてしまうのも手でしたが、蔵の建物は老朽化して、密閉しての冷蔵化は難しく、このため、個別に冷蔵庫に囲うことにしました。

仕込み部屋はもちろん、搾り部屋は2台の搾り機ごとに冷蔵庫に。

酒母室も3つありますが、別々に冷蔵庫に。

以前はぐちゃぐちゃだった動線をシンプルに無駄の無いように改良しています。

 

 

圧巻なのは火入れ&瓶詰め場です。

熱交換式のプレートヒーター&クーラーがあり、火入れ後には酒の中の酸素を除去する装置を通してからの瓶詰めです。

ガス感を残したい場合には生酒で瓶詰めし、パストライザー&クーラーを通して火入れをする仕組みです。

「お酒の品質を良くするには搾った後の工程が重要」というのが近年の酒蔵の合い言葉ですが、まさに、それを見事に体現しています。

逆に言えば、これだけの設備を揃えて、酒質がいまいちというのは許されないともいえそうです。

 

さて、4本目は、山田錦60%の純米酒ですが、協会77号酵母(リンゴ酸多産生酵母)を使ったお酒です。

 

 

上立ち香は鮮度の優れた濃縮ジュースのような香りが。

玩味すると中程度の大きさの旨味の塊は、平滑になった表面にわずかな気泡を纏って、キビキビとした態度で滑り込んできます。

 

受け止めて保持すると、気泡のわずかな破裂を背景にリズミカルに膨らみ、拡散して、適度な大きさのガラス玉様の粒々を連射してきます。

粒から滲み出てくるのは甘味6割、旨味4割。

甘味は上白糖系の乾いたタイプ、旨味はシンプル無垢でやや粗めな印象で、両者は仲良く肩を並べて、モノクロの世界を描きます。

 

流れてくる含み香はまだ熟し切っていない青いリンゴのような香りで薄化粧を付与。

後から酸味と渋味が少量現れて、あくまでも甘旨味の舞いを遠目に補佐するのみ。

味わいはモノトーンプラスアルファの世界が最後まで繰り広げられるのでした。

リンゴ酸を多く感じないおかげで飲み飽きないのですが、杜氏さんの意図した通りの仕上りなのだろうか、とちょっぴり考えさせられました。

 

 

それでは、吉川醸造の「雨降」のお酒、最後の5本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年208銘柄目)

銘柄名「雨降(あふり)純米 りんご酸77号酵母仕込 2023BY」

酒蔵「吉川醸造(神奈川県伊勢原市)」

分類「純米酒」

原料米「山田錦」

酵母「協会77号酵母」

精米歩合「60%」

アルコール度数「14度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「○」

標準小売価格(税込み)「720ml=1770円」

評価「★★★★★(7.7点)」