新潟「久保田 千寿 吟醸生原酒」濃醇な甘旨味を酸渋と辛さが攻め立てる | 酔い人「空太郎」の日本酒探検

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意欲ある先進地酒蔵のお酒をいただき、その感想を報告します。
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自宅の晩酌に新潟県長岡市の朝日酒造さんが醸しているお酒をまとめて取り寄せて、飲み比べをしました。

1本目はこれです。

 

 

久保田 千寿(くぼた・せんじゅ)吟醸生原酒」。

 

ご存知の方も多いかと思いますが、今回は朝日酒造の看板商品「久保田」誕生の経緯です。

戦前から戦後の高度成長期に入るまでは、日本人の労働は第一次産業のウエイトが高く、多くの人が汗をかいて働き、失われたミネラル分を補給するために、しょっぱい漬物などを好み、それに合う日本酒は甘口でした。

新潟に限らず、全国おしなべてそうでした。

ところが、戦後の復興の過程で都市部ではホワイトカラーが増え出します。

その動きにいち早く反応したのが、のちに新潟銘酒の父と言われる田中哲郎氏でした。

 

 

国税局の技術指導者だった田中さんは「これからは食生活が薄味になっていく。それに対応した酒を造るべきだ」と考え、新潟の十数蔵を集めて勉強会を始めます。

そこで、田中さんが強く求めたのが、すっきりとした綺麗な酒を造るために、精米歩合を上げ、麹は総破精から突き破精に切り替えることでした。

精米歩合を上げるのにはコスト高となるため蔵元が、突き破精は手間がもっとかかるので杜氏が、それぞれ抵抗してなかなか従わなかったのです。

でも、そんななか、一番最初にそれに挑んだのが「越乃寒梅」を造る石本酒造でした。

 

 

できたお酒は全国で大評判を呼び、1960年代半ばには入手困難酒になって、プレミアムがついて流通したそうです。

これを見て、新潟の他の酒蔵も動き出し、朝日酒造も杜氏達を説得して突き破精麹による「久保田」を1985年にデビューさせたのでした。

ちなみに、発売前のお酒のコードネームは「東京X」でした。

「東京で売るぞ!」という意欲を感じさせる名前ですね。

 

さて、1本目にいただくお酒は、「久保田」デビューの時から売られている、アル添吟醸の生原酒です。

 

 

上立ち香はチクチクとしたアルコールの刺激の香りが。

口に含むと中程度の大きさの旨味の塊が、平滑になった表面にとろみ層を適度に乗せて、ゆったりとしたムードで忍び入ってきます。

受け止めて保持すると、促されるままに素直に膨らみ、拡散して、適度な大きさの粘り気を帯びた粒々を速射してきます。

粒から滲出してくるのは甘味7割、旨味3割。

甘味はザラメ糖系の濃いタイプ、旨味は複数のコクが複層化した印象で、両者は仲良く肩を並べて、濃醇な味わいの世界を描きます。

流れてくる含み香も濃い甘い香りに、セメダイン臭が混じってやってきます。

後から酸味がやや多め、渋味も適量現れて、甘旨味を激しく攻め立てます。

甘旨味は刺激を受けて、ジグザグに駆け回り、終盤になると辛さが加わって、さらに騒がしくフィニッシュを迎えるのでした。

 

それでは、朝日酒造のお酒、2本目をいただくことにします。

 

お酒の情報(24年133銘柄目)

銘柄名「久保田 千寿(くぼた・せんじゅ)吟醸生原酒 2023BY」

酒蔵「朝日酒造(新潟県長岡市)」

分類「アル添吟醸酒」「生酒」「原酒」

原料米「不明」

使用酵母「不明」

精米歩合「麹米=50%、掛米55%」

アルコール度数「19度」

日本酒度「不明」

酸度「不明」

情報公開度(瓶表示)「△」

標準小売価格(税込)「720ml=1690円」

評価「★★★★(7.4点)」