東日本大震災の津波で蔵が完全に流されて、7年間仮設蔵で酒造りをし、昨年(2019)秋にもとの場所に新しい蔵を建てて、再出発を果たした宮城県名取市の佐々木酒造店が醸したお酒を3本まとめて取り寄せて飲み比べをしました。
1本目はこれです。
「宝船浪の音(ほうせんなみのおと)閖(ゆり)純米」。
佐々木酒造店が再出発を果たしたお話は、空太郎がSAKETIMESに記事を書きましたので、そちらを読んでいただくことにして、ここでは書き切れなかったお話をご紹介します。
設備面での最大のポイントは2階建ての蔵全体に空調設備が入り、それぞれの部屋で別々に温度&湿度管理ができることです。
蔵の入口にはエアシャワー室があって、蔵人の服に付着したほこりなども落とせるようになっています。
細かな所では、仕込みタンクの醪から発生する炭酸ガスを吸い上げる仕組みがあり、タンクへの転落事故防止に配慮している点や、醪へ投入する追い水の温度調整ができることです。
ただし、酒造設備の規模は流出前とほとんど変わらず300~400石です。
「せっかく、新しい蔵を建て直すのだから、将来をにらんでもっと造れる規模にすればいいのに」と外野は考えがちですが、そうはいかないのです。
今回の復興にかかった費用の相当部分が国からの補助金で賄われているためです。
「津波に遭う前に戻すために国が補助する」という趣旨から、以前よりもサイズを大きくすることはできなかったようです。
このため、今回の新蔵の弱点は、冷蔵設備が足りないことで、造ったお酒のほとんどを瓶貯蔵するとなれば、蔵以外に冷蔵倉庫を確保しなければなりません。
ま、順調に売れれば蔵としては望ましいことなので、特に難題というほどのものではないかもしれませんが。
さて、1本目にいただくのは、蔵のあった名取市閖上(ゆりあげ)地区に必ず戻ってくるとの決意を表明するために、震災後にデビューさせたお酒です。
当初は、閖上に戻ることができたら役目を果たしたとして終売にする予定でしたが、地元から「この先もやめないでほしい」との声が上がったので、蔵元の佐々木洋さんの判断で続行することにしたそうです。
60%精米の純米酒、火入れです。いただきます。
上立ち香は穏やかな酒エキスの香りが漂ってきます。
玩味すると中程度の大きさの旨味の塊が平滑になった表面にベビーパウダーをはたいて、サラサラな感触を振りまきながら、まっしぐらに転がり込んできます。
受け止めて舌の上で転がすと、促されるままにテンポよく膨らみ、拡散しながら適度な大きさの弾力性に富んだ粒々を連射してきます。
粒から現出してくるのは甘味7割、旨味3割。
甘味は上白糖系のさらりとしたタイプ、旨味はシンプルで朴訥な印象で、両者は足並みを揃えて、ほのぼのとした雰囲気を漂わせながら、ほっこりとした世界を描いていきます。
流れてくる含み香はマイルドで甘い香りで薄化粧を施します。
後から酸味が僅少、渋味が適量現れて、甘旨味の活性化をサポート。
味わいは終盤までバランスが崩れることなく、まったりとした昼下がりの午後を描いていくのでした。
それでは新生・佐々木酒造店のお酒、2本目をいただくことにします。
お酒の情報(20年279銘柄目)
銘柄名「宝船浪の音(ほうせんなみのおと)閖(ゆり)純米 2019BY」
酒蔵「佐々木酒造店(宮城県名取市)」
分類「純米酒」
原料米「ひとめぼれ」
使用酵母「協会9号」
精米歩合「60%」
アルコール度数「15度」
日本酒度「不明」
酸度「不明」
情報公開度(瓶表示)「△」
標準小売価格(税抜)「1800ml=2580円」
評価「★★★★★(4.3点)」