皆さま
映画やドラマで描かれる安倍晴明は、神秘的で超人的なヒーローとして人気を集めています。
しかし、なぜ現代人は彼に憧れるのでしょうか?その答えは、私たち自身の心の奥に潜む「鬼」との関係にあるのかもしれません。
ここで言う心の「鬼」とは何か?それは私たちの中に潜む妬みや嫉妬、自己愛の暴走から生じるものです。
平安時代に生きた陰陽師たちが、呪術を通じて人々の願いや悩みを解決したように、私たちもまた現代の課題に向き合うために「祓い」を必要としているのかもしれません。
今回は、安倍晴明という陰陽師の実像や巫師の役割を振り返りながら、現代人が直面する心の問題――自己愛と承認欲求の関係、そして「鬼」との向き合い方について考えていきます。
巫師とは何か
巫師(ふし)とは、地域社会に根ざした民間の祈祷師であり、特定の宗教団体に属さず、人々の祈りや願いを代行する存在です。
日本各地でその役割は異なり、東北地方では「イタコ」や「カミサマ」、沖縄では「ユタ」、四国では「タユウ」など、地域独自の文化に応じた巫師像があります。
巫師の仕事は、穢れを祓い、依頼者が直面する問題を解決することにあります。
失せ物探しや故人との交信、さらには呪詛返しといった霊的な支援を行う一方で、ときには依頼者の恨みを晴らすための呪詛を請け負うこともあります。
その技術は厳しい修行や先天的な霊的感受性に支えられ、神仏や死者との交信を通じて、人々に安心や希望を与える役割を果たしてきました。
現代では、巫師的な役割は必ずしも霊的な活動に限定されるわけではありません。
見方を変えれば、カウンセラーやセラピストが、心の問題に悩む人々に寄り添い、その癒しを支えています。
さらに、SNS上で精神的な励ましを発信するインフルエンサーたちも、広義の『巫師』として人々のつながりを築いています。
たとえば、瞑想の指導やメンタルケアの情報をシェアする活動は、現代版の祓いと言えるでしょう。
こうした現代的な巫師像は、人々の心に巣くう不安や孤独を和らげるだけでなく、他者とのつながりを取り戻す架け橋のような役割を果たしています。
平安時代の巫師が人々の祈りを受け止めてきたように、現代の私たちもまた、このような存在に心を託しているのです。
安倍晴明の実像に迫る
安倍晴明(921年?~1005年)は、平安時代中期に活躍した著名な陰陽師であり、陰陽道の大家として知られています。
彼は、天文や暦の作成、占術、祈祷など多岐にわたる職務を遂行し、天皇や貴族から高い信頼を得ていました。
その一方で、民間の信仰や修験道とも深く関わりを持ち、単なる官僚的な陰陽師ではなく、より広い霊的役割を担った人物でもありました。
特に注目すべきは、安倍晴明と稲荷信仰との深い関係です。稲荷信仰は、狐を神使とする日本独自の信仰であり、農業や商売繁盛の神として広く信仰されています。
晴明の母親が狐であったとする伝説や、京都の晴明神社に祀られている稲荷社は、晴明と稲荷信仰の密接な結びつきを物語っています。
また、陰陽道において重要な五行思想(木・火・土・金・水)の概念は、稲荷信仰が象徴する自然の調和と親和性が高く、稲荷の狐はその霊力を体現する存在と見なされていました。
伏見稲荷大社に伝わる荼吉尼天法の祭文では、狐と方位、五行が対応していることが示されており、晴明が稲荷信仰を通じてその呪術的基盤を強化していた可能性があります。
さらに、陰陽道は密教とも深い関係を持っていました。密教の祈祷や儀式に見られる要素が、陰陽道の実践に取り入れられることで、晴明の霊的能力はより強力なものとなりました。
例えば、護摩供や祈雨などの密教的儀式を陰陽道的視点で再解釈し、貴族たちの祈願に応えていたと考えられます。
このように、安倍晴明の活動は、単に陰陽師としての職務に留まらず、社会的な調和を支える重要な役割を果たしていました。
彼の呪術的行為は、人々の恐怖や不安を鎮めるとともに、社会全体の秩序を維持するための重要な役割を担っていたのです。
その意味で彼もまた巫師としての活動を行っていたと言えます。
自己愛が作り出す「鬼」
「自己愛」とは、心理学において自己への肯定的な感情や、自分自身を大切にする感覚を指します。この感覚そのものは健全なものであり、適度な自己愛は個人の成長や幸福に必要不可欠です。
しかし、自己愛が過剰になると問題が生じます。それが「自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder, NPD)」として表れる場合もあります。
自己愛性パーソナリティ障害は、自分の重要性に対する過剰な感覚、他者への共感の欠如、過剰な賞賛欲求が特徴の一種のパーソナリティ障害です。
この状態にある人は、自分を特別視する一方で、他者からの評価に非常に敏感であり、批判に対して強い怒りや恨みを抱く傾向があります。
自己愛と深く関連しているのが「承認欲求」です。他者に認められたい、尊重されたいという欲求は人間の基本的な心理的欲求の一つですが、これが過剰になると問題を引き起こします。
他者から承認を得られない場合、自己評価が急激に低下し、攻撃的な感情や行動につながることがあります。
このような状態は「自己愛性パーソナリティ障害」にも見られる特徴であり、現代社会における心の問題の一因です。
心の「鬼」との関連
現代社会では、SNSや職場の競争が過剰な自己愛を助長し、心の中に「鬼」を生み出します。
心の「鬼」の図
この「鬼」は、他者との比較や嫉妬、羨望を糧に成長します。「もっと注目されたい」「もっと認められたい」といった欲求が満たされないとき、私たちはこの「鬼」に支配され、攻撃的な感情を抱くようになります。
たとえば、SNSで他人の成功を目にして感じる妬み、職場や学校での陰湿ないじめ、あるいは自分の価値が他者によって脅かされるという恐怖心は、心の「鬼」の仕業です。
この「鬼」は、自己愛が過剰になったとき、あるいは傷ついた自己愛が癒されないまま放置されたときに姿を現します。
平安時代における呪詛と同じように、現代社会でもこうした感情が他者を攻撃する行動として表れるのです。
安倍晴明が象徴するもの
現代の陰陽師ブームの背景には、「誰かに助けてもらいたい」「恨みを晴らしてほしい」という願望があります。
安倍晴明という象徴的な存在が、現代人の心の「鬼」との戦いを担う英雄のように描かれるのは、この潜在的な欲求を反映しているのです。
特に稲荷信仰との結びつきが語られる晴明は、ただの呪術師ではなく、人々の祈りや願いを受け止め、現実の困難や心の葛藤に対処する巫師としての一面を持っていました。
狐の伝説や稲荷大神との関わりを持つ彼の姿は、自然界や霊的な存在と人間との橋渡し役として、古代から現代まで続く霊性を象徴しています。
しかし、私たちが心の中の「鬼」を癒すために本当に必要なのは、超人的な存在や他人に頼ることではありません。
むしろ、自己愛の健全なコントロールと、自分の内面と向き合うことが求められます。
巫師が行っている祓いと同じように、自らの心を浄化する努力をすることが重要です。
心の「鬼」と向き合うために
巫師や陰陽師たちは、人々の心に巣食う「鬼」に寄り添い、それを鎮めるための祓いや呪術を行ってきました。
それは今で言えば、一種のセラピーと言い換えることもできます。祈祷行為そのものが「癒やし」としての効果を持っているのです。
現代においても、私たちは心の「鬼」に向き合い、健全な自己愛を取り戻す努力が必要です。そのためには、日々の生活の中でできる小さな実践が大きな助けとなります。
1. 内的承認を育む習慣を持つ
内的承認とは、自分自身で自分の価値を認める力です。他者の評価に頼らず、自分の心の中で「これでいい」と思える感覚を育むために、以下を試してみましょう。
自己対話を行う……毎日数分でも、自分の感情や考えを振り返る時間を持つことで、自己理解が深まり、心の安定につながります。ノートに書き出したり、静かな場所で内省することも効果的です。
感謝のリストを作る……自分が感謝できることをリスト化することで、ポジティブな視点を持ちやすくなります。日々の小さな幸せを認識することで、他者との比較から解放される感覚を得られるでしょう。
2. SNSや外部評価から距離を置く
SNSは過剰な承認欲求を助長しやすいツールですが、使用法を意識することでその影響を和らげることができます。
利用時間を制限する……SNSの使用時間を決め、情報過多や不必要な比較から自分を守りましょう。
ポジティブなコンテンツに触れる……自分に良い影響を与えるコンテンツやコミュニティを選ぶことで、SNSを健全に活用できます。
3. 心の「祓い」を意識した行動を取り入れる
巫師や陰陽師が行っていた祓いは、心の浄化や再生のための重要な儀式でした。これを現代風にアレンジした行動も、心の「鬼」を鎮めるのに役立ちます。
祈りや深呼吸……例えば、毎朝5分の祈りの時間を取り入れることで、心の中にたまった緊張や負の感情を手放すことができます。静かな時間を作り、深呼吸をしながら自分の内面を見つめ直すと、心のバランスが整い、内的承認の感覚が育まれます。
当ブログでは麗月が言霊師として、様々なシチュエーションで活用できる「唱え言葉」や「祝詞・祭文」を紹介しています。祈りのコツとして参考になります。
自然と触れ合う……森林浴や公園での散歩など、自然と接する時間を持つことで、心が穏やかになり、自分を見つめ直すきっかけが得られます。
4. 健全な人間関係を築く
孤独は心の「鬼」を大きくしてしまう要因の一つです。信頼できる人々とのつながりを育むことも重要です。
本音で話せる相手を見つける……親しい友人や家族、場合によってはカウンセラーなど、本音を共有できる存在がいることで、孤独感や不安を和らげることができます。
他者に優しさを向ける……他者を助けたり、喜ばせる行動を取ることで、自分自身もポジティブな気持ちを得られます。利他心を育むことは「鬼」を退けるための有効な方法です。
まとめ――心の「鬼」を鎮めるために
巫師や陰陽師たちは、時代を超えて人々の心に寄り添い、「鬼」を鎮めるための知恵と祈りを提供してきました。
その知恵は、現代を生きる私たちにも重要なヒントを与えてくれます。
心の「鬼」を鎮めるために必要なのは、他者の評価に振り回されず、自分自身と向き合う時間を持つことです。
日々の中で小さな実践を積み重ねることで、内的承認を育み、健全な自己愛を取り戻すことができます。
安倍晴明が象徴する巫師の叡智と稲荷信仰の力をヒントに、自分の心を見つめ直し、穏やかな日常を取り戻す――それが、私たち一人ひとりに求められる「祓い」ではないでしょうか。
(了)
以下の過去記事を読んでいると本記事の理解がはかどります。
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