皆さま

 

前回の記事「魂のライフサイクル(7):死して「ある」こと」で、アニミズムについて少し触れましたが、この概念について少し専門的な観点から解説を加えておきたいと思います。

 

よろしくお付き合いくださいませ。

 

アニミズムの概念

 

アニミズム的思考とは、自然界のあらゆるものに霊魂や意識が宿っていると考える思考法です。この言葉は「気息」や「霊魂」を意味するラテン語のアニマ(anima)に由来していて、「さまざまな霊的存在(spiritual beings)」=霊魂、神霊、精霊、生霊、死霊、祖霊、妖精、妖怪、動物霊などへの信仰を意味します。

 

この概念は、次のような特徴を持っています:

1.すべての存在に生命力がある…石、木、川、山などの自然物だけでなく、人工物にも霊魂が宿っていると信じられています。これにより、すべてのものがある種の生命や意識を持っていると見なされます。

2.人間と自然の一体感…アニミズム的思考では、人間と自然は密接に結びついていると考えられます。人間は自然の一部であり、自然との調和が重視されます。

3.儀式と信仰…アニミズム的な文化では、自然の霊や精霊を敬うための儀式や信仰が発展しています。これには祭りや祈り、供物などが含まれます。

4.伝統的な物語や神話…多くのアニミズム的な文化には、自然や動物、精霊に関する伝統的な物語や神話が存在します。これらの物語は、文化や社会の価値観を伝える重要な手段です。

5.倫理と環境保護…アニミズム的思考は、自然や環境を大切にする倫理観と結びついています。自然霊を尊重することで、環境保護の意識が高まります。

 

アニミズム的思考の表れている具体例としては、日本の神道を挙げることができます。


神道は、アニミズム的要素を多く含んでいます。神道では、山や川、樹木などの自然物に「神(かみ)」が宿ると信じられています。神社はこれらの神を祀る場所です。

神道の代表的な祝詞である大祓詞には、「騒いでいた岩や木や草でさえもしゃべるのをやめた」というくだりがありますし、古代日本人の感性がアニミズムに根ざしていたことをよく表していると言えます。

 

神道では、自然物の背後に隠れ身のカミの存在を感じ、磐座、大木などをカミの依り代として拝みます。

 

その他にも、アフリカの伝統宗教、ネイティブ・アメリカンの信仰にアニミズム的思考が明確に見られます。

 

アニミズム的思考は、多くの伝統的な文化において重要な役割を果たしており、現代の環境保護や持続可能な生活への関心にも通じる部分があります。この考え方は、自然との調和を重んじる価値観を強調するものであり、現代社会においても再評価されつつあります。

ところで、アニミズムについて最初に論じたのは、エドワード・バーネット・タイラー(Edward Burnett Tylor)です。

 

タイラーの学説は、アニミズムが宗教の起源を説明する重要な概念であるとされています。

タイラーは1871年に著した『原始文化』(Primitive Culture)で、アニミズムを宗教の最も基本的かつ原初的な形態と位置づけました。

彼によれば、霊魂の存在を信じることは、死後の世界や霊的存在に対する考えを形成する基盤となり、これがさらに発展して複雑な宗教体系が生まれるとしました。

タイラーは、宗教がアニミズムから発展し、より複雑な多神教や一神教に進化していくと考えました。彼はこの進化的視点から、アニミズムを宗教の最も初期の段階と位置づけました。

 

ただ、タイラーの学説には西洋中心的な視点から非西洋文化を評価する傾向があるため、エスノセントリズム(自文化中心主義)の批判も受けています。彼の理論は、非西洋の宗教や信仰を「原始的」と見なす傾向があるからです。

 

 

アニミズムの心理学

 

アニミズム的思考に関する心理学的な理論は、特に子どもの発達に関する研究で重要な役割を果たしています。

 

ここでは、主要な理論と研究者を紹介します。

ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)は、アニミズム的思考に関する最も影響力のある理論の一つを提唱しました。彼の認知発達理論によれば、子どもは特定の発達段階においてアニミズム的な思考を示します。ピアジェはこれを次のように説明しました。

感覚運動期(0-2歳)…この段階では、子どもは主に感覚と運動を通じて世界を理解します。アニミズム的思考はまだ明確には見られません。

前操作期(2-7歳)…この段階で、子どもは象徴的思考を発達させ、物体や出来事に霊魂や意識を付与する傾向があります。例えば、人形やぬいぐるみが「生きている」と考えることがあります。このアニミズム的思考は、子どもが物理的な世界と精神的な世界を分けて理解する能力がまだ発達していないために起こります。

具体的操作期(7-11歳)…この段階で、子どもは具体的な論理的思考を発達させ、アニミズム的思考は次第に減少します。物体に対する霊魂の付与が現実的でないことを理解するようになります。

形式的操作期(11歳以降)…この段階では、抽象的思考が可能となり、論理的な問題解決ができるようになります。アニミズム的思考はほぼ消失します。

次に、ロシアのレフ・ヴィゴツキーの社会文化的理論は、ピアジェとは異なる視点からアニミズム的思考を捉えました。彼の社会文化的理論では、子どもの思考は社会的および文化的な文脈の中で発達すると考えます。ヴィゴツキーによれば、アニミズム的思考は子どもが所属する文化や社会の影響を受けるものであり、教育や対話を通じて変化していくとされます。

さらに、アメリカのジェローム・ブルーナー(Jerome Bruner)は、物語やナラティブの役割を強調しました。彼の理論では、子どもは物語を通じて世界を理解し、アニミズム的思考も物語の一部として現れるとされます。子どもが物語を通じて物体や出来事に意味を与えるプロセスで、そこにアニミズム的な要素が現れることがあります。
 

というように、幼児の思考がアニミズムを反映しているという学説が中心になっていて、大人になるにつれてアニミズム的思考はなくなっていくというのが通説です。

 

しかし、アニミズム的思考や心性は子どもに特徴的に視られるものとは限らず、児童から高齢者にまで認められる全世代的な「パーソナリティ特性」であるというデータもあります。

 

参考文献

 

末田 啓二 2020 アニミズム心性ははたして未熟な人格特性なのか?-内的適応のための機能的役割-甲子園短期大学紀要 38 (0), Pp.1-6.

 

この研究によれば、アニミズム心性が認知能力の発達、さらには社会性や人格発達に伴って次第になくなっていくような「未熟なパーソナリティ特性」とは限らず、成人が普遍的にもっていることを示しています。

 

日本最古の漫画 鳥獣人物戯画

 

アニミズム心性は、人間以外の動植物や事物、自然現象にも人間と同様の意思や感情があると感じる感覚や情動を指します。

 

これは特に日本のように自然との共存を重視する文化に顕著ですが、文学や芸術における擬人化表現は世界中で見られます。

 

アニミズム心性は、漫画やアニメのキャラクターに感情移入する際にも現れ、非合理的であっても強い現実感を伴うことがあります。

 

アニミズム心性尺度項目例とその対象(カッコ内)

1  ポツンと離れて立っている街灯は、いかにもさみしそう(無生物)
2    道ばたに咲いている花は、私に何か話しかけてくれているようだ(植物)
3    カラカラの田んぼではカエルの声は苦しそうに聞こえる (動物)
4    しとしと静かにふる雨をながめていると、お空が泣いているようだ(自然)
5    きずつけられた机を見ると、とても痛そうだ(無生物)
6    タンポポの種が風に吹かれていると、とても楽しそう(植物)
7    ペットは家族のひとりである(動物)
8    激しい雷はまるで天が怒りくるっているようだ(自然)

末田 啓二 2020 に基づいて再構成

 

上の囲みに示されているような具体例では、無生物や動植物に対しても感情を感じる様子が描かれています。

 

この心性は、合理性や科学性とは対極にあり、歴史的に宗教や信仰と共に人類共通の心理的メカニズムの一つとして存在しています。

 

仮にAIが進化してもこの感覚や情動は生まれないと考えられ、アニミズム心性は人間の普遍的な知覚様式の一つとされています。

 

アニミズム的思考や心性は、かつては原始文化や未開人、幼児に見られる非合理的な心理と見なされていました。

 

しかし、科学が主体と客体を分離し、不合理なものや非科学的なものを前近代的、幼児的な特徴として排斥してきた背景から、アニミズム的思考も発達途上の未熟な思考様式と評価されてきたのです。

 

特に欧米では、自立・独立を重視する価値観から、自己と他者の区別が曖昧で、感性に支配されるアニミズム心性に基づく自然信仰や自然宗教は原始的で未熟な宗教と見なされていました。

しかし、最近の文化人類学や宗教学では、このような評価は改められつつあります。アニミズム心性は、人が生まれつき持っている感性であり、理性と同様に人間性に必要な資質と再評価されています。

 

日本では漫画やアニメが親しまれてきたわけですが、最近では欧米の成人にも同様の関心が見られるようになっています。日本のアニメ文化は海外でも広く人気を博しています。

 

これは、アニミズム心性がどの文化にも共通して存在する人間の本来の特性であることを示しています。つまり、アニミズム的思考は非合理的で未熟なものではなく、むしろ人間性の重要な一側面であると再評価できるわけです。

 

 

巫師の視点からのまとめ

 

私たちの場合、霊魂というモノを直に扱う仕事です。普段の仕事の様子をあまり言挙げしてはいませんが、肉眼で見える物理的な世界と重なるように、非人間的な存在が出現してきて、もはや日常的な意識の中に同居しているという感覚になることもあります。

 

生霊、死霊、動物例と言った憑霊はもちろんのこと、神霊=神のお使い、ガイド、守護神のイメージと言った存在が突然姿を現し、私たちに重要なメッセージを与えてくださることもままあります。

 

これも一つには、巫師の意識が日常的な自我意識のレベルではなく、気の次元、非人間的な意識場を含む想念の次元、そしてときには神仏意識の次元にまで拡張しやすい体質を持っているが故のことだと考えています。

 

一般の人の場合、そこまで激烈な非日常的意識の状態に移行することはほとんどないでしょうが、それでも自然現象、モノや事物にも魂が宿っていると考えて、なんとなく自然の恵みに感謝する、食べ物や道具を粗末に扱わないといった行いの中に、アニミズム的心性が現れているとも言えるのです。

 

食事の前に「いただきます」という場合、生産者や食事を作ってくださった人に対する感謝の気持ちだけでなく、食べ物の命をいただくことの有難味の気持ちも込められています。

 

神道には保食神=食べ物の神さまもいらっしゃいます。これは稲荷五社大明神の中の一柱にもなりますから、いつも私たちが食べられることの感謝の気持ちを心に刻みつつ朝な夕なに拝んでいます。

 

なので、私たち巫師の場合は、大昔の精霊信仰の時代から行われてきた祭祀を通じて、アニミズム的な世界の中で暮らしています。

 

 

最後に、一言、懸念事項を伝えて締めくくります。

 

子供の心理発達という視点から考えると、合理的な精神=自我の確立が十分ではありません。

 

また、成人でも自分の確固としたアイデンティティの拡散してしまっている人も大勢います。

 

そういう人が超越体験、神秘体験をしてしまうと自我が破綻してしまって、現実と幻想との区別も付かなくなり、錯乱状態になってしまうことがあります。

 

個を超える体験をすることとは、個人がただ単に埋没し、世界と一体化するという意味ではなく、自分のアイデンティティを明確に確立することが前提となってはじめて成し遂げられるものです。

 

なので、自他の境界線が未分化な子供や、合理的な精神が十分に発達していない成人は、現実認識が不安定になり、非現実的なイメージやビジョンに飲み込まれてしまうというリスクが発生します。

 

ニューエイジやスピリチュアル系のサイトを眺めてみると、この点に注意を払うどころか、個が埋没したり、超越ではなく自我が破綻して精神錯乱になるような状態までも「超意識」「宇宙意識」との遭遇として礼賛しているところが一部にあります。

 

この点は、本当に気をつけていただきたい点ですね。霊性開発は尋常ではない意識に移行して、元に戻らなくなるリスクも背負っているということを覚えておいた方が良いです。

 

いくら霊性だけを開発しても、認知、社会性、情緒、道徳性などの人格発達がこれに伴っていなければ、ただのアブナイ人になってしまうだけです。

 

 

 

 

 

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