数日前の出来事です。
(以降、日本昔話調で読んでいただくとよろしいかと)
その日は冬には珍しく春めいた日中でございましたが
夕刻には路面を覆っていた雪がシャーベット状となり
行き交う車が跳ね上げて歩行者を襲うまことに
歩きにくい道路状態でございました。
吾作は歯医者に行きましたとさ。
(吾作とはわしのことでございます。なんせ昔話と言うと
わしの中では主人公は伍作と相場が決まっておりますので)
半年に1回のメンテナンスは当日の最終予約でありました。
帰りがけに事件は起きたのでございます。
「わしの靴が無い!」
履いてきたスニーカー見当たらないのでありました。
吾作の頓狂な声に窓口から覗き込む受付嬢。
「お姉さん、わしの靴、間違えて履かれていってしもうた」
受付嬢 「あらま、大変」
「人の靴を履いて行くとはなんとそそっかしい人がいたもんだ」
くそっ、買ったばかりじゃぞ」
二人のやり取りを聴いて診察室から看護師さんや
技工士さんがドヤドヤとやってまいりました。
なんせ吾作が最後の患者ですから、皆さんお暇。
「○○さんかも。吾作さんの前の人だもん」
「○○さんの連絡先、カルテみたら判るね」
「あっでも〇〇さん、女性やん。吾作さんのと間違える?」
「困りましたね、呉作さん、」
皆さん、吾作を囲んでわいわいがやがや。
中の一人が言いました。
「とりあえず、そこの長靴でも履いていかれたら。間違えた人が
そのうち連絡してきますよ」
その瞬間、吾作はハッと気が付いたのでございます。
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出がけに嫁が言ったのです。
「足元悪いから長靴履いて行ったほうが良いよ」
ああああああっ
そうです。吾作は長靴に履き替えていたのです。
自分が最初スニーカーを履いたのでそこだけが記憶に残り・・・
いまさら勘違いしてたとはまことに言い出しにくい。
(ううう、この事態をどう切り抜けたらいいんじゃ???)
おもむろに咳ばらいをひとつして、
「仕方ない、とりあえずこの長靴履いて行くことにする。
で、間違えた人から連絡あったら知らせて」
医院を出て脱兎のごとく逃げ帰る吾作でありました。
ぼうや~良い子だねんねしなぁ~♪
ちゃんちゃん♪