【ホームレス正社員】 | 【実録・倒産社長の奮闘記】~こうして店は潰れた!~小林久ブログ

【実録・倒産社長の奮闘記】~こうして店は潰れた!~小林久ブログ

老舗スーパー三代目→先代の赤字1.5億円を2年で黒字化→地域土着経営で中小企業の星に→中小企業診断士試験に出題→最年少山梨県教育委員長→早過ぎたSDGs →2017年まさかの倒産→応援団がクラファンで3,000万円支援→破産処理後は全国の経営者に寄り添う日々


テレビで地元のニュースを観ていたら、いわゆる「ホームレス」の人たちが農場で作業している風景が目に止まった。NPOの農場で働くことの対価で、弁当や飲み物が貰えるとのこと。顔にはモザイクがかけられていた。

一人のおじさんが言う「生活保護に頼りたくない!職を見つけて社会復帰したい」
この人だけ顔にモザイクがかかってなかった。こんな時、なぜか自分のスイッチが入る、「ROCK‼️じゃないか、自分の顔を晒して仕事を探してる。LinkedInと変わらない (笑)」

困っている人がいたら手を差し伸べなさい!と学校でも教わった。

すぐさまNPOに連絡し、このおじさん(とは言っても50代半ば)をうちのスーパーに正社員として迎えたいと伝えた。NPOの長は報道のおかげと喜んでメディアにも連絡した。メディアにすれば格好のネタである。面接から入社準備、引っ越しから出勤の様子をドキュメント番組として放映したいと依頼された。

「なんだかなぁ…」と思いつつも同様の状況の人に希望を持ってもらいたい気持ちもあって承諾した。私が直接面接し「体は丈夫か?」「変なクスリやってないか?」だけを確認して即採用😄もちろん社内の同意も得ていた。

私が保証人となってアパートを借り、保険証を持たせ、ナベ釜など必需品はパートのおばちゃんたちが揃えてくれた。携帯電話は持つ必要がないし、配属店舗はこれから開店するまっさらな店で、古株のイジメもない (笑) 食事は毎日店で値引きされた惣菜を買えば食費も知れている。

「社長さん、ありがとうございます。屋根のある所で働けるだけで幸せですm(_ _)m」
彼の言葉は全社の従業員の胸を打ち、皆が初心に帰って頑張ろうと一致団結した。

開店の日、新聞で見たお客さんが次々に声を掛ける。「良かったね、頑張れし(甲州弁)」「新聞で見たよ、店長さんになったのけ?(同)」特段スキルのない彼は、入口で一人ひとりのお客さんに買物カゴを渡す係を務めた。満面の笑みとはいかない、なぜなら彼には歯がないのだから😅💦

競合他社からはまたいつもの「売名行為」の悪評。

何もしないのに文句を言うのは卑怯だと思った。

入社して3ヶ月ほど経った年末のある日、彼は突然姿を消した…。

「それ見たことか!」ライバルのドヤ顔が目に浮かぶ💧

 

アパートの部屋は乱雑、警察にも捜索願を出した。「とにかく生きていてくれ🙏」

その年末年始は生きた心地がしなかった。

 



春になりNPOを通じて彼が見つかったとの連絡が入った。隣の県で交通整理員として働いているという。それを聞いてホッとした、と同時になぜ消えたのか理由が知りたかった。

「ホームレスの社会復帰でメディアに取り上げられ、モザイク無しの顔を見て昔の仲間が居場所を突き止め、羽振りが良さそうに見えた彼をさらって行った」と。
想定外だった。良かれと思っていたのに。
「彼は社長さんに会わせる顔がないと💧」

「今からでも良いから帰ってくるように言ってください、アパートもそのままにして、みんな待ってるから!」


NPOの長は言った

「昨日まで公園のベンチで寝ていた人は、何かのきっかけで社会復帰しても、また何かのきっかけでベンチに戻るんです。追わないでください!」
言葉もなかった。

ドキュメント番組の放映は急遽取りやめとなり、日曜日の深夜(誰も見ていない時間)に「ホームレスの社会復帰の難しさ」にテーマを替えてひっそり放映された。自分のしたことは間違いなのか?やはり単なる売名行為だったのか?未だに答えは出ていない。

自分が倒産して破産した時も思った。


「絶対生活保護に頼らずに社会復帰したい」


今、彼と同じ社会の底辺を経験している自分。当時社会福祉を甘く見たブーメランかも知れない。