オランダ国立バレエ「ジゼル」のテレビ放送を楽しめるよう、「ジゼル」のストーリーを「世界一分かりやすく」お伝えすることを目指した紹介記事。
今回は、第2幕、いよいよ女王ミルタが率いる精霊ウィリたちの登場です!
第2幕
ジゼルが埋葬されたのは、森の奥深く。
突然死のため、亡くなる前に清められなかったジゼルは、教会の墓地へ入ることが許されなかったからです。
お墓参りへやってきたヒラリオンは、自分の嫉妬心から、愛するジゼルを死へ追いやってしまったことを悔いていました。
ちょうど真夜中、精霊ウィリが墓から甦る時刻。
怪しげな鬼火や幻に怯えたヒラリオンは、森の奥へと逃げていきました。
やがて、地中から、精霊ウィリの女王ミルタが姿を現します。
花嫁装束を纏い、暗闇に美しく浮かび上がる彼女は、かつて愛した男性に裏切られ、生命を落とした乙女の1人。
毎夜、墓から甦っては、迷い込んだ男性を死の舞踏へと誘い込むのでした。
女王ミルタの呼びかけに応じて、地中から多くのウィリたちが姿を現し、美しくも冷たい踊りを披露します。
★Key Point⑤ 精霊ウィリたちの踊り
「ジゼル」は、「ウィリたちを登場させるために作られたバレエ」というだけあって、影の主役ともいえるのがウィリたち。
ミルタ率いるチーム・ウィリの2番手を任されているのが、ドゥ・ウィリ(2名のウィリ)である、ズルマとモイナ。
バレエ団の期待の新人~中堅クラスが務めることが多い役どころです。
当ブログではお笑い担当ですが、やる時はやるタイプですよ😅
「かつては、1人1人の人生があった乙女」が、今では「無機質な精霊」となっていることが伝わる、統一感のある群舞にご注目を。
一番の見せ場は、アラベスク(片足立ち)のまま、24名のウィリたちが舞台上を交差しつつ横切るシーン。
途中で思わず客席から拍手が贈られるほど、バレエ団の総合力が試される場面です。
女王ミルタは、最も新しい仲間であるジゼルを、墓から呼び出します。
1幕では、あれだけ踊りとロイスを愛する乙女だったジゼルも、ミルタに命じられ、実体のないウィリの仲間入りを果たします。
初演では、この場面で、ジゼルの背中にパッと羽根が生える仕掛けがありました。
一瞬で、1幕との対比を魅せる、浮遊感溢れる踊りに注目です。
誰かがやって来る気配を察知したウィリたちは、獲物を待ち構えるべく、サッと姿を隠します。
トボトボと歩いてきたのは、アルブレヒト(ロイス)。
自分の過ちを悔いて、ジゼルを死なせてしまったことを悔いる彼は、せめてもの償いとしてお墓参りへやってきたのです。
今更かよ、という感じですが、初演では、アルブレヒトは帽子を被って登場、ジゼルの墓前で、その帽子をとって跪くという仕草がありました。
「貴族であるアルブレヒトが、村娘の墓前で敬意を表する」というのは、普通ではあり得ないわけで、"一応”自分の行為を悔いているわけです。
「どうか、もう一度だけ、姿を見たい…」
その声に応えるように、精霊となったジゼルが姿を現します。
気配を感じたアルブレヒトは、必死に彼女の姿を追いますが、その姿を見ることも、触れることもできません。
★Key Point⑥ ジゼルとアルブレヒトの踊り
ジゼルとアルブレヒトが共に踊る場面は、第1幕でもありますが、第2幕では、「精霊と人間」という関係性。
「実体のない精霊」ということを、説得力をもって伝える、リフトの多用や、音を立てない足さばき、2人の表現に注目です。
また、ジゼルが花を投げ、アルブレヒトが必死に追いかけるシーンは、「自分のことが見えない恋人に、場所を知らせたい」というジゼルの必死な想いの表れ。
そして、ウィリたちが獲物を待っていることを知っているジゼルは、アルブレヒトに自分の姿を追わせつつ、ウィリたちがいる場所から遠ざけようとしているという優秀さ。
一方、ヒラリオンは、ウィリたちに追いつめられ、必死に命乞いをしますが、感情を持たないウィリたちが聞き入れるはずもありません。
ウィリたちは、妖精の輪をつくって彼を追いつめ、最後は沼へ突き落として殺してしまいます。
★Key Point⑦ 死ぬまで踊る
ヒラリオンを追いつめるシーンは、ウィリたちの恐ろしさを十分に味わえるパート。
ミルタが、両手を頭上に上げて、手をぐるぐると回すのは、「踊る」、そしてこぶしを握り、両腕を顔の前で交差させてから下へ下すのは、「死ぬ」という意味。
つまり、「死ぬまで踊りなさい」という命令です。
魔力で踊らされるヒラリオン役の文字通り「必死な」踊りにも注目。
ウィリたちは、続いてアルブレヒトを殺そうとしますが、ジゼルがミルタの前に立ちはだかり、「彼を殺さないで」と庇います。
もちろん、ミルタが聞き入れるわけもありませんが、自分もウィリであるジゼルは、ウィリの弱点を知っていました。
自分の墓の十字架の前に、アルブレヒトを導くと、さすがのミルタも、神の加護とジゼルの愛の前では手出しができません。
しかし、それで諦めるほど、ミルタも優しくはありません。
「アルブレヒトを十字架から引き離せば、もう後は容易いわ…」
そこで、あろうことか、ジゼルに踊りを披露するよう、命令します。
ウィリであるジゼルの舞いには、魔力があるため、それを見たアルブレヒトは、自ら十字架から離れて、ジゼルの方へやってくるはず、そうすればウィリたちの思うつぼです。
ズルマ:さすがミルタ様👏
ミルタ様:だてに勤続年数を稼いでいるわけじゃないわよ、ウィリは実力主義!
それを分かっているジゼルは、アルブレヒトに決して十字架から離れないで、と訴えかけますが、ひとたび踊り始めると、その忠告に意味はありません。
アルブレヒトは、ジゼルの元へ誘い出され、一緒に踊り始めてしまいます。
どうしても愛する人を救いたいジゼルは、次の手段を考えます。
「ウィリの魔力は、明け方には消える、それまで彼を生かしておけたら…」
あえて、スローテンポの踊りを選び、自分だけが踊るパートも用意して、時間を稼ぐ作戦でした。
★Key Point⑧ 愛と救済
「ジゼル」という作品は、「人間の村とウィリの森」、「生と死」、「昼と夜」のように多くの対比が用いられています。
キリスト教とウィリ(多神教)の対立もその1つ。
土着の言い伝えの産物であるウィリは、キリスト教を象徴する十字架には勝てません。
また、アルブレヒトのソロで、彼が対角線上に舞台を行き来するのは、救済(十字架)と断罪(ミルタ=ウィリは異端の象徴)の間で揺れ動く様を意味しているとされます。
音楽や振付で、2人の愛を表現したと思われるパートもあり、あの花占いのメロディーがもう一度登場する他、アルブレヒトが、第1幕でジゼルから誘われて披露したステップをそのまま踊る場面も。
この場面の直前、アルブレヒトが披露するステップに注目を。
2人が幸せだった頃
それでも、ウィリたちに容赦なく踊らされるアルブレヒトは、着実に弱っていきます。
彼の生命が消えかけた時、夜明けを知らせる鐘の音が響き、ウィリたちは墓へ戻っていきました。
ジゼルは、とうとう愛する人を守り抜いたのです。
そして、自分も、また墓へ戻らないといけないジゼルは、今度こそアルブレヒトに永遠の別れを告げます。
アルブレヒトの手には、ジゼルがお別れの口づけの代わりに残した、薔薇の蕾が握られていました…。
究極の最低男であるアルブレヒトが、どうして許されるのかは、けっこうご都合主義ですが、これを名ダンサーがやると実に感動的な仕上がりになるのです。
これまでも、数々の名演が残されてきた「ジゼル」、今回の配役にも期待が高まります。

(エピローグ)
ミルタ様:あーあ…。クーランド公…、好きだったのに、一度もお墓参りとか…
ド・ウィリ:え~、初耳!!!!てか、意外と若くない?もっと長老かと…
ミルタ様:だから!実力主義です!