11月25日(土)の「Ballet Musesーバレエの美神2023ー」大阪公演第二部。

前回の記事では、コジョカル&ムンタギロフの「眠りの森の美女」だけで1記事が出来上がるというミーハーぶりを発揮してしまいましたので、今回は第二部の続きから。

 

↓前回まではこちら

 

 

 

 

 

「Ghost Light」

吉山シャール ルイ・アンドレ(チューリッヒ・バレエ)

 

ギャレット・スミスが2018年に吉山さんのために振付した作品。

幕開けからステージの雰囲気がガラッと変わって、一気に世界観に引き込まれました。

あの一瞬の舞台転換、凄かったです。

 

 

↓吉山さんのインスタより舞台映像

 

作品自体も非常に不思議で、タイトルにもあるゴーストライトに照らされた空間で、吉山さんが次々と動きを見せていく中で、まるで違った景色が浮かび上がってくるようで。

振付自体も、時に和のテイストといいますか、東洋の武術を取り入れたようにも見える動きが多くあり、吉山さんに振付されたからこそ生まれた作品だと。

振付家とダンサーが、試行錯誤の中で、対話を重ねた先に生まれる相乗効果を観た気がします。

 

↓振付家ギャレット・スミスのYouTubeよりダンスビデオ

 

「ジゼル」よりパ・ド・ドゥ

永久メイ&フィリップ・スチョーピン

 

ここまで正統派ワガノワ・スタイルのジゼルは、久しぶりに観たかもしれません。

上半身を最大限に使いつつ、指先、いえ、その周囲の空気までコントロールしているようにも見える繊細さ。

どこまでも美しく、触れると壊れてしまいそうな、精巧なガラス細工を見ているようでした。

 

逆に言うと、ジゼルの赦しの心や全てを超越した愛を内側から感じるには、あまりにも美しすぎた印象も受けました。

ただ、この正統派の美しさに、深みを増した表現が加わった日には、どのようなジゼルが生まれるのか、よりキャリアを積まれた彼女のジゼルを観てみたいと思わせられる素晴らしさでした。

 

スチョーピンの好サポートもあり、ハッと息を吞むような場面が幾度も。

そして、自然と、あのマリインスキーバレエが誇るウィリーの群舞や、ミルタの姿までが浮かび上がって見えました。

大好きだったマリインスキーバレエ、その舞台に漸く、少しの間ではありますが、再び触れられた気がした時間でした。

 

↓2022年10月の映像

 

 

↓ワガノワ・メソッドのジゼル参考映像。コワリョーワ先生が学生時代のボルチェンコを指導しています。

 

 

「こうもり」よりアダージョ

オリガ・エシナ&ヤコブ・フェイフェルリック

 

リハーサルで怪我をしてしまい、当初第一部で予定していた「ライモンダ」を取りやめたオリガ・エシナですが、「こうもり」は予定通り登場。

たしか、オリガ様は、映像化されているウィーン国立バレエ「白鳥の湖」のプレミアで怪我、その当日は終幕まで踊り切ったものの、翌日以降はすべてキャスト変更となったことがありました。

それが記憶にあったため、舞台姿を観られる嬉しさよりも、無理をして出演してくれたのでは、という不安があったことも事実。

 

ただ、始まってみると、そのような事情は忘れてしまうほど、2人が生み出す世界観に引き込まれてしまいました。

恐らく、「ライモンダ」は出演を見合わせたオリガ様、この一演目に、より一層懸けてくださったのではないかと。

それほど、彼女のラインの美しさに加え、内側から溢れ出るような表現力に魅了されました。

 

↓オリガ・エシナの「こうもり」。ロマン・ラツィクと。

 

小悪魔的なコケティッシュさ、再び愛を得た喜び、すれ違いを経て漸く自分に戻ってきてくれた夫を愛おしく思う気持ち、そうした次々と移ろう想いが全身から溢れ出てきたようで。

今までの彼女は、どちらかというと、悲劇的な役柄のイメージが強かったのですが、この数分間のアダージョだけでも、様々な面を見た気がして流石でした。

 

対するヤコブ・フェイフェルリックも、初役とは思えないほど、役へ入り込んでおり、ガラ公演で終幕のみを切り出した構成にもかかわらず、ここに至るまでのストーリーが全て見える仕上がり。

2人がお互いを信頼しきっているからこそ、初役であり、今は異なるバレエ団で踊っていることを思わせない表現が生まれたと、パートナーシップの素晴らしさを痛感。

かつて、ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテインが、「天国で結ばれたパートナーシップ」と称えられたように、1+1=2以上の相乗効果を生み出すものがあるのだなと。

勝手な想像ですが、オリガ様が直前の怪我にもかかわらず、出演する決断を下したのは、信頼するパートナーが相手だったからかもしれません。

 

↓ヤコブ・フェイフェルリックのインスタより

 
 
「バレエ101」
ザンダー・パリッシュ(ノルウェー国立バレエ)
 
最高に面白かったです!
王子役のイメージが強かったパリッシュが、ここまで弾けたパフォーマンスを見せてくれるとは思ってもおらず、嬉しい驚き。
 
ひたすらナレーションに合わせて、ポーズの組み合わせを見せていくスタイルで、よく覚えられるなと思ってしまいました。
通常の振付を覚えるのとは、また違った難しさがありそうですし、笑いをとりつつも、1つ1つのポーズを美しく魅せられなければ、作品としての面白さが半減してしまうと思うので。
 
最後のブラックユーモア溢れるラストを含め、要所要所で大阪の客席からしっかりと笑いをとったパリッシュでした。
(あのラスト、ヌレエフの振付とかあれくらいのハードさだよねと思ってしまった💦)
 
↓パリッシュのYouTubeチャンネルで、フルで観られます。
 

 

「瀕死の白鳥」

アリョーナ・コワリョーワ(ボリショイバレエ)

 

「瀕死の白鳥」は、数多くのプリマが名演を見せてきた作品ということもあり、まだ若手の彼女には不利なのではと心配していましたが、全くの杞憂でした。

寧ろ、今の彼女だからこそ魅せられる表現があった気がします。

 

↓アリョーナ・コワリョーワのインスタより

 
パ・ド・ドゥでは、ややパートナー探しに苦労するようにも思われる高身長、そして圧倒的なプロポーションが、暗闇の中で際立ち、非常に美しかったです。
アームスの使い方も、私がこよなく愛してきた「ロシアの白鳥」で、どこか懐かしい気持ちに。
 
たしかに、今にも消えてしまうような儚さや、死を受け入れる精神性が見られることが多い「瀕死の白鳥」という演目で、コワリョーワの姿は、どこか若々しく、死がどのようなものかも理解していないようでした。
ただ、その姿が、死にゆく白鳥が最後に見た、幸せだった頃、若さに満ちあふれていた頃の自分の幻ではないか、と思えて、いつもとは違った感動がありました。
 
 
「ドン・キホーテ」よりグラン・パ・ド・ドゥ
アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ&エルネスト・ラティポフ(ミハイロフスキーバレエ)
 
久しぶりに王道のロシアバレエの魂を見た気がしました。
ザ・ロシアという真っ赤なチュチュをまとったヴォロンツォーワが、「帰ってきたでー」と言わんばかりの笑顔で飛び出してきた途端に、会場の空気が一気に盛り上がったのを実感。
 
ア・ラ・スゴンドのハイリフトでの天を突き刺すように上がった脚、限界までキープしたバランス等を見せつつ、それらが決してアクロバットではなく、彼女の表現の一部となっていたのが見事。
第一部でも思いましたが、本当にヴォロンツォーワが、ぎりぎりのところを攻めてくる意気込みを見せ、それがこの「ドン・キホーテ」という作品と相性抜群でした。
 
↓ヴォロンツォーワのインスタより
 
唯一ヒヤッとしたのが、アダージオ中盤でのアラベスク・リフトで、ラティポフの手が滑ったのか、上まで上がりきらない状態が数秒続きました。
「どうか落とさないで…」と思ったのもつかの間、2人の立て直しがお見事で、そこで耐えるのではなく、余裕の表情のヴォロンツォーワを頂点まで抱え上げて、そのままフィッシュダイブへ持込みました!
周囲から「マジか…」というようなざわめきが聞こえてきましたが、私もあのレベルの立て直しは、あまり観たことがなく呆然。
2人の「これくらいで諦めへん!」という心意気というか、ロシアのバレエ教育のド根性を見た気がします。
(2017年のモスクワ国際バレエコンクール、サポートよりも自分のことで必死でヘトヘトだったことを思い出してしまい、ラティポフの成長ぶりに感動。ドゥアド作品も良かったですし、彼も移籍して正解組では?)
 
2人のヴァリエーションもしっかり盛り上がり、いよいよコーダへ。
流石の関西人の私でも「いつぶり?」と思うくらい、もの凄い手拍子が湧き起こり、「悪名高い爆竹手拍子」と言われていたのを思い出し、笑ってしまいそうに😅
 

↓これくらい凄かったです

 

バジルのマネージュから手拍子が湧きおこり、そのままの盛り上がりでフェッテへ突入。

両手を腰にあてたまま、余裕で高速回転を続けるヴォロンツォーワと、大阪名物とされる手拍子の親和性が妙によく、思わず本場ロシアでバレエを観ている気がしてしまいました。

色々言われがちですが、ロシアではこれくらいの手拍子が(「ジゼル」2幕でも)起こっていますし、バレエ団としてダメ、とかでなければ、一体感を伝える意味ではいいかも。

 

ガラ公演はやはりこうでないと!と思わされる盛り上がりで、会場も大興奮!

興奮冷めやらぬ中始まったフィナーレも、各ダンサーが素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。

個人的イチオシは、コジョカルをお姫様抱っこしたまま、グルグルと回転して袖へはけていったワディムです(笑)

 

本当にバレエの素晴らしさを詰め込んだ宝石箱のような舞台で、世界中のステージを旅した気持ちでした。

関西でこのパフォーマンスを見られたことに感謝の気持ちでいっぱいです!

 

そして、3回にわたる長編レポートにお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました!