ずっと楽しみにしていたバレエ公演、「Ballet Musesーバレエの美神2023ー」大阪公演へ行ってきました。

 

 
ここ数年のご時勢を考慮すると、本当に交渉も大変だったと思うのですが、この豪華メンバーが1つの舞台に立っているのは本当に奇跡としか言いようがありません。
大阪バレエ界の偉大なパトロンであられた方が亡くなってから、世界バレエフェスティバル大阪公演も開催はなし。
他の来日公演も、地方公演は次々と削減されていく中、実現したこのガラは、関西のバレエファンにとっては、世界バレエフェスティバルに匹敵するような贅沢な一時です。
 
その期待値の高さを表すように、大阪公演のチケットはソールドアウト。
周りには、バレエを習っているのだろうなというお子様も多くて、こうして小さい頃に観た一流の舞台って一生の糧になるはずで、部外者ながら嬉しかったです。
 
さて、まずは第一部から感想を。
 
「ロミオとジュリエット」よりパ・ド・ドゥ
永久メイ&フィリップ・スチョーピン(マリインスキーバレエ)
 

 

 

永久メイさんのジュリエット、本当に可憐で素敵でした。

演劇的要素の強いマクミラン版等に比べると、ラヴロフスキー版は、どこか様式美の中で踊っているようにも見えます。

でも、その控えめな中でも、溢れ出る初恋の初々しさ、全身の美しいラインから伝わってくる喜びを観て、ロシアバレエの伝統が受け継がれていることを実感。

 

対するスチョーピンのロミオも、ワガノワメソッドのお手本のような美しく、雄大な踊り。

ソロパートは恐らく絶好調ではなかったと思うのですが、彼は本当にパートナーを美しく見せますよね。

こうしたパートナーシップあってこそ、メイさんのジュリエットが輝いていたと思います。

 

実は、私が最後にロシアバレエの全幕を観たのが、2016年マリインスキーバレエ来日公演の「ロミオとジュリエット」。

ロミオは今回と同じスチョーピンでした。

 

それもあってか、「久々にロシアバレエを観た」という気持ちと同時に、「マリインスキーに居るみたい」という感情が。

当たり前のように来日公演を観ていた頃は、そのありがたみを意識できていなかったのですが、ふと「目の前に広がっているのは、マリインスキーの舞台なんだ」という気持ちが湧いてきました。

特にこの1年の国際情勢の影響で、複雑な想いも抱えつつ、画面越しにマリインスキーバレエやボリショイバレエの舞台映像を観ていた私。

その想いがどこか昇華されたような、「ああ、もう一度観られる時が戻ってきたんだ」という静かな実感に満たされました。

 

「PIEL」

吉山シャール ルイ・アンドレ(チューリッヒ・バレエ)

 

私、吉山さんがコンテンポラリー賞を受賞された時の、ローザンヌ国際バレエコンクールレポートが掲載されたダンス・マガジンを持っていまして。

勝手なイメージですが、日本の若いダンサーで、コンテンポラリーで評価されるのって凄いと子供ながら思った記憶があります。

 

↓2007年ローザンヌ国際バレエコンクールでの映像

 

コンテンポラリーに関しては全くの不勉強なので多くを語れないのですが、人間の身体ってこのような使い方ができるのかと驚かされました。

極限まで使いつつ、どこか自由で、内側から声が聞こえてくるようで新鮮な作品。

ガラ公演でコンテンポラリーを観る度に思いますが、こうした新しい作品こそライブで迫力を感じてこそ分かるものがある気がします。

 

↓振付のジャック・ウォルフ(20代前半!)のインスタより2022年5月プレミア時

 
「白鳥の湖」第1幕より王子のヴァリエーション
ヤコブ・フェイフェルリック(ミュンヘンバレエ)
 
オリガ・エシナの怪我のため、急遽追加された演目。
ウィーン国立バレエでかつて踊っていたとはいえ、直前の変更で、ヌレエフ振付の王子のヴァリエーションをあのクオリティーで魅せられるって凄いことだと思います。
 

↓ウィーン国立バレエ在籍時の映像(こちらは第2幕のヴァリエーション)

 
そして、彼の踊りを観ているうちに、心なしかヌレエフ本人が踊っている映像と重なって見えました。
パリ・オペラ座バレエのダンサーで観る時は、やはりオペラ座メソッドが強いため、あまり感じることがなかったのですが、ふとした時の身体の使い方や醸し出すメランコリックな趣に、共通点が見えた気がして。
 
ヌレエフからルグリ、そしてヤコブ・フェイフェルリックへと受け継がれた踊りへの魂を観たようで、不思議な気持ちでした。

 

 

「Cor Perdut」

アンジェリーナ・ヴォロンツォーワ&エルネスト・ラティポフ(ミハイロフスキーバレエ)

 

初見でしたが、もう本当にカッコイイ作品で、惚れ惚れしてしまいました。

マヨルカ出身の歌手マリア・デル・マール・ボネットへの誕生日の贈り物として創作された作品だそう。

 

 
作中で使われているのは、彼女がカタルーニャ語でカバーしたバージョンで、元はアルメニア系音楽家の曲なのですね。
 

↓原曲を作曲したジョン・バーバリアン

 

 

↓スペイン国立バレエHPより作品紹介。ドゥアト自身の踊りも観られます。

 

 

 

ヴォロンツォーワが、本当に素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。

来日前のインスタでの投稿からも、彼女の今回の公演に懸ける熱い想いが伝わってきたのですが、彼女の舞台って本当に全力投球なのですよね。

100%どころか120%、いえ200%くらいの気合で毎回の舞台と向き合っているのが、2階席後列で観ていても伝わってきました。

そして、彼女の溢れ出るパッションが、「失われた心」という意味の情熱的でありつつどこか哀愁漂うこの作品と見事にマッチ。

ロシアバレエで培われた美しいラインと、ドゥアトの振付がぴたっと合わさった時の、ゾクッとするような美しさにやられました。

 

↓ヴォロンツォーワのインスタよりドゥアトとのリハーサル

 
ヴォロンツォーワ、ボリショイバレエ2012年来日公演のポーランドの王女で勢い余って滑って転んだのが、前観た記憶。
↑こんなのを記憶していて、本当に申し訳ない。
そこから、ボリショイが揺れた例の事件の直後に、パッとミハイロフスキーバレエに移籍して、大輪の花を咲かせました。
クラシックはもちろん、こうしたネオクラシックで発揮される持ち味も磨かれて、移籍して大成功だったと思います。
 
ラティポフも、古典バレエより意外とこうしたテイストの作品で光るものがあると思わされました。
とりわけ、ソロパートでの身体美が素晴らしかった。
全幕の来日公演では、やはり古典バレエが中心となるため、新しい魅力を発見する意味でも、ガラ公演って重要だなと。
 
「ジュエルズ」より“ダイヤモンド”
アリョーナ・コワリョーワ&ザンダー・パリッシュ(ボリショイバレエ/ノルウェー国立バレエ)
 
もう登場しただけで、眩しすぎてオペラグラスで直視できず。
NHK大阪ホールでは納まりきらない、ハリー・ウィンストン級の大粒ダイヤがキッラキラ✨
 

 

コワリョーワ、今まで映像と皆様の感想を通じてしか知らず、期待半分、不安半分だったのですが、期待以上に良かったです!

まだ若さで踊ってしまっている部分はあると思うのですが、その思いきりから生まれるダイナミックな動きが見事にハマった時の美しさは唯一無二のものが。

ワガノワ仕込みのラインの美しさと、ボリショイバレエの躍動感が合わさった化学反応に、これから表現力がより磨かれていった時に何が生まれるのか、今後が楽しみです。

 

パリッシュも久しぶりに観ましたが、良いダンサーになったとつくづく実感。

初来日では、「白鳥の湖」パ・ド・トロワでどないしようかと客席で冷や冷やしたのですが、誰もが踊りやすいパートナーではないはずのコワリョーワを相手に、彼女を美しく魅せていたのは流石。

 

夏の英国ロイヤルバレエとはまた違った「ロシアが魅せるダイヤモンド」を堪能しました。

 

こうしてあっという間に終わってしまった第一部。

そして、第二部は、本当に忘れられない想い出となりました。

あまりの長文ですので、続きは次回。