【報告】サンデル教授の「正義」論の功罪(続き)
グローカル座標塾第1回
サンデル教授の「正義」論の功罪
宮部彰
(続き)
③ では、国籍だけで住民が政治決定から排除されているのは公正ではないと賛成論。
2人ほどが参政権は日本人に限るべきだという世間でよくある反対論。
反対論としては、「国籍がない人が日本の政治に参加することは感情的に受け入れられない」「一律反対ではないが、共同体への責任を果たせる在日などに限定すべき」
反論としては「参政権はその社会に積極的にコミットするかどうかで、国籍とは関係ない」
宮部さんは「共同体主義は親密な関係を想定する。同一なものが安心だというのが人間にはある。アメリカでも住みわけか混住かという議論がある。言語問題に代表されるように、同質な方がコミュニケーションが楽で安心だというのがある。欧米の移民問題でもそういうのが背景にある。“感情”というのはそういうこと」
白川さんは「社会的な連帯のためには共同体的関係が必要と言われてきた。だが、現在の社会は国籍の違いよりも、世代間の格差、利害の対立の大きくなっている。そのことをどう考えるのか」
議論は通貨問題まで進んだ。
受講者から「日本は二重国籍を認めないが、米国は認めているし、韓国なども認めてきている」
宮部さんは「世界通貨が必要という立場だが、グローバルな参政権とはどこにあるのかという問題。経済がグローバル化することで国家間対立が強まる要素がある。そうなると外国人への抑圧が強まる。どちらに私たちが向かうのか」
白川さんは「これまでは日本人として同じ感情がある、共同性があると多くの人が思ってきたが、現実の共同性はガタガタに崩れている。崩れてきているから、逆に反中国で団結しようとしているが、そうはいかない。経団連は円高で困ると騒いでいるが、製造業でない業界は関係なく、さめている。日本自身が成り立たなくなっている」
宮部さんは「参政権問題は、共同性という問題をどう考えていくのかという問題。世界的な信頼・連帯をどのように再構築していくのかが問われている」
宮部さんは最後に
「サンデル正義論の評価は冒頭に述べた通り。
サンデルの意義は、自分の主張のきっかけになる思想的な根拠を本人が自覚し相対化するような議論の進め方をしたこと。画期的な面白さだった。
サンデルの限界としては、例えばイラク戦争についてはアメリカの名誉という点から批判している。だが、米軍によって殺されているイラク人・アフガニスタン人の人権には言及しておらず、普遍的人権の観点がない。多文化主義と女性の人権の問題など、共同体の危うさについて自覚が弱い。
共同体的な政治思想的構想に問題があるというのが結論」
白川さんは「サンデルは婚姻制度を肯定している。共同体が持つ抑圧性に無自覚。ただ、自由は自己決定を求める。全ての人が自己決定の重荷を担えるわけではない。逆に共同体主義だとギリシャモデルで全ての人に政治参加を求める」
宮部さんは「サンデルは他の政治思想の限界の指摘にとどまっており、共同体主義の積極的構想を喋っていない」
次回の講座は
第2回 脱成長の経済へ――日本は「元気」でも「強く」なくてもよい
11月19日(金)午後6時半~9時
講師 白川真澄
【転載】見解 「尖閣」諸島(釣魚島)沖漁船衝突事件
≪転載≫
【見解】「尖閣」諸島(釣魚島)沖漁船衝突事件
―― 脱「領土主義」の新構想を
2010年10月13日 みどりの未来運営委員会
http://site.greens.gr.jp/article/41265440.html
9月の尖閣諸島(中国名:釣魚島)海域での中国漁船衝突事件をめぐって、中国側の強硬姿勢、日中両国国民の敵対感情が高まっています。このような事態を招いた日本政府の先の見通しのない対応の責任は重大です。
■領土問題は現実に生じている
日中両国は、これまで、1978年の「日中平和友好条約」締結の際の鄧小平氏の「尖閣論争の棚上げ」「解決は次の世代の智恵に託す」という方針に従って、決定的な対立を回避してきました。2004年の中国人活動家「上陸」で逮捕後すぐに「国外」退去処分にした当時の小泉首相も、この方針を優先させたものと言えます。
ところが今回、日本政府は何ら展望もない中でこれを一方的に破棄しました。現に中国・台湾・日本間で領土問題が発生しているにもかかわらず、「領土問題は存在しない」とすることは、「中国側の主張は無視する」「問題解決のために対話する必要はない」と宣言するに等しいものです。政府は領土問題が生じていることを認め、対話と交渉によって解決するという態度を表明するべきです。
■日本の領有を根本から問い直す
中国の強硬姿勢の背景には、この海域の石油・天然ガスの発見をきっかけにした中国の資源ナショナリズムや覇権主義的な態度があることは明らかです。
一方、日本の領有権の設定は日清戦争中の1895年であり、朝鮮半島と台湾への侵略、領土拡張の戦争の一環として行なわれました。
「歴史的に日本の領土」という主張に対しては、これを否定する歴史資料や論文も公表されています。そもそも、日本政府が領有権を正当化する「無主地先占の原則」(所有者のいない島については最初に占有した者の支配権が認められる)は、帝国主義列強による領土獲得と植民地支配の論理であり、アイヌなど世界の先住民の土地を強奪した法理です。共産党を含む全ての国政政党が当然のように日本の領有権を主張するのは、このような近代日本についての歴史認識の致命的な欠如を表わしています。
■「領土主義」を超えて共同の「保全」を
そもそも国境線は近代の歴史においては極めて恣意的に引かれたものであり、国家同士の利害も衝突します。しかし、私たち「みどり」の依拠する「現地主義」「市民主権」の原則から考えれば、当事者である沖縄、中国、そして台湾の漁民が国籍にかかわらず安心して漁を営むことができる条件を整えることこそが優先されるべきだと考えます。
天児慧氏(早稲田大学)は、紛争の発生している領土領海地域に限定した「脱国家主権」、「共同主権」による解決を主張し、そのために、「当該地域をめぐる諸問題を解決するための専門委員会を設置する」ことを提案しています。加々美光行氏(愛知大学)も、「南極条約」のような領土主権を凍結する国際条約の締結を提案しています。私たちは、こうした考えを基本的に支持します。
同時に、日中両国における脱炭素社会の構築も不可欠です。領土問題が発生している要因ともなっている尖閣諸島の石油・ガス資源については、共同で「開発」するのではなく、将来世代のために東シナ海の美しい生態系を「保全」し、あえて開発しないことが重要だということを提案します。このような賢明な姿勢こそ、両国の対立と地球を「クールダウン」させ、両国の国益にもつながるものと考えます。
国益をかざしたパワー対決や被害者意識に基づくナショナリズムの発露に希望はありません。今、私たちには、「日中両国の次世代」としての智恵が求められています。