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【報告】裁判員制度は本当に必要か?「司法改革」への疑問 宮本弘典講演会

裁判員制度は本当に必要か?
「司法改革」への疑問
宮本弘典さん講演会


4月10日、講演会「裁判員制度は本当に必要か?-「司法改革」への疑問」が都内で開かれた。主催は国連・憲法問題研究会。講師の宮本弘典さん(関東学院大学教員、刑法・刑法史)。
宮本さんは、5月21日から開始されようとしている裁判員制度をはじめとする「司法改革」を検証し、「人質司法・密室司法」の刑事司法を強く批判。


講演で宮本さんは、「司法制度改革の目玉は裁判員制度と法科大学院。「司法改革」の理由は、米国の司法マーケット開放要求の外圧と、グローバル化に対応した迅速な司法を求める財界からの圧力。裁判員制度に関する全国タウンミーティングはやらせ。「私もやってみたい」と発言したのは日当もらって来ていた人たち。
 司法制度改革審議会では、裁判員導入は「この国の形を再構築する一連の諸改革の最後の要として位置づける」。「統治主体意識を有する国民の健全な常識」に基づく裁判が動機とされている。

 現存の社会秩序に同調する国民の声を動員する場として刑事裁判を再構成しようという支配権力側の意図が読み取れる。市民の常識を裁判に反映させようというのなら、無年金障害者訴訟やダム建設差止めなど国家の側が訴えられる側になったときに「統治主体意識を有する国民の健全な常識」が反映される。
 ところが、現在の社会は殺人事件などで被害者意識にシンクロして「犯人」=敵とする。刑事事件の70%を占める窃盗事件は除外し、死刑・無期事件ないし致死事件が対象。これ自体が政治的なセレクション。

 裁判員は公務員と同様、守秘義務違反に刑罰が科される。一般論という形でも裁判員としての経験に基づいて裁判への感想を語ったら、守秘義務違反になる可能性がある。裁判批判の封殺としても機能する。これは公務員の政治活動禁止に代表される権力忠誠義務を裁判員にも課すもの。天皇制国家の刑事法制の復活だ。

裁判員裁判では1件あたり、裁判員6人+補充2人程度。東京では年間2~3万人が裁判所に呼び出され、4000人程度が実際の裁判に携わる。

 争点整理手続きをやったとしても、連日開廷して7日から10日かかる。日本経済を支えていると称しながら、法人税をほとんど払っていないトヨタ、キャノン、日立などの大企業の正社員に裁判員は限定される。
 市民集会で一番多い質問は「裁判員裁判になったら死刑が増えますか?」。判りません。死刑が増えるかどうかと裁判員裁判は関係ない。


 裁判員導入で、有罪率99%超の日本の刑事裁判が改善され、刑事裁判本来の目的である無実の発見が増えるのか。日本の刑事司法がはらんでいる誤判の構造、人身の自由への攻撃的な構造が改善されるのか。この点は絶望的だ。

 日本は国連人権員会から二十何点も刑事司法についても改善勧告されている。先進国でこんな国はない。米国のアブグレイブ、グアンタナモは刑事司法の外側。日本では、同じことが刑事司法の内部で行われている。

あからさまな国策捜査・国策裁判が行われている。立川テント村事件では、集合ポストに自衛隊派兵に反対するビラをポスティングして罰金刑が確定した。そのために75日間も勾留された。大企業にとって目障りになっている労働組合の幹部に対する身柄拘束も日常的に行われている。

 日本の刑事実務で身柄拘束期間は実に長い。日本は代用監獄で警察署に勾留される。取調の実態がわからない「密室司法」。欧米の警察は警察署で勾留できない。日本の刑事司法は国際的に非常識。
 しかも、否認している間は出してくれない。これが人質司法。
 裁判員の調査票にうそを書いても、記入しなくても文書犯罪。最初から少数者を排除した裁判がまともであるはずない。


 事前争点整理は、既に一部の裁判で行われている。
日本は検察証拠の開示制度が未だにない。元々、圧倒的な情報格差の下で裁判官・検察官・弁護人が協議する。ここで被告人が黙秘すると、被告人は何も争わない意思表明だと扱われる。黙秘権の骨抜き。
 争点整理の後、アリバイが見つかっても、新証拠は提出できない。しかも、証拠の目的外使用は刑罰で禁止される。政治事件・公安事件で、証拠を支援者・ジャーナリストに見せて社会に訴えることを禁止する手を周到に打っている。

 事前争点整理に裁判員は参加しない。有罪か無罪だけかを判断する。
 米英の陪審制度では自白調書を証拠として提出できない。松本智津夫事件の自白調書は二万数千頁。素人の裁判員が裁判官と同じく調書を読まなければいけない。自白が有力証拠である限り、密室司法・人質司法の問題は解決されない。

 裁判員裁判が現在の刑事裁判の問題点を改善するのか?答えは、改善点は全くない。
今の刑事裁判の本質が変わらないならば、裁判員裁判は裁判を権利擁護の場ではなく、敵を裁く場として市民間の分断をもたらす。「市民の参加」の美名の下に、人権抑圧的な刑事裁判の実態を正当化する裁判員制度構築を認めてはならない。」


格差と戦争にNO!

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【紹介】七七~七八年三里塚決戦の記憶と意味

【紹介】

七七~七八年三里塚決戦の記憶と意味


三里塚三・二六管制塔占拠三〇周年座談会を振り返る
「正義」と「決戦」の時代は再び訪れるか    宮部彰

座談会 七七~七八年三里塚決戦の記憶と意味
   白川真澄・中川憲一・宮部彰・大森万蔵・吉田和雄・妹尾和郎

資料 三里塚決戦の軌跡(77年1月~79年12月闘争小史)
資料 白川真澄「日本人民にとっての三里塚決戦の歴史的意味」(七七年九~十月)
資料 宮部彰「三里塚3・26管制塔占拠闘争の十周年を迎えて」(八八年三月)

※三十年座談会完全版に資料を増補


B5版68頁 

定価 800円

発行 工人社