要約
- 「犬が好き」のような素朴な題材も、小論文の入口になる。
- 作文は最後に言いたいことがわかる形でもよいが、小論文は冒頭で結論と理由を示すと強い。
- 「犬以外はしない」のような言い切りは反論されやすい。
- 「少なくとも私の経験では」と範囲を限定すると、文章は弱くなるのではなく、むしろ強くなる。
- 同じ文章を複数のAIに添削させると、AIごとに指摘が分かれる。
- AIは正解を出す機械ではなく、「もっともらしい答え」を出す壁打ち相手である。
- AI添削で大事なのは、出てきた答えを採用するかどうかを判断する人間の力。
- 総合型選抜では、きれいな文章よりも、本人の経験・問い・学びたいことがつながっていることが大切。
- AIを使った小論文対策こそ、AIのズレを見抜ける先生の伴走が必要になる。
※この記事は、実際の授業で扱った内容をもとにしていますが、個人が特定されないように、文章・設定・表現は大きく再構成しています。
「私は犬が好きです。」
こういう一文から始まる文章は、高校生の作文ではよくあります。
もちろん、悪いことではありません。
好きなものについて書く。
自分の経験を書く。
理由を考える。
これは、文章を書く第一歩としてはとても大事です。
でも、大学入試の小論文や総合型選抜の文章として見ると、ここからもう一段階、変える必要があります。
なぜなら、小論文では「好きです」で終わってはいけないからです。
大事なのは、そこから問いを立てることです。
たとえば、
「犬が好きです」
で終わるのではなく、
「なぜ人は、動物に安心感を覚えるのか」
「犬のどのような行動が、人間に寄り添っていると感じさせるのか」
「ペットとの関係は、人間の心にどのような影響を与えるのか」
という方向に広げていく。
ここまで来ると、ただの感想文が、少しずつ小論文の入口に近づいていきます。
作文は“最後にわかる”。小論文は“最初にわかる”。
高校生の文章でよくあるのが、最初はぼんやり始まって、最後に言いたいことがわかる形です。
たとえば、こんな書き方です。
「私は犬が好きだ。しかし、ただかわいいから好きなのではない。」
この書き出しは、作文としては自然です。
読者に「じゃあ、なぜ好きなの?」と思わせる効果があります。
でも、小論文では少しもったいない。
小論文では、最初に結論と理由を出したほうが強くなります。
たとえば、こうです。
「私は犬が好きだ。その理由は、犬が人間に安心感を与える存在だと感じるからである。」
このように書くと、読み手は最初の一文で、
「この文章は、犬のかわいさではなく、人間に与える安心感について書くのだな」
とわかります。
つまり、小論文では、読者を最後まで引っ張るよりも、最初に地図を渡すことが大事なのです。
「犬以外はしないと思う」は、少し危ない
もう一つ大事なのが、言い切りすぎないことです。
たとえば、
「犬は人間に寄り添ってくれる。犬以外の動物はそのようなことをしないと思う。」
という書き方があったとします。
気持ちはよくわかります。
でも、読み手はこう思うかもしれません。
「猫も寄り添うことがあるのでは?」
「馬やイルカも人間と深く関わることがあるのでは?」
「それは自分の経験だけでは?」
小論文では、こうした反論が出てきます。
だから、強く言い切るよりも、範囲を限定したほうが文章は強くなります。
たとえば、
「少なくとも私の経験では、犬は人間の感情に反応して寄り添ってくれる場面が多いと感じている。」
こう書くと、どうでしょうか。
主張は弱くなったように見えるかもしれません。
でも、実は文章としては強くなっています。
なぜなら、「自分の経験の範囲では」と限定しているので、反論されにくくなるからです。
小論文では、強い言葉を使うことよりも、どこまで言えるのかを正確にすることが大切です。
では、AIに添削させたらどうなるのか
ここで、少し面白い実験をしました。
同じ文章を、複数の生成AIに添削させてみたのです。
すると、かなり反応が分かれました。
あるAIは、構成をきれいに整えるのが得意でした。
「結論を先に書きましょう」「理由を整理しましょう」と、かなり小論文らしいアドバイスを出してきました。
別のAIは、表現のやわらかさに注目しました。
「この言い方は少し強いかもしれません」「別の動物を否定しているように読めるかもしれません」と、語感に反応しました。
また別のAIは、文章をかなり優等生風に直しました。
たしかに整っているのですが、高校生本人の言葉からは少し離れてしまう印象もありました。
ここが、AI添削の面白いところであり、怖いところでもあります。
AIは、どれもそれらしいことを言います。
でも、同じ文章を見ても、AIによって注目する場所が違う。
褒める場所も違う。
直す場所も違う。
場合によっては、文章の個性を消してしまうこともある。
つまり、AIは「正解」を出しているわけではありません。
その場で、もっともらしい答えを出しているのです。
AIは“答えを出す先生”ではなく、“優秀な壁打ち相手”
私は、AIを小論文指導に使うことには大きな可能性があると思っています。
特に、
- 文章の構成を整理する
- 言い切りすぎを見つける
- 別の表現を提案する
- 反論を考える
- テーマを広げる
こうした作業では、AIは非常に役に立ちます。
ただし、AIに丸投げしてはいけません。
AIが出した添削のうち、どれを採用するのか。
どれは採用しないのか。
どこは本人の言葉を残すべきなのか。
どこは入試の文章として直すべきなのか。
そこを判断する人間が必要です。
特に総合型選抜では、文章がきれいなだけでは足りません。
その生徒が本当に考えていること。
これまでの経験。
大学で学びたいこと。
将来の方向性。
本人らしい言葉。
これらを壊さずに、入試で伝わる形にしていく必要があります。
AIは便利です。
でも、便利だからこそ、使う側の判断力が問われます。
「犬が好き」は、立派な入口になる
最初はただの「犬が好き」でもかまいません。
むしろ、そこに本人の本音があるなら、とてもよい入口です。
大事なのは、そこから問いを立てることです。
「なぜ好きなのか」
「どんな経験からそう思うのか」
「それは人間や社会について、どんなことを考えるきっかけになるのか」
「大学で学ぶテーマにつなげるなら、どんな方向があるのか」
このように掘り下げていくと、感想文は小論文に近づきます。
そして、その過程でAIを使うと、考えを広げるスピードはかなり上がります。
ただし、AIの答えをそのまま信じるのではなく、AI同士の違いを見比べる。
そのズレを材料にして、人間が判断する。
ここに、これからの文章指導の面白さがあります。
AI時代の小論文指導で本当に大事なのは、AIに文章を書かせることではありません。
AIの答えを見て、
「これは使える」
「これは本人の言葉から離れている」
「これはもっと深掘りできる」
「この指摘は正しそうに見えるが、今回は採用しない」
と判断できる力です。
そして、その判断を一緒にできる先生がいると、AIはただの道具ではなく、強力な学びのパートナーになります。









