今宵の遅くにはちぢの流れ星見らるなりかし。


天体の織り成す催しには、我もいとめづれど、
あまりに遅し刻限なるにさすがに起きては有られぬし。


何時まで夜空を見上げられたるや悩みどころなり。


さう言へば、先ほど惟盛殿が何やら長き木筒のごとき物持ちて
うらうらとしたりけるかし。


「其れは何なるや?」と問うたら、
「おや、知らざるや有り、敦盛。汝は勉強不足なるかしぇ。
此は天体望遠鏡と言ひて、天にあるもの悉く観察せらるる優れものなるなりかし」
などとのたまふ。


其れはいみじきと思ひければ、我もいささか触らせて貰ふことにしき。


木筒の先の小さき穴より覗きてみけるにころ、
別段、特に何も変わりしことはなかるなりきけれど。


「斯様にするに、月や星ら大きに見ゆるなり」と、
惟盛殿は木筒の反対側をぐいと上に向かれて覗きき。


するに「あひしたたた」と片目を抑えて痛とは有り。
だうやら木筒の中にあひし屑が目に入りたりしらし。


やほら上に向かれたりせざればよかれど。


「未来の道具といふ物は、中々扱きづら有りものなるかな」
と、目をしぱしぱさされつつ呟く惟盛殿。


彼の木筒は未来の道具なりけるや。


いりたき誰より然様なる情報聞きてきけるや知られざれど、
何の変哲もなき只の木筒にて天体観察あたふわけもなきと思へど。


「いづれのみ流れ星見らるかしや」と、

嬉しさもあり木筒撫いでたりやの人に、
「ちぢ降りてくるるによかりはべるなりかし」と、
我は未来の道具とやらには、あへて触られずにかへりごとしき。

昨日より雲覆ひたるせいか、我の住まうどころは幾分涼しくなりたり。
此の夏の盛りに暑ぞに悩まなかりてよき日あるはありがたき事なり。


然し数日前の蒸し暑ぞには本当に参ひてしまりけるかし。
愛用のぱそこんも調子悪しくなりて、
壊れたるぞかしてはゆかと心配したりき。


精巧なる機械といふはいと便利なる物なるに思へど、
何やにつけて繊細なれど厄介なるかし。


さて、せっかく涼しくなりしひとときなれば、
頭よく回るうちに歌なぞ詠む手習ひせむやと思ひ、筆と硯の用意などしき。


然しもとより、我にとりて歌は苦手なる部類。
中々上手き句浮かびてこざりて困ったものなるかし。


さういりき我の気持ちを見透かすごとく、

内庭の池にて鯉がぽちゃんと身を跳ねらせた。


涼しげなる夏の夕暮れに、飛沫躍らす一匹の鯉や。


然様なる光景のみにも良し一句あたひさうのみれど、

あへてやめておくにせむ。


歌詠みにうんうんと頭悩ませるよりも、
今は黙して、此のひとときの風情を全身にて覚え味はう方が、
我の性格には合ひたるならむが為。
 

あな、嬉しや。

此の雨風呂といふ場所にて、久方振りに幾人やの友あたひき。

我のごとき至らなき者と関わりてくるかし、実にありがたきこと。
斯様にして繋った縁は、すがらをしみゆかざるかしばば有りと思ふ。


其れにしても皆、なるぞかしや美丈夫おほかり驚しき。
彼方の世界にてはいけめん、と言ふや。
きっと女人らよりの評判も高かるならむかし。


ゑ?
何処かから「これを機に女人の口説き方を習ふに良かるかし、敦盛」

などといふ声聞こえてきけれど。


其れは余計なる世話ならむ。
まさしく、彼の御方々は其の道に長けて有りさうではあれど。
我は慎みておく。


さることは惟盛殿に任せておかむ。

何れ惟盛殿も我の友垣方に紹介したひものなるかし。


宵闇の心地良さに惹かれ、近くの小さき川辺を散策しき。
ふと草はらに目をやるに、仄やなる光がいくつか舞ひたり。


かの柔らやにてねんごろなる灯火は、蛍や。


ことしも蛍飛び交う時期になふなりけるかし。


思ひまはしてみるに、あれも実に怪しき虫なるに思ふ。
いりたきどうやりて、かの小さき体より光なるぞ出ださるるならむ。

我々人間はいづれほど我を張りても
爪の先ほども光らすることなどあたはざるにいへど。


いみじかるかし、蛍。


さう思ひまはすに、
何も此の世は人間が一番優れたるわけにてはなかるなりかし。


ところで蛍は、かの光にて求愛の行動を表したるらし。
光の舞にて雄らは雌を巡り、其の技を競ふと聞く。


人は然様なる蛍の光見て「麗し」など「風情あり」などと、
時に歌などにも詠みたりすれど、

当の蛍どもはさやうなる人間らの勝手なる味はひなど知る由もなく、
ただ己が子孫を残す為に、必死になひたるぞやも知られず。


何にせよ、我々の目に麗しき光の競演遊ばせて貰はるるは有り難きこと。
蛍の言の葉話されば、ぜひ「御苦労様」と声かかれたきものなり。

今日は幾分、涼しかりしやうな気がす。
他の地域も同じやうな気候なりせむや。


然しまた明日よりは、暑き真夏日が戻りてくるならむかし。
なほ今盛りの夏なる事には違ひなし。


ゆえにこそ、いささかにも涼しき日あるに、
ことのほか嬉しきものなり。


天候のすさびには悩ませらるる時も多々あれど、
それにてもなほ我々人間は、
然様なる大ひなりなるものに感謝の念を捧げずに有られず。


されど、さもあるかし。
近頃はさういりき畏怖の心を忘りたる者多過ぎにてはなかるや。


日々の暮らしに余裕もなきほど忙殺され、
何時のままにや其れ当たりまへなるに思ひ込む。


余裕を無くした心に感謝の念は生まれず。


これには自戒の意味も込まるるにせむ。


さて今宵は夜の更くるまで、ゆるりと拙き笛なぞ奏づるにすや。
麗しき天つ空へ向かひて。