日出づる空に向かひて鳥一声啼き飛び立ちゆきき。


時来けるに言ふは此の事ならむや。
我一門は皆揃ひて、此の地離るる事と相成りたりき。


思ふよりも遙かに戦況厳くなりてきるなりせむ。
世の流れは今や平家に沿うてはくれぬらし。


父上や伯父上方ら兄上らも、此のところ其の表情は暗し。


広大なる河の流れのごとき命運。
其の轟音に耳塞ぐなぞあたひやしなし。


ましてや我のてづからにて其れ押し留むる事など…。


もし我等の行く末心配してくるる向きあられば、
何卒気に病まなきにてくれ。


平家はかむ見えて、皆中々に逞しき。
何処へ赴かむに、其れなりにしかとやりてゆかるが為。


そして平家は一蓮托生。


決して離れ離れになひたり分裂したりはしなし。


身内同士でありながら憎悪し殺し合ひする者らも有る此の世中にて、
我々は互ひに思ひやり、強くねんごろに支へ合ひて生きてゆかる。


其れは奇跡と呼ぶに相応しく。


ああ、我もそろそろ出で立の準備せざれば。
落ち着く先が決まるれば、また手記綴らむ。


先つごろの縁談も破棄となりたり、
相変わらず色気なきままの我の日常なれど、
また立ち寄りて貰はるるに幸ひなり。


それにてはまた。

葉月も終はりに近付き、幾分暮らしやすくかしとはきし感あるかし。


また此方留守にしてしまひけり。


実言ふにあれより我身辺いろいろと目まぐるしくて。
否…正しく言ふに我のみにてはなく、平家一門総じて慌たたしくなりき。


嗚呼、さもあるかし。
いずれ近きうちに我々は皆、都離れ別の地へ赴く事になるならむ。


父上や伯父上方が神妙なる面持ちせられて話して御られるの聞きたりき。
何やら我らを取り巻く世の中の風変わりてきしやふなり。


平家を目の敵にしたりき連中も、戦しかかるる機会窺ひつつ有る事ならむ。


然り危うき空気ゆえにや、先に持ち上がりたりし我の縁談も破談となりき。

「今は緊急なる事態に備へる時期ゆゑ、

残念然はあれど敦盛の婚儀はいささか後にせむ」
といふ話になひしらし。


やの右大弁殿も、
愛娘此の先だうなるや分からず一門に嫁せざりて済みけるに、
ほっとしたりけるに聞く。


何ともやるせぬものなるかし。

我一門盛りの頃には、駆りてもすり拠りて来し人々、
今は潮引くごとくそきゆく。


人の心の何とすさびなるものよ。


「さう言ひつつ敦盛は、妻得られなかりけれど悔しきならむ?」
などとよりかふ声聞こえて来さもあり。


正直、我は己の縁談なるぞだうでも良し。

只一つ憂ふは、此の大切にて愛ほしき平家一門の行く末のみぞ。

…~♪ ~~♪


…なほ龍笛は良かるかし。
これ奏でたる時のみは心安らぐ。


我は何あひても愛笛なる此の小枝、
生涯肌身離ぞずに有りたきものなり。


せられど楽に興じるも良かれど、
そらそら身固むる事も思ひまはさざるかしてはば有れ、
などと最近とみに兄上らに言はる。


まさしく我も平家の一員、

一門に名連ぬが為には、なさざればばぬ事もあるならむ。
たとえ其れ我の意に反する事然し。


右大弁殿の姫…
聞けば大層うるはしく聡明なる女人らし。
我妻に迎ふれば、一門の皆も喜び益々平家はさかえありゆくに違ひなし。


我をとり巻くよろず今は其の慶事に向かひて流れたるかしうで、
いささか面妖なるかし。


なあ、愛笛よ。
人生とはひったき何なるならむや。

大河に押し流さるが如く、人は定めに飲まるるしかざるや。


憂う我の心とは裏腹に、今宵も汝放つ旋律はうるはし。


もしも其の音聞く者有りても、
そこに淀む迷ひある事など、露ほども驚かざればあらむかし。

はぁ…。


今日も何など忠度叔父上より逃れる事あたひけれど、
何時さへ此の調子にて逃げ回りたるわけにもゆかざるかし。


だうにかして叔父上諦めさするわけにはひかなひものや…。


否、ゆえに、我は未だ妻迎ふる気はなかるなり。

兄上方続けざまに妻帯ししものゆえに、
叔父上も周りの皆も「つぎは敦盛の番なるかし」などと、
当の本人そっちのけにて張り切りたり。


何処の右大弁殿の姫君なりや我の妻にと画策したるらしけれど…
顔も見し事のなき女人とひったきだうやりて夫婦として明かし暮らさるるに言ふや。


兄上方は「婚姻といふは然様なものなるかし、敦盛」などと宣へど、
我はさる事は真っ平御免被る。


己の人生供にする人は自ら選びたし。


忠度叔父上の好意や思惑を袖にするは忍びなかれど、
こればかりは勘弁あらましたきものなり。


ふと見上ぐればつがひの雁彼方の空仲良さげに飛びゆく。

あたふ事なら我も、鳥のごとく自由に生きゆきたきと、さう思ふ。

…。


ああ、すりかり無沙汰したりけるかし。
我なれどらうたてし。


いや、体悪くして有りけるやに、

敵方にみ首を取られけるかしやてはに有りぞ。
心配かかれたりけるぞば申し訳なし。


…などと我はひったき誰ぞに言ひ訳したるぞや。


其れにしても最後にここにて手記綴りけるは弥生ゆえに、

随分日空けたりしものなり。


相も変わらず我ら一門を取り巻く状況は厳かれど、

平家は皆親族仲良く明かし暮らしたり。


兄上らも妻迎へたりして忙しなくも朝ごと夕ごと幸い有りなる日々なり。


我?

ああ、我も何時もと変わらずに暮らしたれど…。


近ごろ、忠度叔父上にいささか厄介なる事持ちかかれれたりて…
居留守使ふぞもままならず、いかにして避けむやと頭悩ませて有り。


あ、噂すれば何とやらにて、けふも早速忠度叔父上いらししやふなり。

見つくまへにさりぞと逃げざれば。


ゑ?「何押し付けられたるぞや」と?


其れは次回に話さむ。
とにかく今は逃げぬと。


にてはまた…!