また久しく日が開きたりけるかし…。
あな、最近は然様なることは珍しくま失せけれど。
何やかにやとどうでも良きようかしことに日々費やして有るうちに、
世はすっかり春の様相呈してきけるかし。
ちらほらと桜の便りも聞かるるごとくなりき。
何処より手折りきけるや、先ほど惟盛殿がおのが身の烏帽子に
桜やら梅やらの枝挿して嬉しさもありしたりけるかし。
まさかとは思へどあれを被ひたりするならむや。
きっと女房らの気引かむにいろいろ画策したるならむ。
人の趣味に口出だすは良くなかるが為、
我は何も見ざりしことにすや。
陽の光が柔らかくなりて、
渡殿にのんびり座るがいと気持ち良し。
はらはらと空より舞ひ降りて来るは桜の花びらや、
其れとも名残りの風花や。
陽に照らされ輝きつつ舞ふ姿は、まさに天女の使ひ。
地の上の我のどころまで降りて来てくるるならむや。
然様なること思ひつつ見上げたりせば、
気紛れなる春の微風向きを変へ、刹那にしてすべて空の彼方へと連れ去にたりき。
ふ…。
未だ我の元へ天女授けてくれぬ恋の神に、少々文句を呟きつつ、
心地よひ微睡みに身預けるとせむ 。