七次元よりの使者第0巻「1 地球の終わりと共に(一)」後編 | 天下泰平

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▶ (プロローグ)落葉の落書き
▶ 七次元よりの使者第0巻「1 地球の終わりと共に(一)」前編

 シュミーという名の人間は身体はまだ小僧という感じの青々しい青年であったが、一万二千年という記憶を持っていた。つまり彼はその年数だけ生きて来たのである。如何なる方法においてか?
 一万二千年前というとムー大陸、アトランティス大陸の没落時期にあたっていた。彼はそこで滅びゆく世界の様々な人間の生き方を見てきた。ムー大陸やアトランティス大陸は一度に没落したのではなかったと言う。彼等の文明は億という単位で続き彼等の科学は現代よりも進んで特に磁性については今日では考えられない程の超科学を持っていたのだ。現代はやっと彼等の科学の入口に立ち入ったという感じである。
 彼等の滅びの原因は何だったのだろうか?それがわかれば今日の世界に大きな教訓となるであろう。それは現代科学から見れば奇妙で不思議な感じを受けるかも知れない。何故ならば我々のエネルギーは石油や石炭、さらには原子力とこの二百年間の内に急激に利用し始めたのだがそれ以前は木炭だけでそれも熱するだけで動力としてではなかった。しかし、彼等は既に原子力以上のエネルギーを知っていてそれに依って滅んでしまっていたのだ。彼等の科学は一部魔法として今日残っている。
 コロンブスがアメリカ大陸を発見したのも彼の手に既に古代の地図と本があって世界は球体である事を知っていたからであった。ただ彼はそれを信じ女王の前で宣言し勇気を持って実行に移したところが偉大なのである。アメリカはその精神をフロンティア精神として受け継いでき、今日それは月に人を送り込むところまで高めてきた。それは海の水平線の彼方に見えない大陸を見つけるのと同じ位の出来事であったのだが一つの国が努力すれば次の世界が何時でも開かれてゆく事を我々に教えてくれている。
 このアメリカ大陸はかつてのムー大陸の植民地であった。
 今から三億五千万年前その時の磁石の北極は日本の近く北緯三十度の地点だという。北緯三十度と言えば世界地図を開いてみればわかる様に黄金の三十度線、つまりエジプト文明・メソポタミア文明・インダス文明・黄河文明と世界の四大文明の発祥地となっている。
 偶然だろうか?
 それだけではない。現代の謎とも言えるエジプトのピラミッド、アガールティ王国という名の地下王国やバーミューダ海峡がある所だ。
 “ ピラミッドは地上王国、ヒマラヤのアガールティは地下王国、バーミューダーは海底王国、現代の人々はこれらのカラクリをまったく知らない。ピラミッドはただのピラミッドではない。あれは地球上の地上に住む人々の運命を完全に支配している装置なのだ。天界人の磁力線攻撃にもびくともしない構造になっている。ましてや人々がこれを破壊しようとすれば恐ろしい霊的力が働いて地獄の中に落とされる。あれは王の墓ではない。物質を制御する三次元コンピューターなのだ。これを知る者が出てこない限り地球は破滅への道を歩む。私が待っているのはこの人なのだ ”
 シュミーは一人暗くなりかけていた夕陽を見ていた。雲海が厚く空には既に位置のずれた星が十字の様に輝きながら現れ始めていた。地上で見る星とは違い、天上の宝石が天に散らばされたという光景である。
 シュミーの心は落ち着いていた。人々に死はあっても既にシュミーは兜率天宮に行ける事が内定されていて滅びる運命から免れていたからであった。
 “ 兜率(とそつ)天より下、夜摩(やま)天以下は末世において滅びる事は昔より知られていた事、色(しき)界は無常なり。
 昔、海王星の彼方からエンマ大王以下十王が第七番目の星地球に植民地統治に来た時以来彼の支配下に置かれた人々は彼と共に滅びる運命にある。
 天の水平線より真の親太陽が出現する時、その強い強磁性光線はヨミの支配者達を滅ぼしてしまう
 黄金の光、何と素晴らしい響きなのだろう!
 その光によって我々の肉体は再構成される。強い人体磁場を持たないと肉体は原子以下に分解されて消えてしまう。身体中に強いエネルギーが光の振動の如く奮えあがる。
 地下王国より真の人類が再び地上に現れ始め、地上天国が再び造られ始める。
 何とこの日を私は待っていたのだろうか!
 だがヨミの支配者達は彼等が滅びるのを恐れて地球をゼロ次元化しようとする。彼等は地球の内部においてブラックホールを造りあげ増大させようとしている。それによって地球支配は続くと思っているのだ。だが違う。太陽の極自体が変わってしまった。勝ったように思えて逆に共に滅びる方向に進んでしまっている。
 宇宙の真理に逆行する勝利者は一人もいない。宇宙の真理はそれらのものを始めから無視してなおも永遠に存在する。だから我々もまた宇宙の真理に従う限り永遠に存在する。
 だが今の地球はその時を待たずしてゼロ次元化しようと軌道上を外れる方向にある。地球の持つ四次元エネルギーは銀河系の外まで拡散されている。これは地球の中のブラックホールの力を強める事になる。これはやがて地上の質量を内に陥没させる働きをするだろう ”

 天空に金星と土星それに木星が並び始めていた。
 木星は異様に強弱の光を放っていた。そしてサソリ座アンタレスがルビーの様に夜空に浮かびあがるとその近くに火星がまるで血の色の如くその赤味を見せていた。
 中国の言い伝えに、「螢惑、心に迫る」つまり火星を中国では螢惑と呼びそれが心宿(アンタレス)に近づく事を最も不吉な事が起こる前兆と言われている。
 “ 夜摩天宮サソリ座アンタレスよりイエスは降りられた。そして今は兜率天宮において釈迦牟尼仏のもとで修業をなされ衆生救済の時を待っていると言う。火星はかつて地球の植民地でアメリカインディアンがヨーロッパ人に浸略、統治された様に地球人に滅ぼされたと聞く。それは火星が丁度今の地球と同じ軌道上を通り地球は今の金星の軌道を通っていた頃だと聞いた。
 この悪しき輪廻が又行われると金星人達天界人は地球を統治植民地化する恐れがある。彼等にとって今の地球の状態は核戦争やエネルギーの多大な発散、そして磁場の変化は彼等金星人にとっても危険な状態であろうし、正義的行為のつもりで地球に干渉してくるのだろう。だがそれは地球上に大きな混乱と革命を引き起こすだろう。地球の人々は何も知らない。彼等は様々な国の利害的教育をうけ企業マスコミによって操作されていて何が行われ何を信じていいのかをわからない。そしてただ自分だけの利害によって行動するだけの愚かさだ。彼等には真理に対する判断力はない。
 人々はテレビや雑誌でこれを食べよう、これを飲もうと映し出せば条件反射の如くそれが毒であっても食べたり飲んだりする。人々は科学を知らないし、科学自身経済に組み込まれている事も知らない。
 地球が核戦争によって、あるいは自然災害によって一度滅びればたまたま生き残れた人々も又石器時代に戻ってしまう。彼等は火を起こす事だけでも大変だ。彼等はもはやマッチ一つさえ作れないのだから。今でさえマッチを始めから作れる科学者はあまりいないという状態だし・・・・ ”
 シュミーの心の影はルビー色のアンタレスの輝きによって一層その濃さを増していった。


 「ようこそ、石川さん。我々太陽系連盟は貴方を歓迎します。どうぞここに御座り下さい。今から貴方に非常に興味ある映像をお見せ出来るでしょう。」
 石川雄一という青年は円形テーブルに座りあたりを見廻した。ふと一枚の絵が彼の目に入った。
 「この絵は何でしょう。」
 「これは我々の宇宙の創造神の絵です。」
 “ 創造神・・・ ”
 雄一はそうつぶやいた。その絵に描かれている人の顔はあきらかに雄一と変わらない年代を思わせた。中性的で弥勒の様な優しさが感じられたが創造神らしく知性的な印象を与えていた。
 「私の知っている人に少し似ている様だが。」
 金星人のウイリットンがやや笑いながら、
 「誰にでも似ているのです。人間は創造神に似せて造られたのですから似ていて当然でしょう。もっとも心は相に表現されています。だから創造神と同じ様な心を持った人は段々と創造神に似てくるでしょう。逆に創造神の相を常に見て心に感じる様にすれば私達の心に創造神の心が入ってくるのです。私達はその心によって宇宙と一体感になれるのです。
 つまり創造神は若さと智恵と美しさのシンボルを表しているのです。」
 「若さと智恵と美しさ・・・」
 「そうです。人類は永遠にこれを得ようとする為の戦いです。地球上では資本主義とか共産主義とか様々な主義主張をくり返し争っていますが、それは見かけ上で彼等の求めている物は実はこれなんです。これは昔から変わらない永遠の真理です。人生は常に老いる事との戦いです。老人達が若者達を支配する為には若者達を何かの主義に目を向かせておくのが彼等にとって最良な方法なんでしょう。だがこの様に操作され易いのも若者達に智恵がないからです。若者達は献身的で力も頭脳も情熱も様々な点で老人より優れています。いや老人は退化した人間の姿です。私は年齢五百歳になりますが青年の様に若々しいでしょう。生命とはそういうものです。」
 雄一はニガ笑いした。
 “ 真理という物は何処の宇宙でも通用するんだな。それも決して難しい論理ではない。案外、もっとも簡単な事なんだろう。皆、宇宙の中に生まれ宇宙の中に生活しているのだから ”
 「石川さん。本当の創造神の心を忘れた時から不幸が始まるのですよ。地球の人々は私達を化け物の様に酷い姿で想像している。姿、形は心の持ち方一つで変化してゆくものです。私達の心が創造神によせて宇宙全体感で人々と善意に接している状態がどうして人々から酷く見えるでしょうか?
 いや、そうではなく私達がかつて過去に地球に降りた時には神の如く天使の如く尊ばれたものです。貴方達の記録にも残されていると思います。突然に美の神が出現したとも。」
 「ええ。理解出来ます。私自身若者ですから素直に理解出来るのでしょうけど、この真理は老いたる人には醜い人には愚かな人には素直に理解出来ないと思います。私達地球では一部の老人達によって社会が支配されています。彼等の生きがいは私にはわかりません。私の目に映るのは若い美しい女の子を追いかけている様が印象的に映る位です。それ自体は悪い事だとは思いませんが彼女達は老人を好んでいるからではなく権力や金銭の為に心を失ってしまっているからです。
 昔、アトランティスの黄金の時代の時、王は年を老いると出家して哲人となり政権を若い人に移したと聞いております。そして、時々国が乱れると哲人は王に人道を説くと言います。人の一生はそんなものではないでしょうか。老いるという事は自然に帰すという事、それを自我に我執する為に醜い姿に変わり、それは輪廻によって動物や昆虫などに生まれ変わり、良くて人間に生まれたとしても醜い姿で生まれ変わる。それは若さあっても醜さという姿。それが又悪しき考えと素直な心を持たない生き方をし始め愚人となる。これによって苦しみはさらに増して永遠に続く・・・」
 「石川さん、その様な人々はいつまでも生きてはいられません。既に輪廻の最終段階にきているからです。それが今日の地球です。自然に反する物はいつまでも自然の中には存在していけません。さき程、興味ある映像と言ったのはこの事です。」
 雄一の目の前の空間が突然にスクリーンに早変わって何やら白色光の鮮やかな立体球が映り始めていた。
 それは立体映像であたかも目の前にその物が存在して雄一自身、瞬間に宇宙空間の中に投げ出された様な錯覚を引き起こす位、素晴らしい映像であった。
 「突然なので驚きでしょうがこの立体球こそ貴方達の地球の姿なのです。」
 雄一の目は憂えんでいた。
 「今、貴方方の地球は地軸を二十五度に傾けています。これは非常に危険な事です。我々が貴方達が言うUFOと称する乗物によって警告し続けてきた事はこの事です。
 貴方達のこの地球の地軸の傾きが六十度を超えると自然に自転はストップします。そして、地球は地球自身の重力によって押し潰され、軌道は栓をぬいた風船の様に不規則な曲線を描いて太陽系を離れ始めるでしょう。いや太陽系のみならず銀河系を離れ暗黒の宇宙空間に漂い始める事になりますがそれでも運が良ければの話です。」
 「と言うと?」
 「つまり、地球が軌道を離れるにあたって太陽風や他の惑星との衝突、さらには銀河系の他の星との衝突がなければの話です。地球が平常状態ならば空間に対して陰極を保持し他の惑星もみな空間に対し陰極である為に衝突する事は先ずあり得ないでしょう。しかし、磁性さえが不安定かつ地球自身が急激な崩壊を起こし始める段階では何とも言い難いのです」
 雄一はすぐに納得した。だがそうは言うものの自分が長く住んだ地球がそうなっていく姿は感覚的にはなかなか理解出来るものではなかった。
 「地球の存在って、こうして見るとちっぽけで空しいものですね。」
 雄一の言葉に同情的な想いで歩み寄って来た女性がいた。
 「貴方の気持ちは同じ太陽系に住む人達にとって非常に悲しい事です。」
 彼女はもとは金星に住んでいた。身長は一メートル六十センチ位で均整のとれた美しいスタイルの持ち主で皮膚は滑らかで髪は長く金髪であった。顔はもちろん人形の様に美しく可愛かった。
 雄一は一見スウェーデン人に似ていると思った。
 彼女はさも悲しげに首を左右に振って雄一のほほに口づけをした。沈んでいた雄一の心の照れ隠しのせいかやや笑顔を見せていた。彼女もヒョコンとして笑顔で応えていた。
 ウイリットンが又、雄一に語り始めた。
 「貴方の気持ちは良く理解出来ます。それは私達かつて金星に住んでいた人達も同じ様にして母なる金星を離れなければならなかった時はみんな一度は貴方と同じ気持の様に感じたものです。しかも金星のみならずわが太陽系も離れなければならなかった事は非常に残念で悲しい事でした。
 それは貴方達の地球が引き起こす大変動が太陽系に住む人たち全員に悪影響を及ぼすからでした。
 もし、私達が個人的に物を考えたとしたらこの様な地球の身勝手な行動に腹立たしさを感じていたでしょう。我々は彼等地球人の科学的原理を無能にする方法も知っているのです。
 しかし、私達は知らなければなりません。それは私達人類はこの宇宙の中で得なければならない事は限定的な物質や固定的世界観、個人的利害関係であってはならない事、創造神の英知によって造られたこの宇宙の中で創造神が教えようとしている真理を学ぶ事なのです。創造神という言葉に抵抗があるなら昔からあった宇宙そのままの姿という言葉に置き替えてもいいでしょう。」
 「いいえ、創造神という言葉に抵抗はありません。地球で言う神は自己から造り出し自己に合わせた神ですが、その神と混同していませんから創造神という言葉に信頼感を置いています」
 「それは素晴らしい事です。貴方は自我に限定していませんね。私達にはマスターとも言うべき指導者達がたくさんいます。彼等を通して私達は様々な教育を受けて豊かな心を身につけています。
 だから私達はどんな最悪の状態に落ち入ったとしても宇宙の真理に従います。宇宙の真理は全体であるし永遠であるからです。だから肉体という限定した衣は容易に捨て真理に帰する事が出来ます。
 だから今度の事件でも地球人に対して恨んでもいません。
 つまり、私達が母の星と呼んだ金星を失った代わりに私達が得る事が出来た物は実はこの宇宙が母なんだという真理なのです。私達の世界観は今度の件で拡大されたのです。この様な認識は心が一緒に伴わなければなりません。そういう意味で私達は常に豊かな心を身につけようと努力しているのです」
 「雄一さん。私も地球人を恨んではいません」
 この部屋の隅で静かに椅子に座っていた一人の女性がそう話しかけた。
 「私はもとは火星に住んでいました。チルリと呼んで下さい」
 彼女は東洋人的な深い瞳を持っていた。座っていたので背丈はわからないが小柄な感じであった。
 雄一の目には彼女の黒髪が美しく映った。
 彼女は雄一がこの部屋に入った時からじっと雄一を見つめていた様であった。彼女の想いは黒髪をしっとりと濡らしている様に思われた。
 「創造神は私達の内なる部分にも住まわれています。私達も地球人もこの点では何ら相異はありません。ただ違うとすれば私達はこの事を知っているだけで地球人はこの事を知らないだけです。でもそれがどんなに心の豊かさに貧しさを作り出すのでしょう。私が内に秘めている心は私が創造神を愛する様に貴方を愛しているという事なんです」
 <創造神を愛する様に貴方も愛している> この言葉は雄一の今までの習慣からではあまりピーンとはこなかった。『貴方だけを』という言葉の方がピーンときたかも知れない。しかし、彼等地球人を除く太陽系星人にとってはこの言葉は ー 永遠の愛 ー の気持ちを表した美しい表現方法だったのである。
 もちろん雄一はその言葉の深い意味を知らなかった。しかし、たとえ知っていたとしてもこういう場で初対面で人々のいる前で述べる事自体、雄一の今までの習慣からして信じられなかったであろう。
 チルリという女はその言葉を重い言葉で述べたのだが雄一はその言葉を軽く聞き流してしまった。
 少し間があいた。雄一は自分が地球人である事を何か罪深く感じる気がした。ウイリットンは微笑んで、雄一に話かけた。
 チルリはしばらく雄一を見たり下を向いたりしていたが、顔を隠すようにしてドアを開いて部屋を出ていった。
 母船は油の中を滑っているかの様に静かに運行していた。この母船は円筒形で長さは八百メートルあった。この母船の横と後に同じく母船の編隊が列をなしていた。母船は単独で動く事が多くこの様に編隊を組んで行列するのはまれであった。
 太陽系に重大な何かが起きるのだ!

ピーピーピー 緊急事態発生の警告音である。
 「こちら、地球観測機の総合本部である。地球に常備配置した観測機は全て地球の磁場の急激な変動を観測し送信してきた。映像による確認では地球上に輪の様な物が発生、データーによれば地球の地軸は現在三十度に傾いている事が確認されている」
 この突然のニュースに雄一やウイリットンは棒立ちになって室内は一瞬の内に静まりかえった。
 「ただいま土星より円盤の緊急発進の準備が進められており、母船はただちに回収する体制に入るよう指示が出されました」
 ウイリットンや他のメンバーたちは息を切る様にして動き出した。雄一は一体何がこれから起きるのか不安になり、ウイリットンの後を追う様にして声を出した。
 「地球は、地球はどうなるのですか?」
 ウイリットンは後をふり返る余裕もない程に動揺していた。
 「わからない。早過ぎる。早すぎるんだ。我々は早くともこの事態が起きるのは早くても今年いっぱいかかると思った。たったこの二~三日中に地球は大きく変化してしまった。我々のコンピューターはまったくこんな状態になる事を計算していなかった。一体、一体地球に何がおこったんだ」
 雄一はその強い口調に言う言葉がなくなってしまった。一人取り残されて椅子に坐っていると先程の金髪の女性がコップに飲物をそそいで持って来た。
 「雄一さん。大丈夫よ。前もこんな事があって奇跡的に助かったんだから。地球にはまだ私達の知らない未知の力があると思うの」
 「僕もそう思うね。僕の地球だから」
 雄一は笑って応えた。金髪の女性も笑顔で応えて又、忙しそうに部屋を出て行った。
 雄一は又、取り残された。一分がまるで十分、二十分の様に感じ始めた。
 ウイリットンがやがて部屋の中に入って来た。
 「雄一さん。残念ながらこういう事態になって地球に貴方を戻す事は難しくなってしまいました。今、アメリカのUFO連絡協議会に地球の事態変化を送信したのですが、どうやら混乱状態に落ち入っている様です。ヨーロッパではまだ目立った動きはみられない様です。ヒマラヤでは一部の人達が集まり始めている様ですが分断されています」
 「日本のコスモス総合研究所は?」
 「今、何度も送信している様ですが・・・」
 ドアーの開く音がしてウイリットンが振り向くと金髪の女性が声をかけた。
 「ウイリットン船長、コスモス総合研究所と交信が地球特別調査船で行われているそうです」
 「そうか、石川さん。君達の仲間と連絡が取れた様だ。詳しい事はコンピューター記録装置室に行けば交信文が読めるはずだ」
 再び一人のメンバーが部屋の中に入って来てウイリットン船長に伝言文を渡した。船長はそれを受けとって読み始めたが顔は深刻な表情をしていた。
 「石川さん。どうやら地球の時空間は最後の状態において狂ってしまったようです。我々の観測機は地球上で異なる時空間を観測したデーターを送ってきています。これは最悪の状態では地球自身が分解してしまう事を意味しています。つまりゼロ次元化です。そして今、土星では連盟会議が行われているようです」
 ウイリットンはそう言葉に出すとあとは無言で又、部屋の外へ出ていった。雄一は又、椅子に座った。
 ドアを静かにあけて入ってくる女性がいた。雄一は気がつかない様であった。
 「雄一さん」
 雄一はその声に驚いた様に反射的に振り返った。チルリである。
 「あ、チルリさんだったっけ」
 「ええ・・・地球は困った事が起きた様ですね。もし良ろしかったら気分直しにスカイラウンジに案内しましょうか?地球の姿が見えると思います」
 雄一は喜んでうなずいた。チルリは雄一の手に触れ静かに部屋の外に案内する様に出て行った。
外は長い廊下になっていた。百メートルばかり歩いて右横のエレベーターに乗るとエレベーターのドアーが開かれた途端、雄一の目に印象的な宇宙の実像が目に入った。
 宇宙は真暗で無に等しいといった知識はまるで虚事の言葉である。確かに宇宙は暗い。しかし、時々流れる無数の隕石はなお黒い固まりとしてハッキリと見える。宇宙空間はまだそれから比べるとずっと明るいのである。
 「あの光っている物は円盤ですか?」
 雄一の見た物は無数のホタルの様な発光体であった。
 「いいえ、あれは生命の核です」
 「生命の核?」
 「そうです。地球ではこんな事は理解出来ないでしょうが、この宇宙空間は天の海と言った方が適切でしょう。あの光っている物は宇宙の海に浮かんでいる生命体なのです。大きさは質量として量る事は出来ません。あの発光体が様々な星に降りるとその星の低級組成物質を取り込んで生命体を同じ様な状態に高めてゆくのです。それが肉体として表現されているのです。あの発光体は一つ一つが英知の結晶なのです」
 「英知の結晶?」
 「そうです、英知は生命と同質、同質量なのです」
 “ 英知は生命と同質、同質量・・・ ”
雄一はその言葉を印象深く記憶に留めていた。
 「あの生命体は英知によって光るのです。英知が失われれば光も薄れていきます」
 雄一は何となくわかった様な気がした。つまり英知=質量ではなく、英知がこの宇宙の生命体と溶け合い、それが様々な星に降りた時にそれよりも低い次元の物質を取り入れ英知の目的により組み立てる為に英知そのものが既に質量を制御しているからだと考えたからである。
 「宇宙の生命体の中に私達がいるのです。私達は創造神の一部分なる英知の顕れとしてこの宇宙の生命体と混合して人間という表現体をとっているのです」
 「素晴らしいですね」
 雄一は母船から見る宇宙の姿に将に心がこの宇宙空間に帰する想いにかられた。
 「そう、宇宙って素晴らしいんです。だからそれ以上に人間て素晴らしいんです。私達のこの喜びは又、この宇宙の生命と創造神の喜びでもあるのです。
 きっと美しく愛し合っているんだわ・・・・・・・」
 チルリは触れていた雄一の手を強く握りしめ雄一の目をじっと見た。
 二つの心臓が強く結ばれた手を通して鼓動し合い始めていた。
 雄一はもう一方の手をチルリの背中にあてゆっくりと引き寄せた。チルリの美しい胸の曲線が雄一の胸に沈みこむと唇と唇とが静かに重なり合い息の漏れる音が心臓の鼓動をさらに高めていた。
 チルリは息苦しい声で
 「下のラウンジへ行きましょう。二人で休みたいの」
 雄一はチルリに誘われるままラセン階段を降りている時にふと脳裏に何か呼び覚すものを感じた。
 “ 前にもこんな事があったような気がする。記憶以前に。
 いつの日の事だろう・・・・・・・ ”

 地球は不気味な程にこうこうと輝いていた。