カラン……

幾杯めかの褐色の蜂蜜色の液体をあおる。

とたんに揺らぐ視界。ツンとした酒の匂いが現実と幻想と理想の堺をなくしてゆく。

それは、まるで階段を上るか、下っているかのような曖昧さ。

なのに、俺にはわかる。

埃の降り積もった書庫にある大判の文献。

そして、幾つかの愛らしい表紙の花の本をセットにして読む事が、彼女の癖。

喜びに咲き誇る庭園。

見事に手入れをされた花々が踊る。彼女のために。

白く、優雅に美しく、甘く、たおやかに花を傾けて花弁を広げる姿にため息を。。。

改めて考える程の事でもない。

俺の目に映るものの中には彼女が居た。

それは、彼女のテリトリーに俺の場所を作ろうとしていたから

逢いたい

ただ、それだけ。なのに、何故だろう。

こんな簡単な思いを伝えずに、今までよくやってこられた。

離れれば、離れているほどに高らかな喜びに募っていく胸が、今度は苦しい。

届く事の無い思いは、いくつものブックエンドとなっていく。

喜びから絶望へ。

それでも、春がやってくる。

君の花が咲き誇る。


最もくだらない時間の消費方法の一つって何だろう。
例えば寝てばかりだとか、目標のない事だとか?諦める事だとか。

そうだな。きっと僕なら何かを、誰かを。怒り、憎む時間ほど、生きているなかで退屈でくだらない時はないと言うかも知れない。


…いや、むしろ僕は窮屈と感じるかもしれない。

だって、人を怒ったり憎んだりし続けるのは案外大変な事だから。
そう。嫌いという感覚は、どんな記憶のなかでも色濃く残ってしまうのに、自分から努力して鮮明に覚えておく必要はないんじゃないかな?
だから、僕は思うんだよ。
厭うものに意識を囚われるという時間の消費は、ひどく損した気分にならないか?ってさ。



陽が昇って、帳がおりて。
偽りじゃなく、僕の瞼が休むその時まで想っていたい事は、ニタリと笑むようなそれじゃない。春の綻びのような。それでいて秋の豊熟した果実のような。真夏の夜空に静かに浮かぶ星のようなそれなのに。
だのに、怒りや憎しみといった類いの感情は厄介だ。
忘れたくても忘れられない。
囚われたくない。消し去りたい。僕はそういうのに、縛り付けられてしまうだなんて。

あまりにも滑稽だよ。

遠ざけたいものほど、愛しいものより近いだなんて。
まるで子供の好き嫌いのようだね。
嫌いだという言い訳すら矛盾していて、嫌いだと皿の隅に寄せたそれなのに、綺麗に列べだすような。
妙に意識して、好きではないのに構ってしまう。

まったく。呆れてしまうね。そんなかわいい矛盾とかわいらしい嫌い方に。

だから、そんなかわいい矛盾で近付く嫌いを好きになるんだ。
好きではないのに構ってしまうのではなく、好きだから構って嫌われてしまう、不器用な子供のようにね。


1人で呑むお酒は、僕をおしゃべりにさせる

でも、そんな僕が嫌いな君。

”寂しいから”  ”悲しいから”

だから、僕がおしゃべりになるんだと眉間にシワを寄せながら話す君

それ以来の禁酒生活。

多少侘しい生活だけれど、なんでだか意外と楽しい。

何でだろうね、僕は意外と好きだったんだよ、あの生活。

でも、君が僕を独りにさせてくれないから、僕はおしゃべりになれないんだ。

ちょっと寂しい僕を見て、楽しみをさらった君は、至極嬉しそう。

そんな君を見ると、僕ははにかんでしまうんだ

今では、同じアイスをたべて微笑む君と僕。

今までなかった感覚。”君”に話しかけられる素敵。

独りじゃない憂いはなんて心が躍るんだろう。

だから、僕の楽しみを奪った分、君は僕の傍にいて。

奪った楽しみの数だけ、僕と一緒にアイスをたべて。