公害の煽りを食らった海女さんたちが密輸に手を染める「密輸 1970」を観て | パンクフロイドのブログ

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密輸 1970 公式サイト

 

チラシより

1970年代半ば、韓国の漁村クンチョン。海が化学工場の廃棄物で汚され、地元の海女さんチームが失職の危機に直面する。リーダーのジンスクは仲間の生活を守るため、海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負うことに。ところが作業中に税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなり、彼女の親友チュンジャだけが現場から逃亡した。その2年後、ソウルからクンチョンに戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかけるが、ジンスクはチュンジャへの不信感を拭えない。密輸王クォン、チンピラのドリ、税関のジャンチュンの思惑が絡むなか、苦境に陥った海女さんチームは人生の再起を懸けた大勝負に身を投じていくのだった・・・。

 

製作:韓国

監督:リュ・スンワン

脚本:キム・ジョンヨン チェ・チャウォン リュ・スンワン

撮影:チェ・ヨンファン

美術:イ・フギョン

音楽:チャン・ギハ

出演:キム・ヘス ヨム・ジョンア チョ・インソン

        パク・ジョンミン キム・ジョンス コ・ミンシ

2024年7月12日公開

 

本作は海女、密輸王、チンピラ、税関が入り乱れ、相手を欺きながら一攫千金を目論む痛快な娯楽作です。70年代半ばの港町が舞台になっている点も、気が利いています。60年代から70年代にかけては、日本も公害が社会問題になっていたため、化学工場から放出される廃棄物によって海が汚染され、海女さんたちの生活が立ち行かなくなるのが実感できるからです。

 

彼女らはやむなく生活のために密輸に手を染めていく訳ですが、税関の摘発に遭い、チュンジャ以外、全員逮捕されます。そればかりでなく、摘発の際に船長と乗組員一人が事故に巻き込まれ命を落とします。逮捕された海女さんたちにすれば、一人だけ逃げ延び、以後音沙汰のないチュンジャに対しては当然しこりが残り、税関に密告したのは彼女ではないかと疑いすら抱きます。

 

そんなチュンジャも、知らぬ間にクォンの縄張りを荒らしたことから、制裁を受けそうになります。彼女はクォンの制裁から逃れるために彼に取り入り、その挙句、クンチョンに戻らざるを得なくなります。チュンジャはかつての仲間を巻き添えにしてまで助かろうとする振る舞いを見せるなど、些か胡散臭いところがあり、キム・ヘスが演じていなければ、信用ならざる女と断定したくなるでしょう。

 

海女さんたちは出所後も苦しい生活を強いられており、ドリの伝手で時折密輸の手伝いをしています。ジンスクは過去の経緯もあり、チュンジャが持ち込んできた儲け話には耳を貸さないつもりでいましたが、仲間が鮫の出没する海域で漁を行なった末に片足を失い、その手術代を捻出するために危険な作業を請け負う羽目になります。

 

一方、税関の係長のジャンチュンはクォンを監視中に、大きな取引が行われることを察知し、一網打尽にしようと目論みます。ジンスク、チュンジャ、クォン、ドリ、ジャンチュンはそれぞれ思惑を秘めており、騙し騙されつつ、各々の目的を果たそうとする過程が実にスリリングに描かれます。そして、クォンの依頼を受けて密輸の取引が進行する中、2年前に起きた税関の摘発の真相が徐々に明らかになってきます。クォンも相当な悪党ですが、彼を上回るほどの下衆なワルが居たことも分かるくだりにはゾクゾクさせられます。

 

この映画では心理戦を要しながらも、ドリとその手下たちがクォンを襲撃する場面では、なかなかエグいアクションが繰り出されます。クォンと彼の片腕となって働く男が、ベトナム帰りであることを否応なく思い知らされるほど、接近戦は見応えがあります。また、陸地では到底屈強な男には敵わない海女さんたちが、海中ではものの見事に翻弄するクライマックスも用意されています。しかも、鮫の泳ぐ海域で繰り広げられるのですからスリル満点。

 

ろくでなしの男たちに踏みつけにされてきた女たちが反旗を翻す点では、負け犬の逆襲が大好きな当方にはどんぴしゃり。更に、ワルにはワルに相応しい制裁が下される点でも、実に気持ちの良い映画でした。