か弱い女二人が特高警察の刑事や陸軍将校に嬲られる「残酷 黒薔薇私刑」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

「ORGASM」的偏愛ロマンポルノ より

 

今回のラピュタ阿佐ヶ谷の企画は、「ORGASM(オルガズム)」という映画に関する読みものとのコラボです。この“日活ロマンポルノ”の特集では人気作を敢えて外し、近年あまり上映されない珍しい作品、ちょっとクセの強めな作品、内容がハードな作品を揃えており、ほとんど私の観ていない映画ばかりでした。こうした特集が昼間に観られるのはありがたいですね。

 

製作:日活

監督:藤井克彦

脚本:久保田圭司

原案:団鬼六

撮影:畠中照夫

美術:大村武

音楽:山野狩人

出演:谷ナオミ 江角英明 東てる美 五條博 高橋明 小泉郁之助 南ゆき

1975年4月26日公開

 

秋沢家の女中の千世(谷ナオミ)は、令嬢の弓子(東てる美)のお供で墓参に行く途中、列車のトイレの中で陸軍の将校に犯されます。弓子の兄の隆之(五條博)は大学生ですが、反体制派の活動をしているため特高警察に追われていました。二人は隆之の下宿に着いて久しぶりの再会を喜び合ったにも関わらず、突然数人の刑事が押し入って来ます。

 

隆之は下宿から脱走したものの、弓子と千世は警察に連行されます。千世を調べていた主任刑事の冬木(高橋明)は部下に彼女の拷問を命じる一方、弓子には一転してやさしい態度で接します。弓子は冬木の態度に安堵し、隆之の居場所を告げてしまいます。ところが、冬木の部下が部屋から出て行くと、冬木は弓子に襲いかかり彼女を犯してしまいます。

 

それから2年後、ショックを受けた弓子は精神を病み、千世が彼女に付き添って暮らしていました。折しも戦争が勃発し、警察に逮捕された隆之は最前線に送られていました。非常体制を敷かれた国内では、各地に軍が駐留することになり、秋沢邸も将校クラブとして使用されることになります。ところが千世は、陸軍少佐の鳴海(江角英明)と一緒の冬木を目にして、2年前の屈辱の記憶が甦ってきます。

 

そんな中、鳴海の上官の内藤大佐(小泉郁之助)が、肉感的な千世に目をつけます。鳴海は内藤の意を汲み、千世に取引を持ち掛け、彼女は仕方なく応じます。ところが内藤に抱かれた後に、千世は弓子が従兵に犯されているのを目撃し、逆上して従兵を斬りつけてしまいます・・・。

 

本作では共演の東てる美も相当悲惨な目に遭わされますが、基本谷ナオミが徹底的に甚振られる映画です。ただし、過酷な拷問場面はあるものの、白い肌が縄に食い込むといったSM描写は控えめです。寧ろ肉体より精神的に堪える場面が目につきます。

 

最前線に送られた隆之を救うため、千世が陸軍大佐に抱かれるのはまだ序の口。この大佐が戦場での作戦に失敗したにも関わらず、女遊びにうつつを抜かし、挙句の果てに不祥事が起きた際に、鳴海と取引をして隠蔽を謀ろうとする辺り、無能な小物感を醸し出していい味付けになっています。

 

また、激戦地に送られた隆之を戦場で死なせず、盲目のまま帰国させているのも、ヒロインに一瞬希望を持たせつつどん底に突き落とす悲劇として巧い作りをしています。隆之が千世と一緒にレコードを聴いている最中、鳴海が千世を犯す場面では、彼女は隆之に気づかれまいと必死に喘ぎ声を押し殺します。

 

凡百なAV作品では、人妻が浮気中に夫から電話がかかってきて、携帯電話を手に一戦交えながら、気づかれないように必死に耐える描写がありがち。でも似たような状況でも、ロマンポルノ作品のほうが遥かに物語性において秀でており、女が耐える切実さも比べものになりません。

 

ここまではヒロインを責め苛むという点では申し分なかったですが、最後の詰めの甘さが惜しまれます。兄が妹を道連れにして心中するのは唐突であり、妹が精神を病んだ理由を千世から聞かされた以外にも、もうひと手間かけて欲しかった気がします。兄妹心中によって千世に拳銃を持たせるための意図がミエミエで、そこはもう少し粘りを利かせた演出にしてもらいたかったです。

 

しかも、復讐方法にイマイチ芸がありません。特に、冬木の場合は勾留中の千世に対して、豆を床に落とした上で、全部拾ったら釈放すると約束したにも関わらず、約束を守らず更に絶望感を与える前科がありました。こうした格好の前振りがあるのに、あっさり殺してしまったのが勿体ないです。

 

同じ方法を取らなくてもいいから、せめて受けた仕打ちに見合う罰を与えて欲しかったです。一方、鳴海に関しても、死に際に千世に酷い仕打ちをした理由を述べるのですが、却って安っぽくなってしまい、何も説明のないまま息を引き取ったほうが効果的だったように思います。

 

谷ナオミは長らくSMの女王と呼ばれていましたが、彼女の真骨頂は苦痛に耐える切ない表情にあります。サディストにとってはその表情が、只でさえ弱い立場にいる彼女を更に虐めたくなる原動力になっています。マゾヒスティックな芝居に定評のある谷ナオミですが、一度くらいはSっ気のあるキャラクターを演じる彼女も見てみたかったですね。或いは既にそんなキャラの出演作があって、私が知らないだけかもしれませんが・・・。