チラシより
1957年、夏。イタリアの自動車メーカー、フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリは激動の渦中にいた。業績不振で会社経営は危機に瀕し、1年前の息子ディーノの死により妻ラウラとの夫婦関係は破綻。その一方で、愛するパートナー、リナ・ラルディとの間に生まれた息子ピエロを認知することは叶わない。再起を誓ったエンツォは、イタリア全土1000マイルを走るロードレース“ミッレミリア”にすべてを賭けて挑む----。
製作:アメリカ
監督:マイケル・マン
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
原作:ブロック・イェイツ
撮影:エリック・メッサーシュミット
美術:マリア・ジャーコビク
音楽:ダニエル・ペンバートン
出演:アダム・ドライバー ペネロペ・クルス シャイリーン・ウッドリー
サラ・ガドン ジャック・オコンネル パトリック・デンプシー
2024年7月5日公開
本作はイタリアの自動車メーカー・フェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリが、妻のラウラとの冷え切った関係と、会社の苦境が重なった時期に焦点を当てて描かれた映画です。通常の自動車会社は市販車を売る宣伝のためにレースに出場しますが、フェラーリの場合、レースに参戦するために市販車を売っていると、まことしやかに囁かれていて、この映画でもその一端が垣間見えます。
映画はエンツォの家庭事情と苦境に立たされる会社を並行して描いていますが、本妻と愛人の間で四苦八苦するプライヴェートな部分には正直あまり関心がないため、そこの部分に関しては退屈に感じられました。一方、最も興味のあったレースは、クライマックスとなる“ミッレミリア”が始まるまでは、僅かにテスト走行の描写があるくらいで、当初こちらが思い描いていたものとはだいぶ隔たりがありました。
それでも、モータースポーツに疎い私でも、5度のF1ワールドチャンピオンに輝いたファン・マヌエル・ファンジオや、無冠の帝王と称されたスターリング・モスの名前くらいは知っており、彼らがライバル社のマセラティのドライバーとして登場すれば血が湧きたってきます。
ただ、“ミッレミリア”という公道を使用したレースには馴染みがなく、このレースで優勝することの価値、ナビゲイターを乗せた車と乗せていない車との違いが分からなく、レース中にも関わらず市販車らしき車がレースコースを走っていることにも戸惑いを覚えました。因みに映画でも沿道の観客を巻き込んだ事故が描かれていて、このことがきっかけでその後“ミッレミリア”の歴史は幕を閉じたようです。
映画の中ではエンツォの独善的な面が目立つ一方で、老獪でしたたかな面も十分に発揮されていました。特に記者を利用して、フォードをダシに使いながら、親会社であるフィアットに対して資金繰りの揺さぶりをかける辺りは面白かったです。アメリカ映画にしては、1950年代のイタリアの雰囲気を巧く醸し出していたにも関わらず、登場人物の交わす会話が相変わらず英語なのが惜しまれました。