新作を執筆中の作家が妄想と現実を交錯させる「おかしなおかしな大冒険」を観て | パンクフロイドのブログ

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新宿武蔵野館

ジャン=ポール・ベルモンド傑作選 より

 

『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』も4回目になりますが、今回の目玉は『傑作選』では初上映となる「おかしなおかしな大冒険」「ライオンと呼ばれた男」「レ・ミゼラブル」の3本。いずれも未DVD&ブルーレイ化の上に、劇場公開からもだいぶ月日が経っています。「おかしなおかしな大冒険」は51年ぶりの劇場公開と言うことで、まずはこちらを鑑賞しました。

 

製作:フランス イタリア

監督・脚本:フィリップ・ド・ブロカ

撮影:ルネ・マトゥラン

音楽:クロード・ボラン

出演:ジャン=ポール・ベルモンド ジャクリーン・ビセット

         ヴィットリオ・カプリオ モニーク・ターベ マリオ・ダヴィド

1974年6月22日公開

 

フランソワ・メルラン(ジャン=ポール・ベルモンド)は、スパイ小説『ボブシリーズ』で人気の冒険小説作家。しかし、実際の彼は安アパートに住み、女房には出て行かれ、息子とはたまに会食する、しがない作家に過ぎませんでした。メランはメキシコを舞台にした新作を執筆中で、編集長のシャロン(ヴィットリオ・カプリオ)から、原稿を提出するよう催促を受けていました。

 

そんなある日、メルランは同じアパートに住むクリスティーヌ(ジャクリーン・ビセット)と知り合い、彼女に一目惚れします。クリスティーヌはメルランの書く『ボブシリーズ』に興味を持ち、論文にして発表しようとします。メルランはクリスティーヌにちょっかいをかけるシャロンを小説の中で悪党にしながら、新作を完成させていこうとするのですが・・・。

 

冒頭のシーンでメキシコを舞台にしたナンセンスなスパイ喜劇かと思わせておいて、実は三文作家の書くスパイ小説の一部だったことが明らかになります。ここではスパイらしき男が電話ボックスに入って報告を始めると、ヘリコプターが電話ボックスごと吊り上げて海に運んで、そのまま落下させるという大掛かりな仕掛けが施され、挙句の果てに鮫の餌食になります。この海中シーンが真に迫っていて、かなり危険を伴った撮影だったろうと察せられます。

 

この後は今年公開された「ARGYLLE アーガイル」のように、小説の世界と現実の出来事が並行して展開されますが、映画の内容はだいぶ異なります。メルランの小説の主人公は、ジェームズ・ボンドばりのスーパーな活躍をしますが、現実の彼はみすぼらしいアパートに住むしょぼくれた男に過ぎません。

 

家の中は故障だらけで、業者に修理を頼んでも、何かと理由をつけて断られています。この辺りはルイス・ブニュエルを彷彿とさせるシュールな描写になっています。メルランが嫌な想いをさせられた人物を、小説の中で悪党に仕立てやっつける点は、日頃の鬱憤晴らしをしているようでなかなか笑わせます。現実に起きた出来事を妄想に転換させる辺りは、ダニー・ケイの「虹をつかむ男」を思わせもします。

 

そんなメルランの小説に興味を持つのが、女子大生のクリスティーネ。ただし、彼女はメルランの小説自体に関心があるのではなく、小説に人気がある理由を分析し論文として提出するのが目的。メルランの小説は大衆ウケする通俗的な冒険スパイ小説で、彼自身はシリーズ化された小説を書くことに飽きがきています。そんな訳で、主人公が果たして作家としてどのような方向に向かうのかが、この映画の肝となってきます。

 

とは言え、劇中ではサム・ペキンパーを意識したようなスローモーションによる射殺描写も盛り込まれていて、遊び心に溢れています。また、ベルモンドのアクションは抑え気味ながらも、飄々としたキャラクターは、荒唐無稽な小説の場面では水を得た魚の様に似合っています。ジャクリーン・ビセットの美しさは言わずもがなですが、眼鏡をかけた普段着姿にそそられるものがあり、隠しようもないスター性を感じさせました。