若き日の勝新太郎が初々しい「まらそん侍」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

大井武蔵野館になってみた より

 

製作:大映

監督:森一生

脚本:八木隆一郎

原作:伊馬春部

撮影:本多省三

美術:上里義三

音楽:鈴木静一

出演:勝新太郎 嵯峨三智子 三田登喜子 夏目俊二 トニー谷 益田キートン 大泉滉

1956年2月5日公開

 

安政年間、上州安中藩では毎年秋に安中城から碓氷峠の熊野権現まで往復する「遠足の儀」を行なっていました。「遠足の儀」とは現在のマラソンにあたり、各組の競争に勝った5人のうち、海保数馬(勝新太郎)、秋庭幾之助(夏目俊二)の二人は表彰式の席上、家老の宇佐見監物(小川虎之介)の娘千鶴(嵯峨三智子)を見初めます。

 

しかし、次席家老の息子の本多市之丞(大泉滉)が一足先に結婚を申し込んだことを耳にし、二人は自棄酒をあおりに大黒屋に行きます。そこで高崎の顔役政五郎(大邦一公)達とひと悶着あり、数馬は店の看板娘お糸(三田登喜子)に惚れられます。その後、二人は藩校甘雨塾の学長山田三川(佐々木孝丸)に勇気づけられ、監物に会い千鶴に求婚します。

 

千鶴は市之丞の申し出は断りましたが、二人に対してはどちらを選ぶべきか迷います。父親の監物は思いあまって板倉伊代守勝明(十朱久雄)に相談するものの、伊代守と奥方(清川玉枝)の間でも意見が割れます。

 

その頃、泥棒のお紺(旭輝子)、丹九郎(トニー谷)、六(益田キートン)は、政五郎からの依頼で、「遠足の儀」の当日に警備が手薄なのを狙って、安中藩の金煙管を盗もうとしていました。やがて「遠足の儀」の期日が迫り、伊代守は数馬と幾之助のうち、徒競走に勝ったものに千鶴を娶らそうという案を出します。

 

「遠足の儀」の前夜、丹九郎は金煙管を盗み出し、選手の一人に化けて関所を突破しようと試みます。折しも安中藩に江戸幕府の使者が現われ、アメリカ使節ペリーに贈る献上物に金煙管を提供するよう命じます。この騒ぎのうちにいよいよ徒競争が始まるのですが・・・。

 

この映画を初めて知ったのは、1980年代に吉田照美が司会をしていた深夜番組での紹介でした。それから30年以上が経ち、名画座でもなかなか目にする機会はなかったため、観られないかとあきらめていたら、今回の特集で漸く鑑賞することができました。

 

何と言っても勝新太郎の初々しさが目を惹きます。後年の灰汁の強い芝居からは想像できないほど、純真無垢な侍役が新鮮。勝新の正統な二枚目役に対し、他の脇役陣の個性の強さが、いい塩梅に主役を引き立てています。

 

数馬にとって嫌味な敵役となる大泉滉は、安定したコメディリリーフで随所に笑いを取っています。また、トニー谷もそろばん芸を始め、自分の持ちネタを次々に披露し、当時の人気ぶりを窺わせています。ただ、彼に目を奪われるあまりに、相棒役の益田キートンの影が薄くなり、喜劇役者の名優が手持無沙汰だったのは勿体なかったです。

 

小品の喜劇にしては、意外に良く練られた作品になっていて、関所の使い方なども巧いです。数馬と幾之助の勝ったほうに千鶴を娶らせることを伝える場であったり、まらそん侍に化けた丹九郎が名前と役職を問われ四苦八苦したりするなど、単調になりがちな走る場面において程よいアクセントをつけていました。

 

また、次席家老が主席家老に恥を掻かされたことを根に持って、その意趣返しにやくざと盗賊一味と組んで金煙管を盗ませたり、ペリーへの献上物に金煙管が選ばれたことによりサスペンスが生まれたりと、徒競走の裏側で様々な暗躍があることも話を面白くしています。他にも徒競走の場面ではかなりの群衆が沿道につめかけていて、多くの人員を使えたことにも、映画全盛時の一端が垣間見えました。

 

昔の日本映画を観ると、しばしば日本人の危機管理に対しての意識の低さが露呈されますが、この時代劇も例外ではありません。数馬が丹九郎に金煙管の保管場所をペラペラ喋るのも迂闊ですし、マラソン大会で警備が手薄になっていたとは言え、一度盗まれそうになったことがあるにも関わらず、無防備に同じ場所に保管するのも如何なものか。

 

映画は数馬と幾之助のどちらが、千鶴を射止めるかで話が進んでいき、美しい友情物語に相応しく、最後は数馬の粋な計らいによって決着がつきます。でも、千鶴をダシにしてまで数馬と逢おうと策略するお糸の執着ぶりが怖く、果たして数馬の下した決断が良かったのか心配になってきます(笑)。