妻を死に追いやった男に復讐を果たすために・・・「碁盤斬り」を観て | パンクフロイドのブログ

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碁盤斬り 公式サイト

 

チラシより

浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘の絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進と絹は、復讐を決意する。絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び・・・。父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!

 

製作:木下グループ CULEN

監督:白石和彌

脚本・原作:加藤正人

撮影:福本淳

美術監督:今村力

美術:松崎宙人

音楽:阿部海太郎

出演:草彅剛 清原果耶 中川大志 奥野瑛太 音尾琢真 市村正親

         立川談慶 中村優子 斎藤工 小泉今日子 國村隼

2024年5月17日公開

 

囲碁のルールを知らなくても大丈夫かなと思いながら観たのですが、柳田格之進(草彅剛)の人柄が碁の打ち方によって分かればいいので、とりあえず萬屋源兵衛(國村隼)の台詞と雰囲気だけでそれなりに分かったような気になれました(笑)。また、碁石を碁盤の目に打つ音が、そのまま人物の感情に反映されるのもいいですね。映画は小林正樹の「切腹」方式で(と言っても「切腹」ほどスマートではありませんが)、格之進と絹(清原果耶)の父娘が貧乏長屋で清貧な暮らしをしている理由が、徐々に明らかになる構図になっています。

 

妻の死の真相を知った格之進が、仇討に出かける直前、萬屋の番頭徳次郎(音尾琢真)から50両を盗んだ疑いをかけられたため、娘の絹が父親に母親の仇討を果たせるよう、自ら犠牲となって金を工面するのが、観る者の心を揺さぶる展開になっています。尤も、格之進は当初切腹をして身の潔白を証明しようとし、絹が思い留まらせたのですが、切腹しても50両を返しても、結局盗んだ疑いは晴れないのでは?と少々ツッコミを入れたくなります。

 

それはともかく、格之進は仇敵の柴田兵庫(斎藤工)を探すため出立するのですが、時間制限を設けているのが巧いです。絹は50両を工面するため、女郎屋の女将のお庚(小泉今日子)に金を借りたのですが、大晦日までに返さねば苦界に身を沈めねばなりません。普段、お庚は絹に好意的に接しているにも関わらず、商売になると途端に厳格になるのがいいですね。その前振りに彼女は絹の前で、足抜けしようとした女郎をお仕置きする姿を見せており、彼女の冷徹な面も覗かせています。格之進としては妻の仇討と同時に、時間内に娘を助け出す二重の任務が課せられることになります。

 

こうして格之進は、かつて彦根藩で朋輩だった梶木左門(奥野瑛太)と共に、柴田の居所を捜しに行きます。二人は漸く大晦日に行なわれる碁会に柴田が現れることを突き止め、江戸にとって返し柴田と対峙します。その際には、悪党と思われた柴田にも、格之進と対立するだけの理があることを示してもいます。

 

格之進は謹厳実直なことから、殿の覚えが目出度い反面、一部の朋輩から疎ましく思われていたことが、柴田の口から明らかになります。不正を許さないのは武士の本分である一面、格之進が不正を告発したことによって、藩を追われた者と困窮する家族がいたことを柴田は指摘し、格之進が不幸を招いていると糾弾します。それが詭弁であることは確かなのですが、正論を振りかざすのが必ずしも正しいとは限らないのも事実。

 

こうして格之進と柴田は囲碁の勝負と、その後の刀による対決で雌雄を決しようとします。この二人の対決も見どころのひとつですが、最大の見せ場は、濡れ衣を着せられた格之進が、萬屋源兵衛と弥吉(中川大志)にどのような落とし前をつけるのかになります。この映画は比較的予測のつけやすい展開になっていて、題名を見れば容易にオチは予想できます。その点は痛し痒しですね。また、弥吉が主人の源兵衛に相談せずに、勝手に格之進とある約束を交わしたのはいいとしても、そのことを後で源兵衛に報告しないのは、些かご都合主義の面は否めませんでした。そりゃ、源兵衛にとっては寝耳に水のことで聞いてないよとなりますわな(笑)。

 

主役の草彅剛は時代劇に合った顔立ちと端正な佇まいに品があり、なかなか良い配役だったと思います。娘役の清原果耶は和服を身に纏うと、より清楚さと所作の美しさが引き立っていました。また、國村隼はクセ者の雰囲気があるのに、格之進の薫陶を受けてからは急に従順になるのが可愛かったです。気風のいい女郎屋の女将役のキョンキョン、男気溢れる市村正親は儲け役と言えますし、敵役となる斎藤工は得体の知れなさがいい方に働いていました。