チラシより
イタリアでの休暇中、デンマーク人夫婦のビャアンとルイーセ、娘のアウネスは、オランダ人夫婦とその息子と出会い意気投合する。後日、オランダ人夫婦からの招待状を受け取ったビャアンは、家族を連れて人里離れた彼らの家を訪れる。再会を喜んだのも束の間、会話のなかで些細な違和感が生まれていき、それは段々と広がっていく。オランダ人夫婦の“おもてなし”に居心地の悪さと恐怖を覚えながらも、その好意をむげにできない善良一家は、週末が終わるまでの辛抱だと自分たちに言い聞かせるが----。徐々に加速していく違和感は、観る者を2度と忘れることのできない恐怖のどん底へと引きずり込む。
製作:デンマーク オランダ
監督:クリスチャン・タフドルップ
脚本:マッズ・タフドルップ クリスチャン・タフドルップ
撮影:エリック・モルベウ・ハンセン
美術:サビーネ・ヴィズ
音楽:スーネ・クーター・クルステアー
出演:モルテン・ブリアン スイセル・スィーム・コク
フェジャ・ファン・フェット カリーナ・スムルダース
2024年5月10日公開
観る前はミヒャエル・ハネケの「ファニーゲーム」のような胸糞悪くなる絶望映画と思い、確かにその通りでした。ただし、「ファニーゲーム」の若者二人が確信犯の嫌がらせをするのに対し、本作のオランダ人夫妻が単なる善意の押し付けに見える一方で、計算高い狡猾さも見受けられるため、終盤になるまで彼らの本性の見極めが難しかったです。
オランダ人夫妻の嫌な気持ちにさせる振る舞いに対して、ビャアンとルイーセは毅然とした態度で接すれば良いものを、彼らに気を遣うあまり、余計に事態を悪化させてしまいます。特にビャアンは日本人の気性に共通する曖昧な対応をするので、相手に付込まれている感じがして、観ているこちらも歯痒くなります。
それでもルイーセはある時期を境に、言いたいことをぶちまけるようになります。彼女が決定的にパトリックとカリンに不信感を抱いた分岐点は、オランダ人夫妻の寝室で裸になって寝ているパトリックの傍で、娘のアウネスが一緒に寝ていたことにショックを受けたことから来ています。
個人的にはその前の夫婦同士で食事に行く際に、オランダ人夫妻がベビーシッターに外国人の男を雇った時点でもう無理と感じます。ビャアンとルイーセの娘は幼いだけに、オランダ人夫妻の障碍のある男の子と一緒に男のベビーシッターに預けて外食するのは、不安が先に立ってとても食事を楽しむ気分にはなれませんから。
パトリックとカリンは度重なる“やらかし”に関して、自分たちの非を認め一応謝罪するものですから、無碍にできない空気ができてしまいます。しかも、アウネスをオランダ人夫妻の寝室に寝かせた件にしても、ビャアンとルイーセがベッドで一戦交えていた最中に、娘が部屋に入れてと呼んでいるのに無視した件を持ち出し、デンマーク人夫妻の罪悪感を意識させるため、ビャアンとルイーセも引け目を感じてしまいます。この辺りはパトリックとカリンが天然に見えながら、なかなか狡賢いところがあります。
こうしてデンマーク人家族はズルズルとオランダ人家族の家に滞在してしまうのですが、ビャアンがあるものを目撃したことから、漸く逃げ出す決心がつきます。それまでにもデンマーク人一家はこっそりと逃げようとしたのですが、アウネスのお気に入りのヌイグルミが見当たらなかったために、渋々舞い戻ってきた経緯があります。
でも、その時とは状況が明らかに違い、一刻も早くパトリックとカリンから逃れなければならなくなります。これ以降の展開はかなりショッキングな内容で、特に子を持つ親は正視に耐えられない描写になっています。同時にオランダ人夫妻の男の子が障碍者だった理由も腑に落ちてきます。精神が安定していないと、かなりヤラれる映画でした。