「VORTEX ヴォルテックス」「aftersun アフターサン」を観て | パンクフロイドのブログ

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新文芸坐のポイントが3月末で消滅されるので、“家族、記憶と死の情景”と称した二本立てを、貯まったポイントを使用して鑑賞してきました。

 

VORTEX ヴォルテックス 公式サイト

 

チラシより

作家である夫と元精神科医で認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた・・・。

 

製作:フランス

監督・脚本:ギャスパー・ノイエ

撮影:ブノワ・デビエ

美術:ジャン・ラバッセ

音楽:ケン・ヤスモト

出演:ダリオ・アルジェント フランソワーズ・ルブラン アレックス・ルッツ

2023年12月8日公開

 

本作は画面を2分割して、老夫婦の日常、息子が両親の元を訪れた様子等が、2つの視点から同時進行で描かれ、そのスタイルは最初から最後まで貫かれます。また、2つの画面が同じ構図になったり、2つの画面に映る別の人物が同じ動きをしたりと、こだわりの映像になっています。更に、終盤には死者を悼み喪に服するかの如く、片方だけ黒い画面状態が続きます。

 

親子共々辛い状況下にある中でも、父親と息子は秘密を抱えており、家族が一枚岩ではないことも匂わせます。また、老夫婦の住む自宅の構造自体が、夫婦が一緒に暮らしているような雰囲気が感じられず、夫妻や親子関係が破綻しているのではないかと思わせもします。

 

ダリオ・アルジェント主演の興味のみで観ましたが、とにかく気が滅入るのには参りました。二本立ての映画でなければ手を出さなかったでしょう。老妻の死は認知症による事故死として処理されたにも関わらず、本人の意思による自死ではないかと言う疑いも拭いきれませんでした。そのことが、観終わった後でも気分を重くしました。

 

aftersun アフターサン 公式サイト

 

チラシより

思春期真っただ中のソフィ(フランキー・コリオ)は、離れて暮らす若き父・カラム(ポール・メスカル)とトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間をともにする。20年後、カラムと同じ年になったソフィは、ローファイな映像のなかに大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく・・・。

 

製作:イギリス アメリカ

監督・脚本:シャーロット・ウェルズ

撮影:グレゴリー・オーケ

美術:ビルール・トゥラン

音楽:オリバー・コーツ

出演:ポール・メスカル フランキー・コリオ セリア・ローソン・ホール

2023年5月26日公開

 

11歳の娘にしては父親が若過ぎない?

ソフィが生まれたにも関わらずカラムが結婚しなかった理由は?

カラムがギプスをつけている怪我の原因は?

値の張るトルコ絨毯を購入したのは何故?

カラオケ大会でカラムが頑なに歌うのを拒んだ理由は?

 

この他にも、話が進むにつれ、気になってくる点や、疑問に思う点が次々と出てきて、答えや仄めかしが示されるのかと思っていたら、これが物の見事に裏切られます。伏線の回収なぞしゃらくさいとばかりに、放りっぱなしにしているのが却って潔いです。限られた期間の中で交わされる父と娘によるかけがえのない思い出がメインの話なので、細かい点を詮索するのは野暮かもしれません。

 

親子であることを感じさせないカラムとソフィの関係は、友人同士の対等な関係から来る親密さがあります。母と娘の関係性であれば、こうした友人に近い関係も確立できますが、男親の場合だとなかなか珍しいケースと言えます。

 

ひとつには、カラムが父親として未熟な点も大きく関係しているかもしれません。前述のカラオケ大会での依怙地な振る舞い、ソフィが夜遅く部屋に帰ってくるかもしれないのに、部屋に鍵をかけたまま寝入ってしまう迂闊さなど、大人としてどうよ?と問いただしたくなります。ただし、娘のことを大事に思っていることは疑いなく、ソフィに護身術を真剣に授けようとするくだりひとつとっても、娘を護ろうとすることは伝わってきます。

 

この映画ではホームビデオで撮った映像が随所に挿み込まれ、それがまた親子の温かい交流が感じられる道具としていい味になっていました。