シネマスコーレが仲立ちした青春群像劇 「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」を観て | パンクフロイドのブログ

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青春ジャック 止められるか、俺たちを2 公式サイト

 

映画.comより

熱くなることがカッコ悪いと思われるようになった1980年代。ビデオの普及によって人々の映画館離れが進む中、若松孝二はそんな時代に逆行するように名古屋にミニシアター「シネマスコーレ」を立ち上げる。支配人に抜てきされたのは、結婚を機に東京の文芸坐を辞めて地元名古屋でビデオカメラのセールスマンをしていた木全純治で、木全は若松に振り回されながらも持ち前の明るさで経済的危機を乗り越えていく。そんなシネマスコーレには、金本法子、井上淳一ら映画に人生をジャックされた若者たちが吸い寄せられてくる。

 

製作:若松プロダクション シネマスコーレ

監督・脚本:井上淳一

撮影:蔦井孝洋

美術:原田恭明

音楽:宮田岳

出演:井浦新 東出昌大 芋生悠 杉田雷麟

2024年3月15日公開

 

本作は監督自身の青春であり、名古屋にあるシネマスコーレの歴史の一部でもあり、その支配人だった木全純治の映画館経営に関する理想と現実の葛藤、若松孝二の後進への指導など、多岐にわたるドラマから構成されています。主要人物が尖がった者の中で、ギスギスした雰囲気になりがちな人間関係を、木全が和らげる役割を果たしています。また、彼の奥さんがよく出来た人で、夫の転職に難色を示してもおかしくはないのに快く受け入れるのは、木全の人柄も大きいように思います。

 

若松の誘いで名画座の支配人になったものの、時代はレンタルビデオが普及したこともあって、映画館の経営は苦しくなっています。木全にとってこだわりのある映画を上映したくても客の入りが悪く、若松の勧めもあって徐々にピンク映画にシフトしていきます。若松は一般映画もピンク映画も分け隔てなく評価するのですが、木全はピンク映画の上映には抵抗があり、忸怩たる思いを抱きます。しかし、ピンク映画を上映していく内に、彼も良い作品は良いと認めるように変化していきます。

 

木全は開館するにあたって学生のアルバイトを雇い、そのうちの一人金本法子は映画監督志望で自主映画も撮っています。しかし、彼女は屈折した感情の持ち主である上に、自身の出自に関する問題も抱え、映画作りに協力してくれる人がなかなか集まりません。

 

一方、浪人生の井上淳一も映画好きが昂じて、シネマスコーレの常連客となり、強引に若松に弟子入りします。彼もまた映画監督を志望しており、早稲田大学合格後に上京して、実際に若松組の現場の仕事を経験します。ところが、現場では完全に足手まといとなり、何度も若松から罵声を浴びせられては落ち込みます。

 

それでも若松は井上に映画製作の機会を与え、河合塾のPR映像が監督としての初仕事となります。エンドロール中には赤塚不二夫も出演している実際に製作された映像が流れ、それも洒落た演出でした。金本は恵まれた家庭環境で育ちながらスカした態度をとる井上に反発を覚えますが、木全の計らいで、井上が撮影現場で悪戦苦闘する姿を目の当たりにして、彼への見方も変わってきます。

 

若松孝二は破天荒な性格の人物に描かれながらも、気配りのある一面も見られます。木全が林海象の「夢みるように眠りたい」の上映を直訴した際も、馘を賭けることで彼の熱意に応じ、井上に河合塾のPR仕事を任せたのも、彼の浪人経験を買った上での起用とも思えます。前作に続き若松を演じた井浦新の好演もあって、懐の深さが滲み出る魅力的な人物になっていました。

 

劇中には小ネタがいくつも仕込まれていて、かなり楽しめました。中には大林亘彦ファンが怒りそうな台詞もポンポン飛び出し、若松と木全の映画に関する趣味嗜好の違いも垣間見えました。また、バブル前の80年代の空気もよく捉えていて、あの時代を知る者には、思わずニヤニヤしたくなる場面もいくつかありました。

 

ちなみに80年代当時、ビデオデッキを買った際に、サーヴィスとして裏ビデオがつくという噂がまことしやかに流れましたが、実際にあったのでしょうか?私はその恩恵?に与れませんでしたが・・・。