剣豪スター同士の激突 「十兵衛暗殺剣」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

近衛十四郎の柳生武芸帳 より

 

製作:東映

監督:倉田準二

脚本:高田宏治

原作:紙屋五平

撮影:わし尾元也

美術:吉村晟

音楽:鏑木創

出演:近衛十四郎 大友柳太朗 宗方奈美 岡田千代

         河原崎長一郎 林真一郎 香川良介 北龍二 神戸瓢介

1964年10月14日公開

 

琵琶湖に浮かぶ竹生島の湖上では、湖賊が処刑されようとしていました。かつては水の忍者と恐れられていた湖賊も、公儀の力の前に衰退の一途を辿っていました。一方、将軍家指南役を務める柳生新蔭流は、石舟斎から十兵衛に受け継がれていました。そんな柳生一門に対し、松田織部正一門は同門で柳生新蔭流の免許皆伝の実力がありながら、豊臣家の禄をはんだために冷遇されていました。

 

織部正一門の幕屋大休(大友柳太朗)は、柳生新蔭流の正統を証明する印可状と小太刀を受け継いでおり、ある日、馬を走らせていた将軍家光(林真一郎)一行の行く手に立ちはだかります。幕屋は柳生新蔭流の正統を証明するために、同行していた柳生十兵衛(近衛十四郎)に勝負を挑もうとしますが、松平伊豆守(北龍二)に制止されます。

 

幕屋たちは、十兵衛の父である柳生但馬守(香川良介)の道場を襲い、門弟たちを無惨な形で斬り捨てることで挑発します。家光はこの狼藉に対し、十兵衛に幕屋を倒して印可状を奪うように命じます。その頃、幕屋は湖賊の女首領である美鶴(宗方奈美)と手を組み、十兵衛たちを迎え討とうとします。

 

十兵衛たちは湖におびき出され、師範代の庄田(内田朝雄)を始め、選りすぐりの門弟たちは湖族に次々と倒されてしまいます。湖賊から逃げ延びた十兵衛は、篠(岡田千代)に助けられ、彼女の漕ぐ舟で幕屋と湖賊が潜む竹生島に向かうのですが・・・。

 

まずは余談から。幕屋大休が家光に直訴する場面を見て、いつの時代にも作法を弁えぬ愚か者が居ることに苦笑いしてしまいました。そう言えば、園遊会の席で陛下に直接手紙を手渡そうとした不届き者も居ましたなぁ。

 

それはともかく、本作も柳生一族が将軍家御指南役を務めることに不満を抱く一派が、その座から柳生家を引き摺り落として、自分たちが居座ろうとする話です。その根底には、利権の恩恵に与る組織への不満と、不遇をかこつ者の嫉妬の原理が働いています。

 

政財官及びメディアの利権まみれの体質は昔も今も変わりませんが、その一方で、大衆はいつの時代でも、利権を貪る権力者たちへの反発と、能力がありながら日陰に身を置く者たちへの共感を抱きます。製作者側はそうした世間の機微を適確に捉えたからこそ、このシリーズが長く続いたとも思えます。

 

この映画では、湖賊と呼ばれる盗賊一味の存在が肝となっています。十兵衛は少数精鋭主義の下、柳生一門の手練れを引き連れて幕屋の居る竹生島に向かいます。その途中、舟の上で湖賊に襲われます。陸地では剣の腕を思う存分発揮できる柳生一門も、不安定な足場の舟の上では思うような動きが取れず、数に任せた神出鬼没な湖賊の攻撃に為すすべもなく次々と倒れていきます。時折、水中の映像も映し出され、時代劇ではあまり見られない戦闘場面になっています。

 

加えて、妙に艶めかしさがあるのも本作の特徴。幕屋と手を組む湖賊の女首領の美鶴が、協力の証として幕屋に身を委ねる濡れ場も、指が絡み合うのを見せるだけなのにエロティックに感じます。また、幕屋一派に祖父を殺された篠が、部屋の奥に連れ去られるだけで、彼女が手籠めにされるのが判る描写も、控えめな演出が却って想像を掻き立てられ情欲をそそられます。

 

そして、最後に繰り広げられる剣豪スター同士のサシの勝負。単なる殺陣に終わらず、全身水浸しになりながらの一騎打ちは異色と言えます。ラストショットも、中村錦之助主演の「宮本武蔵 巌流島の決斗」まで想起させます。『柳生武芸帳』シリーズは従来の時代劇を踏襲しながら、途中から集団抗争時代劇の色が濃くなってきます。ひとつのシリーズの中で、時代劇の変遷が窺える点においても、時代劇ファンならば観ておいて損はないでしょう。