祖国から亡命してきた家政婦は宝くじで得た金をどう使ったか?「バベットの晩餐会」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:デンマーク

監督・脚本:ガブリエル・アクセル

原作:アイザック・ディネーセン

撮影:ヘニング・クリスチャンセン

音楽:ペア・ヌアゴー

出演:ステファーヌ・オードラン ビルギッテ・フェダースピール ボディル・キュア

1989年2月18日公開

 

19世紀後半、美しい姉妹であるマーチーネ(ヴィーベケ・ハストルプ)とフィリパ(ヴィーベケ・ハストルプ)は、デンマークの辺境にある小さな漁村ユトランドで牧師である老父(ポウエル・ケアン)と貧しい暮らしをしていました。

 

姉のマーチーネには謹慎中の若い士官ローレンス(グドマール・ヴィーヴェソン)が、また妹のフィリパには休暇中の著名なフランス人バリトン歌手のアシール・パパン(ジャン・フィリップ・ラフォン)が彼女たちに求愛するものの、姉妹は父に仕える道を選び結婚することなく年老いていきました。

 

やがて年老いたマーチーネ(ビルギッテ・ファダースピール)とフィリパ(ボディル・キュア)のもとに、パリ・コミューンによって家族を殺され、フランスから亡命してきた女性バベット(ステファーヌ・オードラン)がパパンの紹介でやって来ます。バベットは家政婦として働くことを望みますが、二人は彼女を雇う金がないことを理由に一度は断ります。

 

それでも、老姉妹は無給でもいいから働かせて欲しいというバベットの熱意に折れ、それから14年間バベットは二人の元で仕えました。彼女は家事の遣り繰りが上手で、姉妹にもある程度懐の余裕ができます。その一方で、姉妹の父親が亡くなって以降、村人の信仰心が薄れゆき、諍いが絶えないことに心を痛めていました。

 

姉妹は父の生誕100年を記念し、ささやかな晩餐会を催すことで、再び村人の信仰心を呼び戻し隣人への愛を築こうととします。そんな折、バベットに1万フランの宝くじが当たったという知らせがフランスから届きます・・・。

 

本作は今回の午前十時の映画祭で3回目の鑑賞となります。改めて観ると、心に沁みる名作だったと深く感じ入りました。

 

バベットが宝くじを当てたことにより、老姉妹はてっきり彼女が自分たちの元から去り、フランスに戻ってしまうと思い込みます。一方、バベットは彼女たちの父親の生誕100年を記念して晩餐会を催す際に、フランス料理を出すことを申し出ます。しかも、一切の費用はバベット持ちで。

 

マーチーネとフィリパはバベットの負担になることを心苦しく思い辞退しようとしますが、最終的に彼女の提案を快く受け入れます。バベットはしばらく暇をもらい、彼女の甥の伝手でフランスから食材を取り寄せます。姉妹はバベットに晩餐会の料理を一任したものの、今まで見たことのない食材が運び込まれるのを目にし、天罰が下るのを怖れます。

 

二人は秘かに村人たちと晩餐会では食事を味わうことなく、食事の話題もしないことを申し合わせます。その晩餐会にはかつてマーチーネを見初めながら結ばれなかったローレンス(ヤール・キューレ)も、彼の伯母と共に招待されていました。

 

将軍となったローレンスは舌も肥えており、豪華な料理に舌鼓を打ちつつ、出される食べ物、飲み物を称賛します。実際、スクリーンに映し出される料理の数々は、目にするだけで涎が垂れてくるほど美味しそうに見えます。その一方で、村人たちは姉妹から食事に関することは一切口にしてはならないと厳命されているため、ローレンスとの会話は噛み合わなくなるのが笑えます。

 

バベットは給仕役の少年に適格な指示を出し、ローレンスと伯母を馬車に乗せてきた馭者にも食事のお裾分けをするなど、プロの料理人の矜持と共に気遣いのできる人間性の片鱗を示します。

 

おそらくローレンスは料理を提供する人物の正体を見抜いたでしょうが、バベットと顔を合わせずに、暇を告げて辞去していきます。こうした慎ましやかで節度のある演出には好感を抱いてしまいますね。

 

この映画は感に堪える描写が散りばめられており、その中でも一番心を揺さぶられるのは、宝くじで1万フランを得たバベットの金の使い方です。個人的にはギャンブルや宝くじで得た金と、日々の労働で稼いだ金は別物と思っています。あぶく銭の言葉通り、運で得た金は一瞬にして消え去る使い方が粋と思います。更に言えば形に残らなければ尚良いです。

 

その意味で、得意とする料理で自分を助けてくれた人たちをもてなし、宝くじの金を一切残さず使い切って、再び元の生活に戻っていくバベットの心意気に胸が打たれます。名声や金に惑わされず、周囲の人々へ幸福をもたらすことに喜びを見出す彼女が神々しく映ります。「あの世に持って行けるのは、人に与えたものだけ」という台詞と共に、バベットの生き方と老姉妹の優しさが心に刻まれる逸品です。