小さな村に流れ着いた女性がチョコレートで村人たちの意識を変えていく「ショコラ」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督:ラッセ・ハルストレム

脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス

原作:ジョアン・ハリス

撮影:ロジャー・プラット

美術:デヴィッド・グロップマン

音楽:レイチェル・ポートマン

出演:ジュリエット・ビノシュ ジョニー・デップ

        ヴィクトワール・ティヴィソル ジュディ・デンチ

2001年4月28日公開

 

1959年、フランスの小さな村に一組の母娘がやって来ます。母親のヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘のアヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)は、各地を放浪しながら代々受け継がれてきたチョコレートを広めていました。母娘は老女のアルマンド(ジュディ・デンチ)から借りた物件でチョコレート店を開店します。

 

村人たちからの好奇の目が向けられる中で、ヴィアンヌは希望に合うチョコレートを提供し、チョコレートのもたらす効能から次第に村人たちを惹きつけていきます。ジョゼフィーヌ(レナ・オリン)もそのうちの一人で、常に夫セルジュ(ピーター・ストーメア)からの暴力に悩まされていた。しかし、チョコレートをきっかけに家を飛び出し、ヴィアンヌの店で働くようになります。また、厳格な娘のカロリーヌ(キャリー・アン・モス)と折り合いの悪いアルマンドも、ヴィアンヌの計らいによって、孫のリュック(オーレリアン・ベアレント・ケーニング)と交流できるようになります。

 

その一方で、教会のミサに参加せず、私生児を産んだヴィアンヌの存在は、村長のレノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)を苛立たせます。古い因習に縛られたレノは、村の伝統と規律を守るため、村人たちにヴィアンヌのチョコレート店への出入りを禁じ、妻に暴力を振るったセルジュを信仰の力で更生させようと躍起になります。

 

そんなある日、村に放浪者の一団が船で流れ着きます。レノは彼らを脅威と見做し、村から排除しようとします。同じ境遇にあるヴィアンヌは、流れ者たちのリーダーである青年ルー(ジョニー・デップ)にシンパシーを抱きます。その後、レノや村人たちの風当たりの強さに、ヴィアンヌはアルマンドに悩みを告白。すると、アルマンドは自分の誕生パーティーを流れ者たちと一緒に祝うことを提案します。

 

ヴィアンヌは村人やルーに声をかけ、パーティーの席上でチョコレート料理を振る舞い、その後には放浪者たちの船上で続きを行うことで、村人たちと流れ者たちを繋げさせようとします。ヴィアンヌの試みは無事成功しますが、ルーたちの船が何者かに放火されます。更に、アルマンドが糖尿病で急死。居場所を失くしたヴィアンヌは、嫌がるアヌークを連れて村を出ようとするのですが・・・。

 

本作は今回が初見でした。ほとんど予備知識のない状態で観たため、一歩間違えば社会派の映画になり得る要素が散りばめられていたことに驚きました。異教徒・異文化に対する排除、夫婦のDV問題、古い慣習に縛られた閉鎖的な共同体などを材料にしながら、左派の好む多様性を味付けにして、ポリティカルコレクトネス的に仕上げた作品と言ったら、言いすぎでしょうか。

 

ただし、あまりポリコレ臭を感じさせないのは、食べ物を題材にしている点と、余所者と地元の権力者との対決を鮮明にした娯楽作にしてあるため、社会派の面は薄められています。あらゆる手段で妨害をかけてくる相手に対し、ヒロインがチョコレートによって村人たちを手懐け味方にしていく構図は話として分かりやすいです。そこに流れ者の一団が加わり、敵がより過激な手段を用いて話を盛り上げていくからワクワク感もあります。

 

その一方で、せっかくフランスを舞台にしているにも関わらず、風情に欠けている点が残念。外国を舞台にしたアメリカ映画なので、登場人物が英語で喋る点は半ばあきらめています。でもそのこと以外に、ストレートで単純な笑いはあっても、フランスらしい批評精神に富んだ軽妙洒脱な笑いは不足していたのが物足りなかったです。

 

また、少々ご都合主義なところも目につきました。レノ伯爵がチョコレートを食べたおかげで心変わりするのはお伽話のような映画ですから、そこは大目に見るとしても、ヴィアンヌに反感を抱いていた筈のカロリーヌが、ジョセフィーヌの声掛けひとつで、村を去ろうとするヴィアンヌを押し留める行動をしてしまうのはいくら何でも省略し過ぎ。母親の死をきっかけに心境の変化が起きたのかもしれませんが、そこに至るまでの経緯はきっちり描いておくべきでは?他にもセルジュに放火を指示したと思われるレノが彼を村から追放し、自分はシレッと罪を免れて、ヴィアンヌと和解した形になるのもスッキリしませんでしたね。

 

ヒロインのジュリエット・ビノシュは子を持つ成熟した大人の女性の美しさが際立っていて、ジュディ・デンチはやや偏屈な老女を貫禄と威厳を持って演じきっていました。ジョニー・デップが意外と影が薄かった分、ヴィアンヌの娘を演じたヴィクトワール・ティヴィソルの美少女ぶりが目を惹きました。また、往年のスター、レスリー・キャロンが戦争未亡人を演じていたことは、映画を観た後に気づきました。