某国の諜報員が海軍省に勤める恋人を使って機密を盗もうとする「スパイと貞操」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

新東宝千夜一夜 銀幕の名花 より

 

 

製作:新東宝

監督:山田達雄

脚本:赤司宏三

原作:小坂慶助

撮影:山中普

美術:黒沢治安

音楽:小沢秀夫

出演:沼田曜一 万里昌代 三田泰子 細川俊夫 江見俊太郎 御木本伸介

1960年6月22日公開

 

 

昭和14年、憲兵本部は頻繁に起るスパイ事件を調査するため、特別捜査班をもうけて内偵を続けていました。ところが、井上少尉が軍の機密漏洩を内偵中に、キャバレー“山城”の女給と心中をとげる事件を起こし、手掛かりの糸口が切れます。小坂憲兵少尉(沼田曜一)は情死現場に急行する途中、海軍省軍令部筆生の清川絹子(三田泰子)を轢いてしまい、偶然その場に居合わせた大栄貿易の社長山野直二(細川俊夫)に後を頼みます。

 

小坂が死んだ女給の家を訪ねると、彼女の妹は既に刑事が調べに来ていたと語り、小坂はスパイが暗躍していることを感じます。その後、小坂は設計技師に変装して“山城”の内偵を始めます。一方、山野は絹子を見舞ううちに、二人とも好意を持つようになっていました。

 

やがて、参謀将校たちの鞄を盗み取っていた人物が検挙されます。小坂は黒幕を突き止めるため、その人物を泳がせますが、駅のホームで暗殺されてしまいます。小坂は井上少尉のメモにあった芝浦の港湾会社と洋服店を見張った結果、フィルムを洋服の襟に入れて運ぶ巧妙な手口に気づきます。しかし、小坂がタクシーでスパイを尾行中に撒かれ、洋服店も瞬時に閉鎖されます。

 

手掛かりを失った小坂は“山城”の内偵を続け、彼が邪魔な組織は女給の一人を使って、井上少尉と同様に小坂を毒殺しようとします。しかし、小坂は敵の罠に嵌らず、逆に山野の秘書・田宮摩美(万里昌代)を逮捕することに成功します。切羽詰まった山野は、某国の黒幕からの圧力もあり、絹子に小型カメラを渡して海軍省の機密情報を得ようとするのですが・・・。

 

悪役で鳴らした沼田曜一とソフトなイメージの細川俊夫に対して、本来の役柄を逆にした点に、悪役好きとしては嬉しくなります。細川の演じる山野は、事故に遭った絹子の身分証で彼女が海軍に所属していることを確認した上で接近する点、小坂少尉が敵を追跡中にさり気なく妨害をしている点から、早い段階で彼の正体がほぼ分かります。それに対して沼田の演じる小坂は、直接手を下している訳ではないのですが、女スパイを拷問する場面では、その場に居るだけで邪悪な雰囲気が漂ってくるのが、悪役を得意とする役者の本領が出ています。

 

チャイナが日本から情報を盗むのは今も昔も変わらず、戦時中はスパイを摘発できたからまだ良かったものの、戦後は安全保障に関する法整備が左派の妨害によって遅々として進まず、ザル状態が続いていることを考えれば薄ら寒くなってきます。

 

絹子は中国人と日本人のハーフである山野との色恋によって、図らずもチャイナの手先となって働かざるを得なくなり、海軍から情報を盗み出す羽目になります。憲兵隊は海軍の情報が洩れるのは、内部にスパイが居ると睨み、女子職員にまで疑いの目を向けます。彼女たちへの身体検査、持ち物検査が行われ、絹子が書面を写した隠しカメラをどのようにして検査の目を潜り抜けるかが見どころのひとつになります。

 

こちらは彼女がどのような手を使って、憲兵隊の厳しい検査を出し抜くことができるのかに着目して観ていたのですが・・・。そこを見落とす?憲兵隊、大丈夫?とややガッカリした結果を迎えます。それまで小坂の率いる憲兵隊は、囮捜査で容疑者を特定し、黒幕を炙り出すために目星をつけた人物を敢えて泳がすなど、割と適確な対応をしてきただけに、自らの失点ではなく、敵ながら天晴れと思わせる奇策を講じて欲しかったです。絹子はプロのスパイではなく、堅気の女性であるから、そこまで求めるのは酷かもしれないですが・・・。

 

本作はスパイ映画にも関わらず、メロドラマの要素が濃いです。相思相愛の関係にありながら、所属している組織が敵同士という設定は、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を始めとする古くから続く障害のある恋愛劇で、この映画でも祖国への想いとスパイとして働くことの板挟み、愛する女をスパイとして利用した罪悪感等が、適度なスパイスの役割を果たしています。その一方で、男女の恋愛劇が相乗効果を生むまでには至らず、本来スパイ映画の持つ緊迫感に焦点が当たらず、散漫になってしまったのが惜しまれます。