女子寮の女たちが嫁探しに上京した美男をめぐって恋の鞘当て「美男をめぐる十人の女」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

復活!玉石混淆!?秘宝発掘! 新東宝のディープな世界 より

 

製作:新東宝

監督:曲谷守平

脚本:岡戸嘉外 曲谷守平

原案:岡戸利秋

撮影:岡戸嘉外

美術:麻生治男

音楽:宅孝二

出演:高島忠夫 筑紫あけみ 久保菜穂子 宮城まり子

         高橋豊子 高田稔 江幡絢子 若月輝夫 

1956年10月29日公開

 

男子禁制の女性寮に思わぬ話が持ち上がります。管理人大山あい(藤村昌子)の甥虎彦(高島忠夫)が、丹波笹山の山奥から嫁探しを兼ねて上京し、その間、寮に寝泊りすることになったからです。作家の本多清子(城美穂)、映画女優の姿美子(筑紫あけみ)、新東レコード社長秘書の三原恒美(江畑絢子)などの面々は、早速会議を開き、虎彦の問題を協議します。

 

髭もじゃの山男の虎彦を目にした一同は拒否反応を示しますが、髭を剃ると忽ち美男子へと早変わり。虎彦の滞在は満場一致で可決されます。寮に入った泥棒を捕えたことから、更に虎彦の株は上がり、美子は虎彦を映画会社へ、恒美は自分のレコード会社へそれぞれ売込もうと企みます。

 

その一方で女たちは虎彦をめぐって恋の鞘当ても始まり、虎彦を悩ませます。そんなある日、虎彦は恒美に連れられ、新東レコード社長の奈良(高田稔)に引き合わされます。その席で娘の幾代(久保菜穂子)も紹介され、虎彦は彼女に一目惚れしてしまいます。ところが、このことを知った寮の女たちは、あの手この手を使って、虎彦と幾代の恋路を邪魔しようとするのですが・・・。

 

高島忠夫がモテまくるラブコメの一方で、彼の美声を活かした歌謡映画の一面もあります。高島の主演映画を観るのはこの映画が初めてで、嫌味のないキャラクターは、喜劇向きと言えます。虎彦に絡んでくる女たちはいずれも打算の塊で、彼の才能を売り込みながらも、ちゃっかり中間搾取をして自分の懐を潤そうとしているのが笑えます。

 

尞の女たちは虎彦をめぐってライバル関係にあるのですが、彼が社長令嬢の幾代といい仲になりそうになると、一致団結して二人の仲を裂こうとするのですから現金なものです。散々根も葉もない虎彦の悪い噂を幾代に吹き込んだ挙句、止めを刺すかのように、幾代の結婚式の招待状を虎彦に送ってあきらめさせようとするのですからタチが悪い。

 

虎彦はそれでもあきらめきれず、本人の口からプロポーズの返事を聞くまで納得できないと教会に向かいます。花嫁が教会で結婚式を挙げているところに乗り込んで行くくだりは、マイク・ニコルズの「卒業」の先取りをしています。ただし、「卒業」がバスの乗客の冷たい視線を浴びて必ずしも幸せに終わる訳ではないのに対し、この映画は喜劇映画らしくスマートでハッピーエンドな締め方をします。

 

虎彦が求婚するにあたって、自分の想いを図らずも“間接的な形で”幾代に告白することができたことを踏まえ、誤解の積み重ねによって災いが福と転じて願いが成就する点が何とも粋。虎彦の能天気なキャラクターだからこそ為せる技とも言えます。また、虎彦のお人好しのキャラクターが、大久保女史(高橋豊子)の元旦那を更生させるのにも効いていました。

 

曲谷守平監督の映画は「海女の化物屋敷」「九十九本目の生娘」「女獣」「ソ連脱出 女軍医と偽狂人」と題名だけでもおどろどろしい作品を観てきましたが、正反対のこのような喜劇映画まで撮っているとは知りませんでした。他愛ない恋愛映画と言ってしまえばそれまでですが、疲れている時に観る映画としては、ユルさもあって丁度良いでしょう。